奇形症候群分野|致死性骨異形成症(平成22年度)
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1. 概要 | |
致死性骨異形成症 thanatophoric dysplasiaは1967年にMaroteauxらが独立した疾患として報告した。”thanatophoric”とはdeath bearing (致死性)を意味するギリシャ語であり邦訳すると致死性骨異形成症となる。主な特徴は長管骨(特に上腕骨と大腿骨)の著明な短縮である。 線維芽細胞増殖因子3遺伝子の点突然変異が原因で発症することが判明している。そのX線所見から大腿骨が彎曲(受話器用変形)し、頭蓋骨の変形のない1型 と、大腿骨の彎曲は少なく、頭蓋骨がクローバー葉様に変形した2型に分類される。いずれにおいても肋骨の短縮による胸郭低形成で、ベル状胸郭となり、重度 の呼吸障害を来す。また巨大頭蓋と前頭部突出を示し、顔面は比較的低形成である。 | |
2. 疫学 | |
頻度は出生児(死産を含む)の1/20,000~1/50,000程度 である。重症の四肢短縮を示す致死性の先天性骨系統疾患では最も頻度が高いとされている。理論上は常染色体優性遺伝形式であるが、出生後早期に死亡するこ とが多く、妊孕性のある年齢に至らないため、実際の発症は全例が新生突然変異である。 | |
3. 原因 | |
疾患の原因は線維芽細胞増殖因子3遺伝子の点突然変異による。1型では 複数の遺伝子変異の集中部位が報告され、アミノ酸の置換(Arg248Cys、Ser249Cys、Gly370Cys、Ser371Cys、 Tyr373Cys)や、終止コドンのアミノ酸への置換(stop807Gly、stop807Arg、stop807Cys)などを引き起こす。日本人 ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出 されないものが、~10%程度存在する。2型については全例でLys650Glu変異が検出されている。 | |
4. 症状 | |
児は著明な四肢長管骨の短縮を認め、これは特に近位肢節に著しい。頭蓋骨は巨頭を示し、前頭部突出と鼻根部の陥凹が顕著である。胸郭は低形成でこれによる呼吸不全症状を示す。また腹部膨満と相対的な皮膚過剰による四肢皮膚の皺壁などが特徴である。 本疾患は妊娠期間中にその可能性を疑われることも多く、胎児の段階では妊娠16~18週といった妊娠中期から著明な四肢短縮を示す。妊娠20週の後半から はほとんど大腿骨の伸長はみられず、妊娠30週頃からは羊水過多を伴うことが多い。これらの所見があれば本疾患が疑われ、先端的な医療としては羊水細胞を 用いたFGFR3遺伝子の変異を検出することで確定診断が可能である。ただし、遺伝子診断では本疾患であれば診断は確定するが、他の骨系統疾患の場合には 診断は不明のままである。そこで近年は胎児の3次元ヘリカルCTの実施により確定診断にかなり迫ることができるようになり、他の骨系統疾患も含めて診断に 迫ることが可能であることから、実施される頻度が増えてきている。ただしレントゲン被曝の問題があることから適応には慎重である必要がある。胎児は児頭が 大きいことから、分娩予定日前後になると児頭骨盤不適合から経腟分娩が困難になりやすい。 出生後は呼吸不全のため、呼吸管理を行わない限り、早期に死亡することが多い。呼吸管理を行った場合には、長期生存した例が報告されているが、こうした周 産期の積極的な治療に関しては、生命倫理の点からは議論のあるところであるが、現実の対応としては個別の状況での判断が一般的ではないかと思われる。 出生後のレントゲン診断では顔面と頭蓋底の低形成、大きな頭蓋冠と側頭部の膨隆、前頭部突出が特徴である。肋骨の短縮により胸郭は著しく低形成で、ベル型 となる。肋骨も含め長管骨は著しく弯曲しており、特に大腿骨は、正面像で電話の受話器様の変形を示す特徴的な所見である。また長管骨の骨幹端は拡大し、い わゆる杯状変形や棘状変形という所見をみる。脊椎は扁平化し、正面像では逆U字型やH字型を呈するが、椎間腔は保たれる。鎖骨は高位で、肩甲骨は低形成で ある。骨盤は腸骨翼の垂直方向の低形成により方形化を示し、臼蓋は水平化、坐骨切痕の短縮がみられる。 なお、2型では頭蓋の変形がより著明でいわゆるクローバー葉様頭蓋を示す。これは1型よりも側頭部がより顕著に膨隆していることによる所見である。また大 腿骨の短縮の程度は1型よりは軽度で、弯曲は認めないか軽度である。ただし1型でもクローバー葉様変形を認めることもあり、明確に区別できないケースもあ る。 | |
5. 合併症 | |
胸郭低形成に伴う重症の呼吸障害がみられ、死亡の原因となる。 | |
6. 治療法 | |
根治的な治療はなく、対症療法を行う。出生後すぐに死亡する(周産期死亡)ことが多いが、呼吸管理を行えば、長期生存した例も報告されている。 | |
7. 研究班 | |
致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究班 |