アジソン病(指定難病83)

あじそんびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. アジソン病とは

副腎皮質は3層の構造よりなり、球状層からはミネラルコルチコイドであるアルドステロンが、束状層からグルココルチコイドであるコルチゾールが、網状層から副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とその硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)が分泌されています。慢性副腎皮質機能低下症は、これらのステロイドホルモン分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態であり、副腎皮質自体の病変による 原発性 と、下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌不全による続発性に大別されます。原発性の慢性副腎不全は1855年英国の内科医であるThomas Addisonにより初めて報告された疾患であることから、Addison病とも呼ばれています。この原発性慢性副腎皮質機能低下症の病因には 先天性 のものと後天性のものが存在しますが、アジソン病は後天性の成因による病態を指します。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

我が国で行われた全国調査(厚生労働省特定疾患内分泌系疾患調査研究班「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)の報告によるとアジソンの患者数は約1000人と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代を追うごとに特発性の比率が増加しています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

アジソン病は、主に成人にみられ、一方先天性のものは主に小児期に発症がみられます。アジソン病のうち結核性の原因によるものは40~60歳に多く、男女比では男性に多いです。特発性のものでは発症年齢は広く分布して、性差はありません。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併する多腺性自己免疫症候群Ⅰ型(HAM症候群)は、小児期から発症がみられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか

アジソン病の病因は、感染症あるいはその他の原因及び特発性に分類されます。感染症では結核性が代表的ですが、真菌性や後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えています。特発性アジソン病は自己免疫性副腎皮質炎による副腎皮質低下症ですが、しばしば他の自己免疫性内分泌異常を合併し、多腺性自己免疫症候群と呼ばれています。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するⅠ型(HAM症候群)と、アジソン病に橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患を合併するⅡ型(Schmidt症候群)があります。特発性アジソン病では抗副腎抗体陽性のことが多く(60~70%)、ステロイド合成 酵素 のP450c21,P450c17などが 標的自己抗原 とされています。その他、癌の副腎転移、代謝異常などによる副腎の 変性 ・萎縮を起こす副腎白質ジストロフィー、Wolman病などがあります。

5. この病気は遺伝するのですか

特発性アジソン病で他の自己免疫性の内分泌疾患や病気と合併するものの中には遺伝子の関与が示唆されているものがあります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

副腎皮質ホルモンの欠落により、易疲労感、 全身倦怠感 、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などがみられます。食欲不振、 悪心 ・嘔吐、下痢などの消化器症状、精神症状(無気力、不安、うつ)など様々な症状が出てきますが、いずれも 非特異的 な症状です。色素沈着は皮膚、肘や膝などの関節部、爪床、口腔内にみられます。

  図1:アジソン病の症状と検査所見

図:アジソン病の症状と検査所見

7. この病気にはどのような治療法がありますか

不足するステロイドホルモンを補充します。急性副腎不全の発症時には、グルココルチコイドの速やかな補充と、水分・塩分・糖分の補給が必要であり、治療が遅れれば生命にかかわります。この病気では生涯にわたりグルココルチコイドと必要に応じてミネラルコルチコイドの補充が必要です。新生児期・乳児期には食塩の補充も必要となります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

副腎機能の回復は期待できないので、グルココルチコイドによる補充療法を生涯にわたって続ける必要がありますが、適切な補充療法を続けることによって副腎不全の症状もなく良好な一生を過ごすことができます。グルココルチコイドをストレス時に増量しなかったり、服用を忘れたりするとショックを起こし、生命の危険となります。適切な治療が行われれば予後は比較的良好です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

グルココルチコイド補充は、体調の変化などに伴い必要量が変動することを認識しておく必要があります。治療が軌道に乗った後も、発熱などのストレスにさらされた際には副腎不全を起こして重篤な状態に陥ることがあるため、ストレス時にはグルココルチコイドの内服量を通常の3倍量ないしは決められたストレス量(ヒドロコルチゾンで体表面積あたり60mg/日程度など)に増やして服用します。ストレス時で服薬困難な場合は自己(または家族による)注射を実施することが認められています。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

多腺性自己免疫症候群(APS)Ⅰ型(HAM症候群)
多腺性自己免疫症候群(APS)Ⅱ型(シュミット症候群)
特発性アジソン病
部分的アジソン病
後天性原発性副腎皮質機能低下症

【略語一覧】
ACTH: adrenocorticotropic hormone
AIDS: acquired immunodeficiency syndrome
APS: autoimmune polyglandular syndrome

 

情報提供者
研究班名 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年6月)