肥大型心筋症(指定難病58)
1. 「 肥大型心筋症 」とはどのような病気ですか
心筋症は、「心筋そのものの異常により、心臓の機能異常をきたす病気」ですが、そのうち、肥大型心筋症は、心肥大をおこす原因となる高血圧や弁膜症などの病気がないにもかかわらず、心筋の肥大(通常左室、ときに右室の肥大)がおこる病気で、左室心筋の異常な肥大に伴って生じる、左室の拡張機能(左房から左室へ血液を受け入れる働き)の障害を主とする病気です。本症の心肥大は、通常その分布が不均一であることが特徴的で、肥大の部位・程度や収縮の程度などにより収縮期に左室から血液が出ていく部位(流出路)が狭くなる場合があり、そのような場合は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。これに対する非閉塞性肥大型心筋症の他、心尖部肥大型心筋症、心室中部閉塞型心筋症、拡張相肥大型心筋症などのタイプに分類されます。診断には心エコー検査や心臓MRI検査が有用で、左室肥大の程度や分布、左室流出路 狭窄 の有無や程度、心機能などを知ることが出来ます。なお、確定診断のため、心臓カテーテル検査、組織像を調べるための心筋生検なども行われることもあります。心臓MRIにおける心筋遅延造影(LGE)所見は経過観察に有用です。また、診断の際にはFabry病や心アミロイドーシスなどの心肥大を引き起こす二次性心筋症との鑑別が重要です。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
令和3年度末の肥大型心筋症医療受給者証所持者数は、4,201人でした。しかし、これは難病認定を受けた患者さんを対象としており、心エコー(超音波)検査でスクリーニングをおこなったものでは、一般人口の1/500〜1/1000人において認められるとの報告もあります。
3. この病気はどのような人に多いのですか
後述するように遺伝性があるため、家族内に肥大型心筋症の患者さんがいた場合には、家族のメンバーにもこの病気が認められる可能性があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
心筋細胞の中に、心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白という一群が存在するのですが、この蛋白をコードしている 遺伝子の変異 が主な原因です。 家族性 の肥大型心筋症の約半数でこれらの遺伝子の変異が認められますが、残りの約半数の原因は未だ不明です。サルコメア遺伝子の変異が肥大型心筋症を引き起こす 機序 については不明な点が多いのですが、心筋細胞の中の様々なシグナルが複合的に関わっていることが明らかになりつつあります。
5. この病気は遺伝するのですか
家族性の発症が約半数に認められます。多くは常染色体性顕性遺伝(優性遺伝)の形式で遺伝し、前述したサルコメア遺伝子の変異が主因であることが知られており、遺伝子カウンセリングを受けることが推奨されます。家族内発症がない方でも、同様な遺伝子変異を有する場合がありますが、原因不明の方も少なくありません。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
肥大型心筋症では大部分の患者さんが、無症状かわずかな症状を示すだけのことが多く、たまたま検診で心雑音や心電図異常をきっかけに診断にいたるケースが少なくありません。症状を有する場合には、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難・胸の圧迫感などがあります。また、 重篤 な症状である「失神」は不整脈による以外に、閉塞性肥大型心筋症の場合には、運動時など左室流出路狭窄の程度が悪化し、全身に血液が十分に送られなくなることによっても生じます。また、約5-10%の患者さんでは進行性に左室収縮能の低下と左室拡張がおこり、拡張相肥大型心筋症と呼ばれる病態に移行することがあります。拡張相肥大型心筋症に移行すると、多くの方が心機能低下に伴い呼吸困難や動悸など様々な症状を自覚します。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
一般療法として競技性の強い過剰な運動を避けることが必要です。また、閉塞性肥大型心筋症例での流出路狭窄の程度は運動中よりも運動直後に強くなるといわれ、失神や突然死は、運動中のみならず運動直後にも見られることに注意が必要です。薬としては、左心室を拡がりやすくするためにβ 交感神経 受容体遮断薬やカルシウム拮抗薬を用います。 心房細動 という不整脈になると、心不全が急に悪化したり、 塞栓症 を生じたりすることがあります。このため、不整脈を抑える薬や血を固まりにくくする 抗凝固療法 が用いられます。また、拡張相肥大型心筋症では、心不全の治療を目的に、利尿薬や血管拡張薬などが用いられます。突然死の原因となる重い不整脈に対しては、不整脈を抑える薬、さらに植込み型除細動器が必要となることもあります。このほか、左室流出路狭窄の著しい例では、エタノール注入による心筋の焼灼術( カテーテル治療 )や外科的に厚くなった筋肉を切除することもあります。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
一般に病気の経過は良好で、全く無症状のまま天寿を全うする方も少なくありません。一方で、症状の有無にかかわらず危険な不整脈や、心機能の進行性の低下が認められることがあり、定期的に専門医のもとで経過観察を受けることが重要です。死因として、若年者では突然死、特に運動中の突然死が多く、壮年~高齢者では心不全死やとくに心房細動などの不整脈を合併した場合など心臓内に生じた血栓による塞栓症死が主となります。拡張相肥大型心筋症に移行した患者さんのうち重症の一部では、心臓移植が必要となることがあります。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
競技性の強い過剰な運動は突然死につながる場合があるため禁止する必要があります。また、心臓の機能が低下した方では、塩分制限が必要になることもあります。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
11. この病気に関する資料・リンク
・日本循環器学会ホームページ
https://www.j-circ.or.jp/
・日本循環器学会専門医名簿
https://www.j-circ.or.jp/senmoni_kensaku/
・日本心臓リハビリテーション学会のホームページ
https://www.jacr.jp/everybody/hospital/
・心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/08/JCS2018_tsutsui_kitaoka.pdf
・2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
研究班名 | 特発性心筋症の診断・ゲノム情報利活用に関する調査研究班 研究班名簿 |
---|---|
情報更新日 | 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月) |