自己免疫性肝炎(指定難病95)
○ 概要
1.概要
自己免疫性肝炎は、肝細胞障害の成立に自己免疫機序が関与していると考えられる慢性に経過する肝炎であり、中年以降の女性に好発することが特徴である。原則的には既知の肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、及び他の自己免疫疾患に基づく肝障害は除外される。また、治療に際し免疫抑制剤、特に副腎皮質ステロイドが著効を奏す。一方、最近の調査により、急性肝炎様に発症する症例の存在が明らかとなっている。発症年齢は60歳を中心とする一峰性を示し、多くは中年以降の発症であり、最近高齢
化がみられる。男女比は約1:4.3で女性に多い。
2.原因
自己免疫性肝炎の病因は解明されていないが、日本人では60%の症例でHLA-DR4陽性、欧米ではHLA-DR3とHLA-DR4陽性例が多いことから何らかの遺伝的素因が関与していると思われる。
また、ウイルス感染(A型肝炎ウイルス、Epstein-Barrウイルス、サイトメガロウイルス、麻疹ウイルス)や一部の薬剤が自己免疫性肝炎発症の誘因として報告されている。
3.症状
我が国では初発症状としては、倦怠感が60%と最も多く、黄疸(35%)、食思不振(27%)がこれに次ぐ。またウイルス性慢性肝炎では通常ない関節痛、発熱を初発とするものがそれぞれ約15%にみられる。また、合併する他の自己免疫疾患による症状を初発症状とするものもある。自己免疫疾患あるいは膠原病の合併はおよそ1/3の症例でみられ、合併頻度の高いものとしては慢性甲状腺炎(9%程度)、シェーグレン症候群(7%程度)、関節リウマチ(3%程度)がある。身体症候としては、他のウイルス性慢性肝炎、肝硬変と異なることはない。
4.治療法
治療目標は血清トランスアミナーゼ(AST〔GOT〕、ALT〔GPT〕)の持続正常化である。第一選択薬は副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロンである。血清トランスアミナーゼとIgGの改善を指標にする。ステロイドパルス療法による予後改善効果については、現時点では不明である。一方、急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)例にステロイドパルス療法を行う際には、感染症(特に真菌感染)に対する十分な注意が必要である。2年間以上血清トランスアミナーゼとIgGが正常内で推移すれば、プレドニゾロンの中止も検討可能である。しかし、血清トランスアミナーゼやIgGが持続的に正常化していない症例では、治療中止により高率に再燃がみられる。治療を中止した症例の80%で再燃がみられ、60%の症例は1年以内に再燃するため、治療中止後も十分な経過観察が必要である。初回のプレドニゾロン治療に良好に反応した症例の多くでは、再燃時においてもプレドニゾロンの増量により血清トランスアミナーゼの正常化を得ることができる。副腎皮質ステロイド治療にもかかわらず再燃を繰り返す症例や副腎皮質ステロイドが使用できない症例では、免疫抑制剤アザチオプリンの使用が有効である。アザチオプリン投与時には、NUDT15遺伝子多型検査を実施し、血液障害(汎血球減少、貧血、無顆粒球症、血小板減少)、感染症、肝障害などに注意が必要である。プレドニゾロン漸減時や軽度の再燃時には、ウルソデオキシコール酸を併用することで血清トランスアミナーゼの持続正常化を得られる場合がある。自己免疫性肝炎による急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)例の予後は不良であり、肝移植を視野に入れた治療方針の決定が必要である。
5.予後
適切な治療が継続的に行われた自己免疫性肝炎症例の予後は、概ね良好であり、生存期間についても一般人口と差を認めない。しかし、適切な治療が行われないと、他の慢性肝疾患に比べて早期に肝硬変・肝不全へと進行する。予後を良好に保つためには血清トランスアミナーゼの持続正常化が重要であり、繰り返す再燃は予後不良(肝不全、肝癌)につながる。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
5,880人
2.発病の機構
不明(自己免疫的機序の関与が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(適切な治療が行われないと、早期に肝硬変・肝不全へと進行する。)
5.診断基準
あり(「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 自己免疫性肝炎分科会の診断基準等)
6.重症度分類
自己免疫性肝炎診療ガイドライン(2021年)重症度判定の中等症以上、
または組織学的あるいは臨床的に肝硬変と診断される症例を医療費助成の対象とする。
○ 情報提供元
「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」
研究代表者 帝京大学医学部内科学講座 教授 田中 篤
<診断基準>
典型例及び非典型例を対象とする。
1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性
2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)
3.組織学的にinterface hepatitis や形質細胞浸潤がみられる
4.副腎皮質ステロイドが著効する
5.他の原因(※)による肝障害が否定される
※ 肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、及び他の自己免疫疾患に基づく肝障害など
<診断のカテゴリー>
典型例: 上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの。
非典型例: 上記項目で、1~4の所見のうち1項目以上を認め、5を満たすもの。
注
1.副腎皮質ステロイド著効所見は治療的診断となるので、典型例・非典型例ともに、治療開始前に肝生検を
行い、その組織所見を含めて診断することが原則である。ただし、治療前に肝生検が施行できないときは診断後速やかに副腎皮質ステロイド治療を開始する。
2.国際診断スコアが計算できる場合にはその値を参考とし、疑診以上は自己免疫性肝炎と診断する。
3.診断時、既に肝硬変に進展している場合があることに留意する。
4.急性発症例では、上記項目1、2を認めない場合がある。また、組織学的に門脈域の炎症細胞を伴わず、中心静脈域の壊死、炎症反応と形質細胞を含む単核球の浸潤を認める症例が存在する。
5.診断が確定したら、必ず重症度評価を行い、重症の場合には遅滞なく、中等症では病態に応じ専門機関へ紹介する。なお、5のみを満たす症例で、重症度より急性肝不全が疑われる場合も同様の対応をとる。
6.簡易型スコアが疑診以上の場合は副腎皮質ステロイド治療を考慮する。
7.抗ミトコンドリア抗体が陽性であっても、簡易型スコアが疑診以上の場合には副腎皮質ステロイド治療を考慮する.自己免疫性肝炎での抗ミトコンドリア抗体陽性率は約10%である。
8.薬物性肝障害(Drug-induced liver injury:DILI)の鑑別にはDDW-J 2004 薬物性肝障害診断スコア及びマニュアルを参考にする。
9.既知の肝障害を認め、この診断指針に該当しない自己免疫性肝炎も存在する。
<重症度分類>
1)又は2)を対象とする。
1)自己免疫性肝炎診療ガイドライン(2021年)重症度判定を用いて、中等症以上
2)組織学的あるいは臨床的に肝硬変と診断される症例
自己免疫性肝炎診療ガイドライン(2021年)重症度判定
|
|
① 肝性脳症あり |
① ASTまたはALT > 200 U/l |
重症 |
||
中等症 |
||
軽症 |
註
1.重症と判断された場合、遅滞なく肝臓専門医のいる医療機関への紹介を考慮する。
2.重症の場合、劇症肝炎分科会の予後予測モデル、MELDも参考にする。
3.中等症の症例で、黄疸高度、60歳以上の高齢者の場合も専門機関への紹介を考慮する。
4.肝萎縮はCT volumetryが測定可能な場合は、肝容積対標準肝容積比を参考にする。
5.急性肝不全の診断は、厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班の診断基準(2011年版)を用いる。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 患者さん・ご家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック(2013)(pdf 2.26MB)
- 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年)(pdf 1.03MB)