リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)

りんぱみゃくかんきんしゅしょう(LAM)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.リンパ脈管筋腫症(LAM)とは?

リンパ脈管筋腫症(LAM)は、平滑筋細胞に似た特徴をもつLAM細胞と呼ばれる異常細胞が、肺、リンパ節、腎臓などで、比較的ゆっくりと増える病気です。ほとんどは妊娠可能な年齢の女性に発症します。肺では、LAM細胞が両側の肺に散在して増加し、それに伴ってのう胞と呼ばれる小さな肺の穴が複数生じ、進行した場合は息切れなどが生じます。呼吸不全という状態になり 酸素療法 が必要になることもあります。海外では1937年に最初に報告され、1977年にカリントンらにより命名されました。日本では1970年に山中と斎木により「び慢性 過誤腫 性肺脈管筋腫症」と言う病名で報告されました。LAMには、 結節 性硬化症(プリングル病とも呼ばれます)という病気に伴って発生する場合(結節性硬化症に合併したLAM)と、単独で発生する場合( 孤発性 LAM)の2種類があります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

どのくらいの患者さんがいるのか実数はわかっていませんが、稀な病気です。日本では、平成15年度と18年度に厚生労働省難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」による全国の医療施設を対象とした2回の 疫学調査 が行われ、264人の患者さんの情報が集まりました。その結果、日本でのLAMの 有病率 は人口100万人あたり約1.9〜4.5人と推測されています。海外からの報告でも人口100万人あたり2〜5人と推測されています。平成27年度からLAMは指定難病の対象疾患となりましたが、LAMの毎年の医療受給者数は全国で概ね740~820人程度です。近年ではLAMの診断数が増えた傾向があり、病気への認知度の高まりや画像診断技術の向上が影響したのではないかと考えられます。
一方、結節性硬化症に合併するLAM患者さんの詳細な患者数はわかっていません。結節性硬化症患者さんの女性の肺には、3~4割でのう胞性変化(LAMと考えられます)が認められると報告され、わが国の結節性硬化症に合併するLAM患者さんは2,000~4,000人と推測されていますが、実際に診断されている患者数はそれよりも少なくLAM全体の2割を占める程度です。結節性硬化症またはLAMが軽症であった場合など、診断に至っていない場合があるかもしれません。

3. この病気はどのような人に多いのですか?

孤発性LAMも、結節性硬化症に合併するLAMも、ほとんどは妊娠可能な年齢の女性に発症しますが、閉経後に診断される患者さんもいます。稀ですが、男性の報告もされています。30~40歳代で診断される事が多く、人種、喫煙などとの関係は明らかではありません。妊娠、出産や女性ホルモン(経口避妊薬等のエストロゲン製剤)服用で症状が出現したり、病状が悪化したとする報告がみられます。肺機能の悪化もなく正常に出産した報告もあり妊娠出産は必ずしも禁止ではありませんが、母子の健康状態に大きく影響する可能性があるため、医師と十分に相談し慎重に検討しなければなりません。

4. この病気の原因はわかっているのですか?

結節性硬化症では、TSC1またはTSC2という遺伝子に変異が認められます。この遺伝子は、細胞の増殖を調節するタンパク質分子をつくり出します。この遺伝子の変異が原因となって、過剰な増殖能力をもつLAM細胞が出現すると考えられています。孤発性LAMでも、LAM細胞にTSC2遺伝子の変異が検出されると報告され、原因のひとつと考えられています。LAM細胞は、コラーゲンなどを分解する 酵素 を出して肺に穴をあけるのではないかと考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか?

孤発性LAMは遺伝するとは考えられていません。結節性硬化症は遺伝( 常染色体顕性遺伝(優性遺伝) )を示す疾患であり、子供に1/2の確率で遺伝しますが、遺伝しても皆がLAMを発症するわけではありません。また、結節性硬化症では多くの臓器(脳、皮膚、心臓、肺、腎臓、など)でLAM以外の病気も生じやすいのですが、出現程度や組み合わせは様々です。結節性硬化症でもあまり明らかな異常を示さない場合(不全型)もあります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか?

主な症状は肺の病変により出現するもので、 労作時 の息切れ、咳、痰、血痰、喘息様の 喘鳴 などです。また、肺が破れて空気が漏れる 気胸 を生じることがあり、胸痛や呼吸困難がみられます。気胸はしばしば病気を知るきっかけの症状となり、その後も再発を繰り返す場合があります。乳びと呼ばれるリンパ液が胸水や腹水となって貯留することがあり、それに伴う呼吸困難や腹部膨満(腹部の張り)を認めることがあります。腎臓に 血管筋脂肪腫 という腫瘍を生じることがあり、多くは小さく無症状ですが、まれに慢性の腹痛や腰・背部痛を生じることがあります。腫瘍の増大傾向や出血の恐れがあるときは治療が検討されます。腹部にリンパ脈管筋腫と呼ばれる腫瘍を生じることがありますが、多くは無症状で良性の経過です。結節性硬化症では、LAMによる症状の他に、てんかん、皮膚病変など結節性硬化症による症状も認められます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか?

