多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)

たはつせいこうかしょう/ししんけいせきずいえん
 

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1. 「多発性硬化症」や「視神経脊髄炎」とはどのような病気ですか

多発性硬化症は中枢神経系の 脱髄 疾患の一つです。私達の神経活動は神経細胞から出る細い電線のような神経の線を伝わる電気活動によってすべて行われています。家庭の電線がショートしないようにビニールのカバーからなる絶縁体によって被われているように、神経の線も髄鞘というもので被われています。炎症によって髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになる病気が 脱髄 疾患です。この脱髄が斑状に中枢神経のあちこちにでき(これを脱髄斑といいます)、神経症状の再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS)です。MSというのは英語のmultiple sclerosisの頭文字をとったものです。病変が多発し、古くなると少し硬く感じられるのでこの名があります。一方、アクアポリン4(AQP4)抗体という 自己抗体 の発見により、これまで視神経脊髄型MSと言われた中に視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica spectrum disorders: NMOSD)が多く含まれることがわかりました。さらに、AQP4抗体陽性の方の中には、視神経と脊髄だけでなく脳にも病変を呈する方や、脊髄もしくは視神経だけに病変をもつ方,さらにAQP4抗体陰性だがNMOSDに特徴的な症状を持つ方など、NMOSDにもいろいろなパターンがあることがわかってきました。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

MSの頻度は人種によって違います。MSは欧米の白人に多く、北ヨーロッパでは人口10万人あたり100人以上の患者がいる地域もあります。高緯度地方ほど患者の割合が多いことが知られています。わが国では比較的まれな疾患で、 有病率 は10万人あたり1~5人程度とされていましたが、最近の各地での 疫学調査 や2017年全国臨床疫学調査などによれば、14~18人程度と推定され、約17,600人の患者がいると推定されています。このことは遺伝子の違いがその頻度に大きく影響していることを示していますが、この他に、環境因子の関与も考えられます。環境因子としてはEBウイルスなどの感染因子、緯度や日照時間、ビタミンD、喫煙などが知られています。一方、NMOSDでは、最近の疫学調査において、わが国全体で約6,500人の患者がおり、有病率はMSよりも低く、人口10万人あたり5人程度と推定報告されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

MSは若年成人に発病することが最も多く、平均発病年齢は30歳前後です。15歳未満の小児に発病することもありますが、10歳未満には稀です。また、50歳以上の方がMSを発病することは少ないですが、若い頃MSに罹患していて、年をとってから再発をすることもあります。MSは女性に多く、男女比は1:2~3位です。一方、NMOSDはMSよりも発病年齢が高いと言われ、比較的高齢の方にも発病することがあります。また、女性の割合が非常に高いのが特徴です。

4. この病気の原因はわかっているのですか

MSになるはっきりした原因はまだ分かっていませんが、自己免疫説が有力です。私達の身体は細菌やウイルスなどの外敵から守られているのですが、その主役が白血球やリンパ球などですが、これらのリンパ球などが自分の脳や脊髄を攻撃するようになることがあり、それがMSの原因ではないかと考えられています。このことにより、先ほど述べた髄鞘が傷害され(脱髄)、麻痺などの神経症状が出るのです。なぜ自分の脳や脊髄を攻撃するのかはまだ分かっていませんが、遺伝的な因子と、先ほど述べた環境因子が影響していると考えられています。一方、NMOSDではAQP4抗体が重要な役割をすることが明らかにされつつありますが、NMOSDに特徴的な症状を呈するものの、この抗体が陰性の患者もいます。最近、この陰性の患者群の一部において、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体が陽性の患者がいることが明らかになり、その臨床的特徴が報告されるようになってきました。ただ、NMOSDにおいても解明されていないことがまだ多くあり、今後の研究結果が待たれます。

5. この病気は遺伝するのですか

MSやNMOSDでは、親から子に病気が遺伝することはありません。ただ、アレルギー体質が遺伝するように、MSやNMOSDになりやすさに関わる体質遺伝子が遺伝することはありえます。このなりやすさを決定する遺伝子として色々なものが上げられていますが、今のところ ヒト白血球抗原 (HLA)という遺伝子が重要であると言われています。私達の赤血球にはA型、B型、O型といった血液型があるように、白血球にも血液型があり、その一つがHLAです。HLA-DRB1*15:01HLA-DRB1*04:05などのHLAのアレルを持っている人は、MSになりやすいと言われています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

MSやNMOSDの症状はどこに病変ができるかによって千差万別です。視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。この症状が出る前や出ている最中に目を動かすと目の奥に痛みを感じることがあります。脳幹部が障害されると目を動かす神経が麻痺してものが二重に見えたり( 複視 )、目が揺れたり(眼振)、顔の感覚や運動が麻痺したり、ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。小脳が障害されるとまっすぐ歩けなくなり、ちょうどお酒に酔った様な歩き方になったり、手がふるえたりします。大脳の病変では手足の感覚障害や運動障害の他、 認知機能 にも影響を与えることがあります。ただし、脊髄や視神経に比べると脳は大きいので、病変があっても何も症状を呈さないこともあります。脊髄が障害されると胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿・排便障害などが起こります。脊髄障害の回復期に手や足が急にジーンとして突っ張ることがあります。これは有痛性 強直性 痙攣といい、てんかんとは違います。熱い風呂に入ったりして体温が上がると 一過性 にMSの症状が悪くなることがあります。これはウートフ現象といいます。一般に同じ目や手足の症状でも、NMOSDにおける再発ではMSに比べより症状が 重篤 になることが多いです。さらにNMOSDでは、MSではほとんどみられない、吃逆、嘔吐、傾眠などが出現することもあります。

