アレキサンダー病(指定難病131)

あれきさんだーびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
病理学的にグリア線維性酸性蛋白(GFAP)、α B-クリスタリン、熱ショック蛋白などから構成されるローゼンタル線維をアストロサイトに認めることを特徴とする稀な遺伝性神経変性疾患である。臨床的には臨床症状及びMRI画像所見より大脳優位型(1型)、延髄・脊髄優位型(2型)、中間型(3型)に分類される。アレキサンダー病の97%においてGFAPのミスセンス変異あるいは数塩基欠失や挿入が認められ、近年では遺伝子検査が確定診断法として用いられている。病態については研究が進みつつあるが十分解明されておらず、治療は対症療法にとどまる。
 
2.原因
変異GFAPあるいは過剰発現したGFAPからなる異常凝集体が病態に関与していると考えられている。97%の症例でGFAPの変異が証明されている。変異GFAPがα Bクリスタリンや熱ショック蛋白27などのシャペロン系を抑制したり、プロテアソームの機能を低下させることでアストロサイトの機能異常をひきおこすとする研究があるが、十分な解明は行われていない。
 
3.症状
①1型:主に乳幼児期発症で、神経学的所見としてけいれん、大頭症、精神運動発達遅滞、頭部MRI所見として前頭部優位の広範な大脳白質異常を認めることを特徴とする。機能予後不良の重症例が多い。また、新生児期発症で水頭症や頭蓋内圧亢進症状がみられる症例もある。
②2型:学童期あるいは成人期以降の発症で、神経学的所見として筋力低下、痙性麻痺、球症状、MRI所見として延髄・頚髄の信号異常あるいは萎縮を特徴とする。1型に比べると進行は緩徐である場合が多い。家族内発症が多く、無症候の症例も存在する。
③3型:1型及び2型の両者の特徴を有する型。発症時期は幼児期から青年期まで幅広い。また、1型の長期生存例において2型の特徴が後に現れることがあるが、これも本型に含める。
 
4.治療法
現時点では根本治療はなく、対症療法にとどまる。1型でみられる痙攣に対しては抗てんかん薬の投与が行われるが難治例が多い。また痙性麻痺に対しては抗痙縮薬の投与、リハビリテーションが行われる。栄養管理、感染症対策も重要。
 
5.予後
1型罹患児の生存期間は数週から数年である。新生児期発症例は難治性けいれん及び水頭症のため生存期間は数日から数か月と非常に予後不良である。その他の1型症例の生存期間は数年とされるが、ケアの向上により近年では10代後半まで生存する症例もある。機能予後は不良で、経管栄養、人工呼吸管理が必要となることが多い。2型の進行は緩徐な症例が多いが、外傷などを契機に急激に悪化する症例も散見される。生存期間も数年から30年以上とさまざまである。3型の機能予後・生命予後も様々であるが、一般的に1型よりも良好、2型よりも不良である。生存期間は数年から30年以上と様々である。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(GFAP異常との関連が示唆されている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(徐々にADLが低下する。)
5.  診断基準
あり(研究班による診断基準)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以
上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「アレキサンダー病の診断基準および治療・ケア指針の作成、病態解明・治療法開発のための研究」 
研究代表者 京都府立医科大学神経内科 准教授 吉田誠克
 
「遺伝性白質疾患の診断・治療・研究システムの構築」班 (平成28~30年度)
研究代表者 自治医科大学小児科 教授 小坂 仁
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
大脳優位型(1型)アレキサンダー病
 
A.主要徴候
1.けいれん
2.大頭症
3.精神運動発達遅滞
 
B.頭部MRI所見
1.前頭部優位の白質信号異常
2.脳室周囲の縁取り:T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す。
3.基底核と視床の異常:T2強調画像で高信号を伴う腫脹又は高・低信号を伴う萎縮
4.脳幹の異常・萎縮:延髄あるいは中脳にみられることが多い、腫瘤効果を伴う結節病変を呈することがあ る。
5.造影効果を認める:脳室周囲、前頭葉白質、視交叉、脳弓、基底核、視床、小脳歯状核、脳幹など
 
C.遺伝子検査及び病理学的検査
1.遺伝子検査:GFAP遺伝子異常
2.病理学的検査:アストロサイト細胞質内のローゼンタル線維
 
Aの1つ以上、及びBにおいて1を含む2つ以上を認める場合、本症を疑い(Possible)、遺伝子検査あるいは病理学的検査を考慮する。Cのいずれかを認めた場合、本症と確定診断する(Definite)。
 
延髄・脊髄優位型(2型)アレキサンダー病
 
A.主要徴候
1.筋力低下
2.腱反射異常
3.バビンスキー徴候陽性
4.構音障害
5.嚥下障害
6.発声障害
7.口蓋ミオクローヌス
 
B.頭部MRI所見
下記のいずれかの像を呈する延髄・上位頚髄の信号異常又は萎縮を認める。
1.橋底部が保たれ、延髄及び上位頚髄が高度に萎縮する像
2.T2強調画像における信号異常や造影効果を伴う像
3.萎縮を伴わない結節性腫瘤像
 
C.遺伝子検査及び病理学的検査
1.遺伝子検査:GFAP遺伝子異常
2.病理学的検査:アストロサイト細胞質内のローゼンタル線維
 
Aの1つ以上及びBの所見を認める場合、本症を疑い(Possible)、遺伝子検査あるいは病理学的検査を考慮する。Cのいずれかを認めた場合、本症と確定診断する(Definite)。
 
中間型(3型)アレキサンダー病
 
1型及び2型の両者の特徴を有する型。確定診断法は1型、2型に準じる。
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
食事・栄養 (N)
0. 症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の医療水準の向上と療養に資する研究システムの構築班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和6年6月)