巨細胞性動脈炎(指定難病41)
○ 概要
1.概要
大型・中型の動脈に巨細胞を伴う肉芽腫を形成する動脈炎である。大動脈とその主要分枝、特に外頚動脈を高い頻度で障害する。しばしば浅側頭動脈(以下、側頭動脈)を障害する。このため、以前は「側頭動脈炎」と呼ばれていたが、現在は「巨細胞性動脈炎」とその名称が変更された。50歳以上の高齢者に発症し、若年者に発症する高安動脈炎と対照的である。男女比はほぼ1:2~3である。
しばしばリウマチ性多発筋痛症を伴い、後述するように両者は極めて近似した疾患と考えられている。地理的な偏り及び遺伝素因が認められ、欧米白人に多く、日本を含めアジア人には少ない。
2.原因
原因は不明だが、ウイルスなど微生物感染などの環境因子の存在が疑われ、遺伝要因としてHLA-DRB1*04遺伝子との関連が報告されている。
3.症状
約3分の2の症例で側頭部の頭痛を認める。顎跛行は30-40%の症例で認める特徴的な自覚症状である。血管炎による血流低下・消失による虚血性視神経症のため、発症初期に視力・視野異常を呈し、約20%が視力の完全又は部分性の消失を来す。患者の40%にリウマチ性多発性筋痛症を認め、リウマチ性多発性筋痛症の約15%は巨細胞性動脈炎を合併する。全身症状として発熱(多くの場合は微熱、ときに弛張熱)、倦怠感を約40%の患者で認める。咳嗽、咽頭痛、嗄声などの呼吸器・耳鼻科領域の症状を認める。一過性虚血発作、脳梗塞、四肢の末梢神経障害などの神経症状、まれに舌梗塞や聴力・前庭障害など耳鼻咽喉科領域の症状も認められる。
画像診断上、約50%に大動脈本幹の病変、あるいは鎖骨下動脈や腋窩動脈の病変を認める。25%程度に大動脈病変による症状徴候を認め、四肢・頸動脈の拍動を触診すること、血管雑音を聴取することが診断上重要である。また、下肢では、約20%に腸骨動脈から浅大腿動脈に病変を認める。大動脈瘤は胸部・腹部に起こり、診断後3~5年以上経てから発見されることがある。巨細胞性動脈炎における胸部及び腹部動脈瘤は健常者のそれぞれ17倍、2.5倍多いと報告されている。
4.治療法
血管炎症候群の診療ガイドラインを参考に治療する(注1)。薬物治療には副腎皮質ステロイド(ステロイド)を使用する。失明の恐れがある場合には、ステロイドパルス療法を含むステロイド大量療法を行う。経口ステロイドは2~4週間の初期治療の後に漸減する。維持量のステロイドを必要とする症例が多く、維持量のステロイドの漸減は更に慎重に行う。ステロイド抵抗性の症例、ステロイドの漸減に伴い再燃する症例、副作用への懸念からステロイド減量が必要な症例においては、IL-6受容体阻害薬であるトシリズマブ(TCZ)、あるいはメトトレキサート*を中心とした免疫抑制薬の併用を検討する。動脈の狭窄病変を認める場合は、失明や脳梗塞を予防するために低用量アスピリンによる抗凝固療法を併用する必要がある。
*2021年現在保険適用外であることに留意する。
注1:治療内容を検討する際には、最新の診療ガイドラインを参考にすること。
5.予後
最も留意すべき点は失明に対する配慮であるが、早期からのステロイド治療により防止が可能である。巨細胞性動脈炎患者では胸部大動脈瘤の頻度が高い。定期的画像診断(単純X線、CT angiography、MRA、超音波、18FDG-PET/PET-CT、CT scanなど)によって、大動脈径の変化を追跡する
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
1,269人
2.発病の機構
不明(遺伝要因としてHLA-DR*04遺伝子との相関が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治療法なし。)
4.長期の療養
必要(寛解、再燃を繰り返し慢性の経過をとる。)
5.診断基準
あり(日本循環器学会、日本リウマチ学会を含む11学会関与の診断基準等)
6.重症度分類
研究班で作成された巨細胞性動脈炎の重症度分類を用いて、重症を対象とする。
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業
難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班(難治性血管炎班)
研究代表者 針谷正祥 (東京女子医科大学医学部内科学講座膠原病内科学分野・教授)
<診断基準>
Definiteを対象とする。
巨細胞性動脈炎の分類基準(1990年、アメリカリウマチ学会による。)
1.発症年齢が50歳以上 |
臨床症状や検査所見の発現が50歳以上 |
2.新たに起こった頭痛 |
新たに出現した又は新たな様相の頭部に限局した頭痛 |
3.側頭動脈の異常 |
側頭動脈の圧痛又は動脈硬化に起因しない側頭動脈の拍動の低下 |
4.赤沈の亢進 |
赤沈が50mm/時間以上(Westergren法による。) |
5.動脈生検組織の異常 |
単核球細胞の浸潤又は肉芽腫を伴う炎症があり、多核巨細胞を伴う。 |
<診断のカテゴリー> |
<重症度分類>
1)又は2)を認める場合を重症とする。
1) 巨細胞性動脈炎による以下のいずれかの臓器障害を有し、かつ巨細胞性動脈炎に対する副腎皮質ステロイドまたは免疫抑制薬を含む薬物治療を必要とする。
①良好な方の眼の矯正視力が0.3未満
②大動脈瘤または大動脈弁閉鎖不全症
③下肢又は上肢の虚血性病変
④活動性の頭蓋病変または大動脈病変
2) 巨細胞性動脈炎による以下のいずれかの臓器障害を有し、かつ巨細胞性動脈炎に対する外科的治療を必要とする。
①下肢又は上肢の虚血性病変のため壊疽になり、血行再建術若しくは切断が必要なもの、又は行ったもの。
②胸部・腹部大動脈瘤、大動脈閉鎖不全症が存在し、外科的手術が必要なもの又は外科治療を行ったもの。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 2015-2016年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン (日本循環器学会が公開しているガイドライン。巨細胞性動脈炎については28-39ページを参照)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf - ウエブ版血管炎病理アトラス https://www.vas-mhlw.org/html/pathology/index.html
- 市民公開講座「血管炎についてもっと知ろう:それぞれの病気の特徴と療養に役立つ知識」3)巨細胞性動脈炎 https://www.vas-mhlw.org/html/shiminkoukaikouza.html