神経有棘赤血球症(指定難病9)

しんけいゆうきょくせっけっきゅうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
末梢血に有棘赤血球を認め何らかの神経・精神症状を示す疾患群を神経有棘赤血球症と総称する。有棘赤血球舞踏病とMcLeod症候群が大半を占めるが、ハンチントン病類症2型(Huntington disease-like2)やパンテトン酸キナーゼ関連神経変性症(Pahtothenate kinase associated neurodegeneration:PKAN;NBIA1)なども本症の一つである。ハンチントン病類症2型は我が国では報告がなく、PKANは(遺伝性ジストニア、指定難病120)に含まれるため、神経有棘赤血球症の対象疾患は有棘赤血球舞踏病とMcLeod症候群である。
臨床症状としては、神経学的には随意運動障害、舞踏運動を中心とする不随意運動、様々な精神症状とを認める。我が国での疫学調査では全国で約100人程度の患者が見出されているが、詳細は不明である。
 
2.原因
神経有棘赤血球症の多くは病因遺伝子が解明されているが、遺伝子産物の機能については不明な点が多い。
有棘赤血球舞踏病の病因遺伝子はVPS13A、McLeod症候群の病因遺伝子はXKである。
 
3.症状
運動障害としては嚥下障害、構音・構語障害、歩行障害の頻度が高い。不随意運動では口の周りに見られる不随意運動が目立ち、多くは舞踏運動とジストニアである。口と舌の不随意運動により、咬唇や咬舌を来たし、さらに、上肢・手で口角を拭うような不随意運動により、舌・口部の変形を来す。また、歩行時の体幹を屈曲するような舞踏運動の頻度が高い。認知障害は比較的軽度であるが、衝動性制御障害や強迫性障害、固執性などの精神症状を示すことが多い。
 
4.治療法
根治療法はない。対症療法が主体で、舞踏運動や精神症状に対しては抗精神病薬などが、てんかん発作に対しては抗てんかん薬を使用する。
 
5.予後
進行性疾患で予後不良である。本症の自然歴は不明な点が多い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.発病の機構
病因遺伝子は同定されているが、発症機構については未解明
3.効果的な治療方法
未確立(現時点では根治治療はない。)
4.長期の療養
必要(慢性進行性に増悪し、罹病期間は10~20年であり、身体・精神症状に対して療養が必要である。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
以下のいずれかを用いる。
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて精神症状評価2以上、または能力障害評価2以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「神経変性疾患領域の基盤的調査研究班」
研究代表者 国立病院機構松江医療センター 名誉院長 中島健二
 
 
 
<診断基準>
「有棘赤血球舞踏病」、「McLeod症候群」を神経有棘赤血球症と診断する。
DefiniteとProbableを対象とする。
 
1.有棘赤血球舞踏病
A:臨床所見
1)口周囲(口、舌、顔面、頬部など)の舞踏運動が目立ち、自傷行為による唇、舌の咬傷を見ることが多い。咬唇や咬舌は初期には目立たないこともある。
2)口・舌不随意運動により、構音障害、嚥下障害を来す。
3)体幹・四肢に見られる不随意運動は舞踏運動とジストニアを主体とする。
4)脱抑制、衝動性障害、強迫性障害、固執症状などの神経精神症状や認知障害がしばしば認められる。
B:検査所見
末梢血で有棘赤血球の増加を見る。
C:遺伝子診断
病因遺伝子VPS13Aに変異を認める。
※常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)が基本である。顕性遺伝(優性遺伝)形式に見えることもある。
D:鑑別診断
(1)症候性舞踏病   :小舞踏病、妊娠性舞踏病、脳血管障害
(2)薬剤性舞踏病   :抗精神病薬による遅発性ジスキネジア、その他の薬剤性ジスキネジア
(3)代謝性疾患    :ウィルソン病、脂質代謝異常症
(4)他の神経変性疾患 :歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、ハンチントン病
<診断のカテゴリー>
Definite : Aの1)~4)、かつBとCを認めるもの。
Probable:: Aの1)~4)、かつBを認め、Dを除外したもの。

E:参考所見
・臨床所見
1) 好発年齢は若年成人(平均30歳代)であるが、発症年齢の分布は思春期から老年期に及び、緩徐に増悪する。
2) てんかん発作が見られることがある。
3) 軸索障害を主体とする末梢神経障害があり、下肢遠位優位の筋萎縮、脱力、腱反射低下・消失を来す。
・検査所見
1) β リポタンパクは正常である。
2) 血清CK値の上昇を認めることが多い。
3) 電気生理学的検査で末梢神経に軸索障害を認める.
4) 頭部MRIやCTで尾状核の萎縮、大脳皮質の軽度の萎縮を認める。

2.McLeod症候群
A:臨床所見
1) 伴性潜性遺伝(劣性遺伝)様式をとる。
2) 30~40歳代に発症することが多い。
3) 舞踏運動を主とする不随意運動を体幹・四肢に認め、他にチック、ジストニア、パーキンソニズムを見ることもある。咬唇や咬舌はほとんど認めない。
4) 軸索型末梢神経障害を大多数の症例で認め、腱反射は消失する。
5) 骨格筋障害(四肢筋)を認める。
B:検査所見
末梢血で有棘赤血球の増加を見る。
C:遺伝学的検査
XK遺伝子に変異を認める。
D:鑑別診断
1) 症候性舞踏病 :小舞踏病、妊娠性舞踏病、脳血管障害
2) 薬剤性舞踏病 :抗精神病薬による遅発性ジスキネジア、その他の薬剤性ジスキネジア
3) 代謝性疾患 :ウィルソン病、脂質代謝異常症
4) 他の神経変性疾患 :歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、ハンチントン病
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの1)~5)、かつBとCを認めるもの。
Probable:Aの1)~5)、かつBを認め、Dを除外したもの。

E:参考所見
・臨床所見
1) てんかん発作が見られることがある。
2) 統合失調症様精神症状などの精神症状や認知障害をしばしば認める。
・検査所見
1) β リポタンパクの欠如がない。
2) 血清CK値の上昇を認める。
3) 針筋電図所見では筋原性、神経原性所見の双方を認めることがある。
4) 頭部MRIやCT像で尾状核の萎縮、大脳皮質の軽度の萎縮を認める。
5) 赤血球膜表面にあるXK蛋白質の欠損とKell抗原の発現が著減している。
6) 心筋症や溶血性貧血、肝脾腫をしばしば認める。
 
 
 
<重症度分類>
以下の(1)又は、(2)を満たす場合を対象とする。
(1)機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助または監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
 
(2)障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて精神症状評価2以上又は能力障害評価2以上を対象とする。


 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)