特発性拡張型心筋症(指定難病57)
1.「特発性拡張型心筋症」とはどのような病気ですか
心臓は収縮・拡張を交互に繰り返すことで全身に血液を送り届けるポンプとしての役割を果たしていますが、特発性拡張型心筋症(以下、拡張型心筋症)は、心臓(特に左心室)の筋肉の収縮する能力が低下し、左心室が拡張してしまう病気です(図1)。心臓の病気の中には、高血圧、弁膜症、心筋 梗塞 などが原因で、見た目は拡張型心筋症と同じような心臓の異常を起こしてしまうケース(特定心筋症または二次性心筋症といいます)もあり、二次性心筋症(特定心筋症)ではないことを確認することは拡張型心筋症を診断する上で重要です。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
令和4年度末の拡張型心筋症医療受給者証所持者数は18,234人であり、約2000人に1人の割合でした。しかし、これは難病認定を受けた患者さんを対象としており、症状がなく病院を受診したことのない患者さんも含めると実際の患者数はさらに多いことが予想されます。
3. この病気はどのような人に多いのですか
60歳前後の患者さんが最も多いという報告もありますが、子供からお年寄りまで幅広い年齢層に発症します。また男女比では、2.6:1と男性に多い傾向がみられます。
4. この病気の原因はわかっているのですか
これまでのところ、明らかな原因はわかっておりません。遺伝子解析の進歩に伴い、遺伝性の原因(後述)と非遺伝性の原因とに分けて考えられるようになっています。非遺伝性の原因については、ウイルスへの感染をきっかけとした炎症や、自身の心臓を攻撃する抗体(自己抗体)ができてしまう免疫異常が、発症に関わる可能性が指摘されています。
5. この病気は遺伝するのですか
平成11年の厚生省の全国調査では約5%に家族内発症が認められました。また 家族性 拡張型心筋症のうち約20%に遺伝子変異が認められ、主に心臓の収縮や機能、構造に関わるタンパク質をコードする遺伝子の変異でした。このため、少なくとも一部の拡張型心筋症では遺伝すると考えられ、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
自覚症状として動悸、息苦しさや疲れやすさがみられます。ただ、病気の初期は無症状のこともあります。症状は、はじめ運動時に現れますが、進行すると安静時にも出現し、夜間の呼吸困難などを来します。また、心臓の機能の低下が進むと、浮腫や不整脈が現れてきます。脈が通常よりも早くなる心室頻拍をおこすと、突然死の原因になります。逆に、脈が遅くなる房室ブロックがみられることもあります。心臓の中に血の塊(血栓)ができて、血流にのって全身に運ばれ血流を止めることで 塞栓症 をおこすことがありますが、症状は塞栓部位によってさまざまです。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
特異的な治療法はまだありませんが、β遮断薬、アンジオテンシン変換 酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬といった内服薬が、心不全の予防や生命予後の改善のために使用されます。心不全が悪化した場合は、安静、塩分制限、運動制限などが必要となります。症状や病状にあわせて、HCNチャンネル遮断薬、ジギタリス、血管拡張薬、sGC刺激薬、強心薬といった薬が使用されます。水分が貯留する人では、利尿薬を使いますが、腎臓や心臓の機能がかえって悪くなり、体内のバランスを崩すこともあるため注意が必要です。これらの内服薬には副作用もあるため、医師の指導を十分に受けることが必要で、症状がない時でも定期的な観察が欠かせません。拡張型心筋症では、重い不整脈を合併することがあり、不整脈に対する薬や、ペースメーカー、植込型除細動器の植え込み手術が必要となることがあります。不整脈に対して、カテーテル手術を行うことが有効である場合もあります。これらの治療に加えて、心臓リハビリテーションにより身体機能や生命予後が改善することが報告されています。十分な薬物治療やペースメーカーなどの非薬物治療を行っても症状が悪化し、重症の心不全となる場合は、心臓移植や長期在宅補助人工心臓治療(Destination therapy)が考慮される場合があります。
8. この病気はどのような経過をたどるのですか
この病気は慢性進行性のことがあり、病状が進行した場合は心臓移植が必要となります。日本における心臓移植適応例の60~70%が拡張型心筋症です。厚生労働省の調査では、5年生存率は76%であり、死因の多くは心不全または不整脈です。しかし、薬物治療および非薬物治療の進歩により、拡張型心筋症患者の 予後 はさらに改善している可能性が高いと考えられています。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
拡張型心筋症による心不全では塩分制限が重要です。軽症心不全では1日食塩摂取量を約6g以下とし、重症心不全では1日3g以下の厳格な塩分制限が必要な場合があります。また、肥満を合併している場合には減量のためのカロリー制限を行います。アルコールについては適量にとどめ、大量飲酒を避けなければなりません。重症例では禁酒が必要となる場合もあります。また毎日の体重測定を行い、短期間で体重増加(例えば1週間で2~3kg以上)を認めた場合は心不全の悪化を疑い早期に受診する必要があります。さらに内服薬の中断により心不全が悪化することがあるため、継続的な薬の服用が重要です。安定した状態では、1回20~60分、週3~5回を目安に、医師の指示のもとに無理のない程度の運動(有酸素運動)を行うことが勧められます。喫煙は心疾患において悪影響を及ぼすことが知られており禁煙を行う必要があります。また抑うつや不安などが心不全に悪影響を及ぼすことがあるため、場合によっては、専門家によるカウンセリングや治療が必要な場合があります。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
11. この病気に関する資料・リンク
・特発性心筋症の診断・ゲノム情報利活用に関する調査研究班 ホームページ
https://www.cardiomyopathy.jp/
・心筋症, 診断の手引きとその解説(厚生労働省難治性疾患克服研究事業特発性心筋症調査研究班 北畠顕・友池仁暢 編)
・日本循環器学会ホームページ
https://www.j-circ.or.jp/
・日本循環器学会専門医名簿
https://www.j-circ.or.jp/senmoni_kensaku/
・日本心臓リハビリテーション学会のホームページ
https://www.jacr.jp/everybody/hospital/
・心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/08/JCS2018_tsutsui_kitaoka.pdf
・2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
研究班名 | 特発性心筋症の診断・ゲノム情報利活用に関する調査研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年11月(名簿更新:令和6年6月) |