7. この病気にはどのような検査法がありますか

MSを診断する上で最も重要な検査は、核磁気共鳴画像(MRI)です。この検査では、MSの病巣はT2強調画像およびフレア画像で白くうつります。また、急性期の病変はガドリニウムという造影剤を注射すると、造影剤が漏れ出てT1強調画像で白くうつることがあるので、参考になります。一方,脱髄病変に不可逆性の 軸索 変性 が生ずると、T1強調画像で黒くうつることがあります。次に大切な検査は、髄液検査です。MSでは脳や脊髄の病変部位には炎症がありますので、脳脊髄液に 炎症反応 があるかどうかをみることが重要です。そのために髄液検査を行います。これは腰の部分に針を刺して脳脊髄液をとってしらべるものです。急性期のMSでは蛋白質の増加、 免疫グロブリン IgGの上昇、オリゴクローナルIgGバンドの出現など炎症や免疫反応 亢進 を反映した所見が見られます。また髄鞘の破壊を反映して、髄鞘の成分であるミエリン塩基性蛋白の増加が見られることがあります。脱髄が起こると電線がむき出しになり、電気の伝導が遅くなります。この伝導の障害をとらえる検査法が、誘発電位検査です。視覚誘発電位、聴覚誘発電位、体性感覚誘発電位など様々な方法が応用されています。NMOSDでは、AQP4抗体といわれる自己抗体が高率に認められます。また、NMOSDにおける脊髄炎の急性期には、MRIにて3椎体以上に渡る脊髄長大病変が出現しやすいことが知られています。

8. この病気にはどのような治療法がありますか

急性期にはステロイドを使います。ステロイドパルス療法と言って、500mgないし1,000mgのメチルプレドニゾロンというステロイドを2~3時間かけて1日1回点滴静注し、これを3~5日間行います。症状の改善がみられない場合、この治療を繰り返したり、 血漿浄化療法 という治療を行ったりすることがあります。ステロイドの長期連用には、糖尿病や 易感染性 、肥満、胃十二指腸潰瘍、骨粗鬆症、大腿骨頭 壊死 などの副作用が出現する危険性が増すため、ステロイドパルス療法後に経口ステロイドを投与する場合でも(後療法と言います)、概ね2週間を超えないように投与計画がなされることが多くなっています。リハビリテーションを並行して行うこともあります。対症療法として有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはバクロフェンなどの抗痙縮薬、排尿障害に対しては抗コリン薬など適切な薬剤を服用します。
MSの再発予防には、我が国では現在8種類の薬剤が認可されています。自己注射薬として、インターフェロンβ-1b、インターフェロンβ-1a、グラチラマー酢酸塩、オファツムマブ、4~7週に一回の点滴薬としてナタリズマブ、内服薬としてフィンゴリモド、フマル酸ジメチル、シポニモドがありますが、どれが良いかは病状や生活スタイル、懸念すべき副作用などによりますので、主治医とよくご相談下さい。一方、NMOSDにおける再発予防には、経口ステロイドや免疫抑制薬が用いられるほか、エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブなどのモノクローナル抗体製剤が承認されています。

9. この病気はどういう経過をたどるのですか

通常型MSの多くは再発・ 寛解 を繰り返しながら慢性に経過します。一部のMSでは最初からあるいは初期に再発・ 寛解 を示した後、しだいに進行性の経過をとる場合があります(一次性および二次性進行型MS)。再発の回数は年に3~4回から数年に1回と人によって違います。再発を繰り返しながらも障害がほとんど残らない患者さんがおられる反面、何度か再発した後、時には最初の発病から寝たきりとなり、 予後 不良の経過をとる患者さんがおられますので、MSの診断がついたらなるべく早く再発予防のための治療薬を開始するよう勧められています。一方、NMOSDでは進行型を呈する方はほとんどなく、再発型とされています。NMOSDの再発は視力障害や脊髄障害などの症状が 重篤 になることが多いため、生涯にわたって再発予防の治療を行う必要があります。

10. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

過労やストレス、感染などは再発の危険因子とされていますので、可能な範囲で避けた方が良いと思います。また、体温が高くなると調子が悪くなるウートフ現象が出ることがありますので、そのような場合には高い温度の風呂やサウナは避けた方が良いと思います。ただ、あまり神経質にならない方が良いでしょう。また、使用する薬剤により日常生活の注意すべき点が異なりますので、主治医によくお聞きください。

11. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 神経免疫疾患領域における難病の医療水準と患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年10月(名簿更新:令和6年6月)
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(公財)難病医学研究財団
  • 再発性の多発性硬化症患者を対象にremibrutinibの有効性及び安全性をteriflunomideを比較対照に評価する,ランダム化,二重盲検,ダブルダミー,並行群間比較試験,並びに,非盲検でremibrutinibを投与する継続投与試験