LAMという病気の仕組みが徐々に明らかになり、2006~2010年に日本、米国、カナダで、シロリムスという薬剤の有効性と安全性を確認するために臨床試験(治験)が行われました。その結果、シロリムスにはLAMによる肺機能の低下を防ぐ効果が認められ、比較的安全に投与できる事がわかりました。2012年から、日本国内でさらに治験が開始され、シロリムスは2014年7月、薬事承認され、病院で処方を受けることができるようになりました。LAMでは、患者さんによって病気の重症度や進行スピードが異なります。シロリムスによる治療は、肺機能の低下を認める場合(1秒量が予測値の70%以下の場合や1秒量の年間低下量が90ml以上の場合が目安と考えられています)に考慮されるほか、乳びの貯留(胸水や腹水)に対して考慮されることがあります。また、腎血管筋脂肪腫を合併しているLAM患者さんでは、肺機能の安定化とともに合併している腎血管筋脂肪腫を縮小させる効果も期待できます。シロリムス治療には各種の副作用も認められますので、医師とよく相談して選択する必要があります。結節性硬化症の患者さんの血管筋脂肪腫には、エベロリムスという薬剤も処方されるようになっています。
その他に、症状や合併症のある場合はその治療を行います。肺機能検査で閉塞性換気障害を認める際は、 気管支拡張薬 が症状改善に有効とされます。血液中の酸素量が低下し呼吸不全となった場合は、酸素の吸入を行います。気胸を繰り返す場合、胸膜のカバリング、癒着、外科的治療が必要です。乳び胸水や腹水に対して、内科的または外科的治療が行われます。まれに腎血管筋脂肪腫から出血することがあり、血管塞栓術や外科的処置が必要になることがあります。呼吸不全が進行した場合、肺移植の対象になりますが、肺移植の後にLAMが再発したとの報告があります。
LAMの発病や進行には女性ホルモンが関わっていると考えられ、性腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体、メドロキシプロゲステロンなどのホルモン療法が行われることがあります。これらの治療は有効との報告があるものの、一定の見解は得られておらず、治験も行われていないため、国際ガイドラインでは推奨されていません。今後明らかにすべき課題です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか?

一般に、LAMはゆっくり進行し、肺病変の進行と共に肺機能が低下し息切れ等がみられます。進行のスピードは患者さん毎に異なり、長期間にわたって安定した肺機能を示す方がいることもわかっています。経過中に気胸、乳び胸水・腹水、腎血管筋脂肪腫などの合併症に対して治療が必要となる事があります。日本の疫学調査では、10年後、85%の患者さんが生存されていました。平成21~24年度に特定疾患の新規の医療受給者としてデータ登録された390人のLAM患者さんのうち、約2割において 在宅酸素療法 が行われていました。最近は早期または軽症での診断率が高まっていますので、病気の経過については今後の調査結果も待たれます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

LAMでは経過中に半数程度の患者さんが気胸を経験し、一度発症した場合は7割程度に再発がみられますので、気胸への注意が必要です。原因のわからない胸部の痛みや呼吸困難感が生じた際は医療機関を受診し、気胸の有無を確認する必要があります。航空機での旅行は、気圧の変動から気胸を発症しやすくする可能性が考えられ、海外での疫学調査の結果からは100回のフライトで1~2回の気胸発症のリスクがあるとの結果でしたが、フライトそのものが気胸発症のリスクであるとするより、LAMという病気がそもそも気胸を起こしやすい病気だからではないかと報告されています。気胸や低酸素血症のリスクに備えて、搭乗中の酸素療法の必要性や緊急時の受診先などについて、医師と相談しておくことが望ましいでしょう。また、スキューバダイビングなどレジャーダイビングでは、潜水中に気胸を発症した際には生命への危険がおよぶ事態になり得る場合も考えられますので、推奨できません。妊娠、出産に際してや、なんらかの理由でエストロゲン製剤を用いる場合は、LAMの病状に影響する可能性が考えられるため、医師との相談が必要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

結節性硬化症(TSC)に伴って発生するリンパ脈管筋腫症(TSC-LAM)
孤発性リンパ脈管筋腫症(孤発性LAM)

11. この病気に関する資料・関連リンク

リンパ脈管筋腫症(LAM)診療の手引き2022
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/LAM_GL%202022.pdf
呼吸不全調査研究班 リンパ脈管筋腫症 lymphangioleiomyomatosis(LAM)
診断基準. 日本呼吸器学会雑誌46:425-427,2008.
希少肺疾患登録制度 -リンパ脈管筋腫症とα1-アンチトリプシン欠乏症-
https://lamaatd.com/

 

情報提供者
研究班名 難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年12月(名簿更新:令和6年6月)