シャルコー・マリー・トゥース病(指定難病10)
○ 概要
1.概要
シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease:CMT)は、臨床症状、電気生理学的検査所見、神経病理所見に基づいて、脱髄型、軸索型、中間型に大別され、さらにいくつかのサブタイプに分けられる。脱髄型CMTでは、一般的に神経伝導速度は38m/s以下、活動電位はほぼ正常又は軽度低下を示し、腓腹神経所見では節性脱髄、onion bulb の形成を認める。軸索型CMTでは、神経伝導速度は正常または軽度低下を示すが、活動電位は明らかに低下し、腓腹神経所見では有髄線維の著明な減少を示す。いずれとも分けられない場合は、中間型CMTとしている。原因遺伝子が次々と明らかになり、その病態の解明が進んでいる。
2.原因
これまでに100種類以上のCMT原因遺伝子が特定されている。同一の遺伝子であっても、異なる臨床型を示す場合がある。我が国ではCMTの遺伝子診断に関し、DNA chipを用いたハイスループットな診断法が確立され、大きな進展が見られている。遺伝子異常を示すCMTの割合はそれほど高くなく、今後、我が国に多い遺伝子異常の検討が必要である。
3.症状
CMTは、一般的に四肢、特に下肢遠位部の筋力低下と感覚障害を示す疾患であるが、近年の原因遺伝子の解明に伴い中枢神経系の障害も含む多様な臨床症状が明らかとなってきている。まれに、四肢近位部優位の筋力低下・筋萎縮を示す例もある。自律神経障害が前面に出るタイプもある。
4.治療法
CMTの根本的な治療法は確立しておらず、理学療法、足関節変形などに対する手術療法など対症療法が主である。ロボットスーツ「HAL®」によるリハビリテーション療法も有効とされる。 治療法の開発に関しては、薬物療法、遺伝子治療の研究が進められ、欧米ではいくつかの臨床試験が進行中である。
5.予後
CMT全体に共通する一般的な合併症としては、腰痛、便秘、足関節拘縮などが多く見られる。遺伝子異常のタイプによって、声帯麻痺、自律神経障害(排尿障害、空咳、瞳孔異常)、視力障害、錐体路障害、糖尿病、脂質代謝異常症などの合併が見られる。重症例では、呼吸不全を来たし、人工呼吸器を必要とする場合もある。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
659人
2.発病の機構
不明(遺伝子異常の関与が指摘されるが、発病に至る機序は不明。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(重症例では、人工呼吸器を要する。)
5.診断基準
あり(研究班による診断基準)
6.重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)を用いて、3点以上を対象とする。
○ 情報提供元
「シャルコー・マリー・トゥース病の診療向上に関するエビデンスを構築する研究班」
研究代表者 能登祐一
「神経変性疾患領域の基盤的調査研究班」
研究代表者 国立病院機構松江医療センター 名誉院長 中島健二
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
①以下の臨床症状(のうち2項目)を満たす。
(ア)筋力低下・筋萎縮
下肢優位の四肢遠位部の障害(凹足、扁平足、逆シャンペンボトル様の筋萎縮、手内筋萎縮、足趾骨間筋萎縮など)が典型的だが、まれに四肢近位部が優位に障害される場合もある。症状は、基本的に左右対称性である。
(イ)感覚障害
下肢優位の手袋・靴下型の障害が典型的であるが、感覚障害が目立たない場合もある。
症状は基本的に左右対称性である。
(ウ)家族歴
(エ)他の疾病によらない自律神経障害、声帯麻痺、視力障害、錐体路障害、錐体外路障害などの合併。
②神経伝導検査の異常(のうち2項目)を満たす。
(ア)正中神経の運動神経伝導速度が38m/s以下
(イ)正中神経の運動神経複合活動電位の明らかな低下
(ウ)他の末梢神経の神経伝導検査で軸索障害または脱髄性障害を認める。
なお、脱髄が高度な場合、全被検神経で活動電位が導出できない場合もある。
③シャルコー・マリー・トゥース病に特有の遺伝子異常がある。
(参考:現在判明している主な遺伝子異常は下記の異常)
peripheral myelin protein 22(PMP22)、myelin protein zero(MPZ)、gap junction protein beta 1(GJB1)、early growth response 2(EGR2)、ARHGEF10、periaxin(PRX)、lipopolysaccharide-induced TNF-α factor(LITAF)、neurofilament light chain polypeptide(NEFL)、ganglioside-induced differentiation-associated protein 1(GDAP1)、myotubularin-related protein 2(MTMR2)、SH3 domain and tetratricopeptide repeats 2(SH3TC2)、SET-binding factor 2(SBF2)、N-myc downstream regulated 1(NDRG1)、mitofusin 2(MFN2)、Ras-related GTPase 7(RAB7)、glycyl-tRNA synthetase(GARS)、heat shock protein 1(HSPB1)、HSPB8、lamin A/C(LMNA)、dynamin 2(DNM2)、tyrosyl-ARS(YARS)、alanyl-ARS(AARS)、lysyl-ARS(KARS)、aprataxin(APTX)、senataxin(SETX)、tyrosyl-DNA phosphodiesterase 1(TDP1)、desert hedgehog(DHH)、gigaxonin 1(GAN1)、K-Cl cotransporter family 3(KCC3)など。
診断のカテゴリー
①、②を満たすものをProbableとする。
Probableのうち③を満たすものをDefiniteとする。
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)を用いて、3点以上を対象とする。
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modified Rankin Scale |
|
|
0 |
全く症候がない |
自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である |
1 |
症候はあっても明らかな障害はない: |
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 |
軽度の障害: |
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 |
中等度の障害: |
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 |
中等度から重度の障害: |
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 |
重度の障害: |
常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 |
死亡 |
日本脳卒中学会版
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- CMTの詳細については、「シャルコー・マリー・トウース病診療マニュアル」(金芳堂)が出版されている。 CMT友の会(http://www.j-cmt.org )がある。遺伝子検査に関しては、鹿児島大学脳神経内科で可能である。