スタージ・ウェーバー症候群(指定難病157)
○ 概要
1.概要
スタージ・ウェーバー症候群は、頭蓋内の軟膜毛細血管奇形と、顔面のポートワイン母斑、眼の緑内障を有する神経皮膚症候群の一つであり、難治性てんかん、精神発達遅滞、運動麻痺、視力・視野障害、片頭痛などが問題となる。
2.原因
原因不明。近年、GNAQ遺伝子の変異が報告され、病態への関与が推定されている。GNAQ遺伝子変異は頭蓋内軟膜毛細血管奇形及びポートワイン母斑(毛細血管奇形)の発生に関連するものと考えられる。GNAQ遺伝子変異は皮質静脈の形成不全や毛細血管奇形下脳実質の皮質形成にも関与することが示唆されるが確定的ではない。
3.症状
頭蓋内軟膜毛細血管奇形、ポートワイン母斑(毛細血管奇形)、緑内障の三所見が重要。臨床的には難治性てんかん、精神発達遅滞、片麻痺の出現、視力・視野障害及び片頭痛が問題になる。難治性てんかんは約50%が抗てんかん薬ではコントロール不良であり、てんかん外科治療も考慮される。10~20%は内科的治療と外科治療を行っても極めて難治に経過する。
精神発達遅滞は約30〜60%に見られ、てんかん発作の重症度及び頭蓋内軟膜毛細血管奇形の範囲に比例する。注意欠如多動症は小児の40%に、精神症状は成人の50%におよぶ。
頭蓋内軟膜毛細血管奇形下の脳皮質が虚血に陥るため運動麻痺などの局所症状を呈することもある。
緑内障は30〜70%にみられるが、原因は様々な説があり明確ではない。顔面ポートワイン母斑を認める例や頭蓋内軟膜毛細血管奇形が前方に位置する例で著明となり、失明などが問題となる。脈絡膜血管腫は40〜50%にみられ、視力低下および視野欠損の原因になる。
片頭痛は30〜45%に認められる。片頭痛に伴った一過性視症状や運動麻痺がみられることがある。
4.治療法
難治性てんかんに対しては、抗てんかん薬による治療が行われ、約50~60%の症例で効果を認めるが、薬剤抵抗性を示す場合が少なくない。抗てんかん薬の効果が認められない患者に対しては焦点切除術も考慮される。広範に頭蓋内軟膜毛細血管奇形の存在する場合には手術治療も困難である。広範囲の頭蓋内軟膜毛細血管奇形による難治性てんかんに対しては多脳葉切除(離断)術や半球離断術が行われるが、その後に運動麻痺を後遺症として残すことがある。
顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)に対してはレーザー治療が行われており、一定の効果を認める。
緑内障に対する内科的治療の効果は限定的である。通常は隅角切開術や線維柱帯切開術が行われる。しかし効果は症例によっては乏しく、線維柱帯切開術やインプラント手術などの追加を要することがある。
5.予後
てんかん発作は抗てんかん薬治療と手術治療によりコントロールされる例もあるが、広範な頭蓋内軟膜毛細血管奇形をもつ例では、発作を完全に抑制する有効な方法がない。精神運動発達遅滞は軽度のものから重度のものまで様々であるが、てんかん発作の抑制が予後良好因子になる。緑内障は漸次進行性であり、時に失明を来す。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(遺伝子異常が推定されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(根治治療はない。対症的にてんかんに対する内科的治療及び外科治療が行われている。)
4. 長期の療養
必要(てんかん治療の継続、軽度のものまでを含めると知能障害が約60%の例でみられる。)
5. 診断基準
あり (研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
以下に示すいずれかを満たす際に対象とする。
a. 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分、及び障害者総合支援法における障害支援区分、「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
b. 運動麻痺:modified Rankin Scale3以上に該当する患者を対象とする。
c. 視力・視野障害:II度、III度、IV度の者を対象とする。
○ 情報提供元
「稀少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター客員研究員 井上 有史
研究分担者 順天堂大学脳神経外科先任准教授 菅野 秀宣
研究協力者 東北医科薬科大学医学部皮膚科学教授 川上 民裕
<診断基準>
Definite(確定診断例)を対象とする。
スタージ・ウェーバー症候群の診断基準
A 基本所見
1.MRI上の頭蓋内軟膜毛細血管奇形
2.顔面ポートワイン母斑(毛細血管奇形)
3.脈絡膜血管腫又は緑内障
B.症状
1. てんかん
2. 精神運動発達遅滞
3. 運動麻痺
4. 視力・視野障害
5. 片頭痛
<診断のカテゴリー>
Definite(確定診断例):Aの1又は2を含む1項目以上を満たし、かつBの2項目以上を有するもの。
C.参考所見
1. 画像検査所見
① MRI:ガドリニウム増強において明瞭となる頭蓋内軟膜毛細血管奇形、罹患部位の脳萎縮、患側脈絡叢の腫大、白質内横断静脈の拡張
② CT:脳内石灰化
③ SPECT: 頭蓋内軟膜毛細血管奇形部位の低血流
④ FDG-PET: 頭蓋内軟膜毛細血管奇形部位の低糖代謝
2. 生理学的所見
脳波:患側の徐波、又はてんかん性活動
<重症度分類>
以下に示すa、b、cのいずれかを満たす場合に対象とする。
a.てんかん及び精神運動発達遅滞
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分、及び障害者総合支援法における障害支援区分、精神症状・能力障害二軸評価を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価
(2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんどできない。 |
b.運動麻痺
下記のmodified Rankin Scale(mRS)にて3以上の者を対象とする。
modified Rankin Scale(mRS)
|
||
|
|
|
0 |
まったく症候がない |
自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である |
1 |
症候はあっても明らかな障害はない: |
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 |
軽度の障害: |
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 |
中等度の障害: |
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 |
中等度から重度の障害: |
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 |
重度の障害: |
常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 |
死亡 |
日本脳卒中学会版
c.視力・視野障害
下記の重症度分類のII度、III度、IV度の者を対象とする。
I度:矯正視力 0.7以上、かつ視野狭窄なし
II度:矯正視力 0.7以上、視野狭窄あり
III度:矯正視力 0.7未満、0.2以上
IV度:矯正視力 0.2未満
注1:矯正視力、視野ともに、良好な方の眼の測定値を用いる。
注2:視野狭窄ありとは、中心の残存視野がゴールドマンI-4視標で20度以内とする。
注3:視野検査は、ゴールドマン視野計及び自動視野計又はこれに準ずるものによる。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 菅野 秀宣. スタージ・ウェーバー症候群. In: 日本てんかん学会, ed. てんかん症候群 診断と治療の手引き. 東京: メディカルレビュー社, 2023: 194-196.
- 稀少てんかんの診療指標、日本てんかん学会編、診断と治療社、2017
- 稀少てんかんに関する包括的研究: 研究代表者 国立病院機構 静岡・てんかん神経医療センター 井上 有史
- スタージウェーバー家族の会 http://sturge-weber.jp/
- THE STURGE-WEBER FOUNDATION https://sturge-weber.org/