線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)(指定難病340)

せんもうきのうふぜんしょうこうぐん(かるたげなーしょうこうぐんをふくむ)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)」とはどのような病気ですか?

鼻から肺までの気道は粘膜で覆われており、その表面にある 線毛 は呼吸に伴って侵入する病原体や異物から体を守る働きをしています。この線毛の働きが生まれつき弱いために慢性鼻副鼻腔炎や気管支拡張症が生じやすくなります。 内臓逆位 を伴うこともあり、慢性鼻副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位が合わさっている場合、特にカルタゲナー症候群と呼びます。長引く咳と痰が見られますが、経過が長いため症状に慣れてしまう方もいます。呼吸器感染を繰り返して時に呼吸不全に至ることもあります。このほかに滲出性中耳炎を合併することも多く、先天性心疾患、成人では不妊により気づかれることもあります。線毛の電子顕微鏡検査や線毛に関連する遺伝子の検査などにより診断されます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

欧米の研究によるとおよそ出生2万人に1人とされています。日本には約5000人の患者さんがいると推定されますが、現時点で診断されている人は少なく、多くの方が診断されていないと考えられます。

3. この病気はどのような人に多いのですか?

線毛機能不全症候群の原因になる遺伝子に病気を引き起こす変化があり、その結果、線毛の働きが悪い人がこの病気になります。

4. この病気の原因はわかっているのですか?

線毛を作るために必要なタンパク質の設計図である遺伝子に病的な変化があり、線毛が正常に働かないとこの病気が起こります。最近、原因になる遺伝子が次々に明らかになり、現時点ではおよそ50の原因遺伝子が知られるようになりました。これらの遺伝子に病的な変化があると線毛運動や線毛形成がうまくいかなくなり、気道や耳管の粘液が運ばれなくなり、慢性鼻副鼻腔炎、気管支拡張症、滲出性中耳炎を生じます。また、精子を動かす鞭毛の運動が弱くなり、不妊をきたす場合もあります。原因遺伝子の約半数はお母さんのお腹の中で赤ちゃんが育つときに内臓の位置を決める役割も担っており、内臓逆位や先天性心疾患の原因となります。しかし、原因となる遺伝子が不明である場合も多く、病気の症状や程度はさまざまです。その機序は十分わかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか?

この病気の多くは 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) します。患者さんの兄弟姉妹には同じ病気がみられることはありますが、ほとんどの場合ご両親に症状はありません。人は両親から1つずつ遺伝子を受け継ぎ、遺伝子を2セットもっています。患者さんは原因遺伝子の両方に変化があります。この場合、患者さんのご両親は一方の遺伝子に変化のある 保因者 (キャリア)ですが、もう一方の遺伝子には変化がないため発病しません。
この病気の一部は 常染色体顕性遺伝(優性遺伝)X連鎖性遺伝 により伝わります。後者の場合、男性だけが発病します。

6. この病気ではどのような症状がおきますか?

症状は個々の患者さんによりさまざまで、年齢によっても違います。図に小児で指摘されやすい疾患と成人で指摘されやすい疾患に分けて示します。このうち呼吸器疾患が最も大切で、多くの患者さんは長引く咳、痰を訴えます。症状は生まれた直後からみられることもありますし、小児期以降にみられることもあります。
新生児では多呼吸、咳嗽、肺炎、無気肺がみられ新生児呼吸窮迫といわれます。内臓逆位や先天性心疾患も新生児期に指摘されることが多い疾患です。
一方、成人では気管支拡張症・細気管支炎をきたします。また、不妊症や子宮外妊娠などの原因になることがあります。
慢性鼻副鼻腔炎や、滲出性中耳炎は小児でも成人でもみられます。慢性鼻副鼻腔炎では鼻漏や後鼻漏、鼻づまり、痰がらみの咳がみられ、滲出性中耳炎では耳閉感や難聴が生じます。


出典:線毛機能不全症候群の診療の手引き(日鼻誌62巻1号掲載)8頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/62/1/62_1/_article/-char/ja

7. この病気にはどのような治療法がありますか?

現在のところ根本的な治療法はありません。呼吸機能を保つことと感染症に対する予防と治療が中心となります。痰を出し、気道をきれいに保つための 気道クリアランス療法 (理学療法)や、気管支炎や肺炎(増悪と呼びます)を起こしたときの抗菌薬による治療、ワクチン接種による感染予防および喫煙を含めた環境改善を生涯続ける必要があります。男性不妊に対しては、不妊治療が有効です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか?

これまでの欧米からの報告では、一般的には患者さんは活動的な生活を送ることができ、病期の経過が命に与える影響は少ないとされています。小児の時にはみられなかった気管支拡張症が年齢とともにみられるようになります。呼吸器症状の強さや呼吸機能の推移には個人差もありますし、どのような管理や治療を受けたかによっても左右されます。肺炎や気管支炎を繰り返すことにより呼吸機能が低下して呼吸不全の状態になり、在宅酸素療法や肺移植が必要になることがあります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

たまった痰をうまく出すための ハフィング (気道クリアランス療法のひとつ)などの技術を身に付けて習慣づけることが大切です。小児で学年が上がり思春期になると周囲の目が気になり、排痰を控えてしまうことがあり、周囲の理解と協力が必要です。
また、無理のない範囲で運動をすることが大切です。運動は、肺機能低下を抑えることにもつながります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

原発性線毛運動不全症
PCD (primary ciliary dyskinesia)

11. この病気に関する資料・リンク

線毛機能不全症候群の診療の手引き・線毛機能不全症候群の診療の手引き作成員会. 日鼻誌62巻1号別冊、2023.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/62/1/62_1/_article/-char/ja

 

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)