重症筋無力症(指定難病11)

じゅうしょうきんむりょくしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.「重症筋無力症」とはどのような病気ですか

末梢神経 と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が 自己抗体 により破壊される自己免疫疾患です。全身の筋力低下、 易疲労性 が出現し、特に眼瞼下垂、 複視 などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型とよんでいます)。 嚥下 が上手く出来なくなる場合もあります。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともあります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

2018年の全国疫学調査では患者数は29,210人、人口10万人あたりの 有病率 は23.1人という結果が出ました。2006年の全国疫学調査の患者数は15,100人でしたので、ここ10年で、患者数は約2倍に増えていることになります。

3. この病気はどのような人に多いのですか

2018年の全国疫学調査によると、男女比は1:1.15で女性にやや多いのが特徴です。発症年齢の中央値は、全体で59歳、男性では60歳、女性では58歳で男性の発症年齢がやや高いことがわかりました。日本人では、5歳未満に一つのピークがあるとされてきましたが、全体の2.5%であり、前回(2006年)の調査の7.0%に比べ、目立たなくなっています。50歳以上に発症した患者は66.1%で、前回(2006年)の41.7%より増加しています。特別な地域や職業歴と重症筋無力症発症の因果関係はありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

神経筋接合部の筋肉側(信号の受け手)に存在するいくつかの分子に対して自己抗体が産生され、神経から筋肉に信号が伝わらなくなるために筋力低下が起こります。自己抗体の標的として最も頻度の高いのがアセチルコリン受容体で全体の85%程度、次に筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)で全体の数%と考えられています。残りの数%(全体の10%未満)の患者では、どちらも陽性になりません。自己免疫疾患としての標的分子が約90%の患者で明らかになったことになります。しかし、なぜこのような自己抗体が患者体内で作られてるのかは、いまだによくわかっていません。一方、抗アセチルコリン受容体抗体を持つ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併することより、胸腺異常の関与が疑われています。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝しません。遺伝する筋無力症もまれにありますが、これは 先天性 筋無力症候群と言われる神経筋接合部にある特定の分子の遺伝子 変異 による疾患です。自己免疫性の重症筋無力症は遺伝をすることはありません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

筋力低下と易疲労性がこの疾患の症状です。この二つの症状は、骨格筋であればどこにでもあらわれるわけですが、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状がおこりやすいことが特徴です。一方、発語障害や 嚥下障害 などの症状が目立つ患者さんもいますし、四肢筋力低下が強い患者さんもいます。症状が悪化すると、呼吸筋麻痺により呼吸ができなくなることもあり、そのような状態をクリーゼと呼びます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

対症療法と 免疫療法 があります。対症療法として使われるのは、コリンエステラーゼ阻害薬といって、神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤です。ただ、これはあくまでも、一時的な対症療法と考えるべきです。治療の基本は免疫療法で、この病気の原因である抗体の産生を抑制、もしくは取り除く治療になります。抗体の産生を抑制する薬剤には、ステロイド、免疫抑制薬があり、ステロイドは飲み薬としても点滴としても使われています。そのほかには、抗体を取り除く血漿浄化療法、大量の抗体を静脈内投与する免疫グロブリン静注療法、血中IgG濃度を減少させるモノクローナル抗体製剤、補体C5を特異的に阻害するモノクローナル抗体製剤があり、患者さんの症状や状態に応じて、治療方法が選択されています。これらは、体内の抗体を区別なく除去したり、抗体の作用を 非特異的 に押さえたりする治療で、疾患特異的な治療ではありません。ステロイドを大量に長期間飲み続けると副作用などのために生活の質が落ちてしまいますので、治療初期にはある程度の量を使っても、維持量は少量にとどめることが推奨されています。なおモノクローナル抗体製剤は既存の治療で症状の管理ができない場合に使用が可能です。
胸腺の異常として、胸腺腫を合併する場合は、まず外科的にこれを取り除く必要があります。胸腺腫は早期に発見されれば一括して切除でき、 生命予後 の良い腫瘍です。また、胸腺腫がない場合の胸腺摘除術については、国際的な研究で有効性と安全性が示されています。ただし、眼の症状だけ、アセチルコリン受容体抗体が陰性、小児や高齢者に対する有効性は不明です。MuSK抗体陽性患者では、血漿浄化療法の一つである免疫吸着療法、補体C5を特異的に阻害するモノクローナル抗体製剤、胸腺摘除術の効果は期待できません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

特異的な病気のマーカーであり病因でもある自己抗体(アセチルコリン受容体抗体、MuSK抗体)の測定が多くの施設で可能になり(検査会社に委託)、早期診断・早期治療が行われるようになりました。そのため 予後 は比較的良好です。約半数の患者は、発症後も日常生活や仕事の上で支障のない生活を送ることができます。しかし完全に治療が不要になる人は6%程度で、その他の患者さんは治療を継続しています。一方で、治療によってもあまり改善のない患者(難治性MG)が10〜20%ほどいます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

ステロイドや免疫抑制薬を服用中であっても、少ない量で病状がコントロールされていれば健常人と何ら変わることの無い生活を送ることができます。注意する点として、次のようなことがあります。1)ステロイドなどの免疫抑制薬を服用中の場合は、生ワクチンの予防接種を受けることはできません。インフルエンザなどの不活化ワクチンの接種は支障なく、これらの疾患にかからないために、むしろ積極的に受けるべきです。新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンに関しては、感染や重症化を防ぐため接種することが望まれますが、接種前に主治医と相談することが必要です。2)妊娠ならびに授乳において、胎児や乳児に好ましくない影響を与える治療薬があります。これらの点については、主治医によく相談してください。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 神経免疫疾患領域における難病の医療水準と患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月)