クロウ・深瀬症候群(指定難病16)

くろう・ふかせしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
これまでクロウ・深瀬(Crow‐Fukase)症候群、POEMS(Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, M-Protein, and Skin Changes Syndrome)症候群、高月病、PEP症候群などの名称で呼ばれているが、これらは全て同一の疾患である。現在はPOEMS症候群と呼ばれることが多い。POEMSとは、多発性神経炎、臓器腫大、内分泌異常、M蛋白、皮膚症状の頭文字を表している。1997年に、本症候群患者血清中の血管内皮増殖因子(VEGF)が異常高値となっていることが報告されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されている。すなわち、本症候群は、形質細胞単クローン性増殖が基礎に存在し、多発ニューロパチーを必須として、多彩な症状を併存する症候群と定義し得る。
疫学としては、平成27年(2015年)に本邦で実施された全国調査が最新である。患者数は392名(有病率 10万分の0.3)と推定される。発症年齢の中央値は54歳、男女比は1.5:1である。
 
2.原因
本症候群の多彩な病像の根底にあるのが形質細胞の増殖であり、恐らく形質細胞から分泌されるVEGFが多彩な臨床症状を惹起していることが実証されつつある。VEGFは強力な血管透過性亢進および血管新生作用を有するため、浮腫、胸・腹水、皮膚血管腫、臓器腫大などの臨床症状を説明しやすい。しかし、全例に認められる末梢神経障害(多発ニューロパチー)の発症機序については必ずしも明らかではない。血管透過性亢進により血液神経関門が破綻し、通常神経組織が接することのない血清蛋白が神経実質に移行することや神経血管内皮の変化を介して循環障害がおこるなどの仮説があるが、実証には至っていない。
 
3.症状
約半数の患者は、末梢神経障害による手や足先のしびれ感や脱力で発症し、この症状が進行するにつれて、皮膚の色素沈着や手足の浮腫が出現する。残りの半数では、胸水・腹水や浮腫、皮膚症状、男性では女性化乳房から発症する。これらの症状は未治療では徐々に進行して行き、次第に様々な症状が加わってくる。診断は末梢神経障害や骨病変の精査、血液検査によるM蛋白の検出や血管内皮増殖因子の高値などに基づいてなされる。
 
4.治療法
骨髄腫の治療が応用されるようになり、予後が格段に向上している。治療によりVEGF値が減少し、減少の程度と改善の程度が相関することが示されている。そのため、VEGFは診断時だけでなく、治療効果判定のマーカーとして定期的に測定する。亜急性増悪を示す例があるため、疾患活動性の高い例では月に1回程度の厳重なモニタリングが必要である。
(1)骨硬化性病変や形質細胞腫が孤発性に存在する場合は、腫瘍に対する外科的切除や局所的な放射線療法が選択される。しかし、腫瘍が孤発性であることの証明はしばしば困難であり、形質細胞の生物学的特性から、腫瘍部以外の骨髄、リンパ節で増殖している可能性は否定できず、治療後には慎重なモニタリングが必要である。
(2)骨硬化性病変や形質細胞腫が多発する場合は、薬物治療を行う。自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法、サリドマイド、レナリドミドなどの免疫調整薬、あるいはボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)などが選択される。2021年にサリドマイドが本症候群に承認された。それ以外の薬剤は2021年現在本症候群の保険適用を有さないことに留意が必要である。
 
5.予後

有効な治療法が行われない場合の生命予後は不良である。副腎皮質ステロイド主体の治療が行われていた1980年代までは、平均生存期間は約3年であった。メルファラン療法が中心であった1990年代には、平均生存期間は5~10年と改善が見られたが治療効果は不十分であった。全身性浮腫による心不全、心膜液貯留による心タンポナーデ、胸水による呼吸不全、感染、血管内凝固症候群、血栓塞栓症などが死因となる。2000年頃から行われ始めた自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法、サリドマイド療法等をはじめ、骨髄腫の治療が応用されるようになり、予後は大きく改善した。2015年の全国調査に基づくと、10年生存率は9割を超えている。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
187人
2.発病の機構
不明(VEGFの関与が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治療法は確立していない。)
4.長期の療養
必要(一定の頻度で再発がみられる。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「神経免疫疾患のエビデンスに基づく診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証」班
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 教授 桑原 聡
研究分担者 千葉大学大学院医学研究院・脳神経内科学 准教授 三澤園子
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
クロウ・深瀬(POEMS)症候群
 
A:大基準
1. 多発ニューロパチー(典型的には脱髄)
2. モノクローナルな形質細胞増殖性疾患
3. 血清VEGF上昇(1000 pg/ml以上、ELISA法)

B:小基準
1. 浮腫/胸・腹・心嚢水
2. 皮膚変化(明確な色素沈着、多毛、糸球体様血管腫、白爪、チアノーゼ)
3. 臓器腫大
4. 骨硬化性病変

C:除外診断
多発性骨髄腫の診断を満たすもの。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全てとBのうち少なくとも2つ以上を満たし、Cを除外したもの。

  <重症度分類>
機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 神経免疫疾患領域における難病の医療水準と患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)