遺伝性鉄芽球性貧血(指定難病286)
○ 概要
1.概要
骨髄において、核の周囲に環状に鉄が沈着した赤芽球(環状鉄芽球)の出現を認める遺伝性貧血である。骨髄異形成症候群に代表される後天性鉄芽球性貧血との鑑別を必要とする。本邦においては赤血球におけるヘム合成の初発酵素である赤血球型アミノレブリン酸合成酵素の変異により発症する例がほとんどである。この場合はX染色体連鎖性の遺伝形式をとり、男児にのみに発症する。
2.原因
赤血球における鉄代謝・ヘム合成にかかわる遺伝子の異常により鉄の利用が障害され、ミトコンドリアに鉄が沈着し発症する。これまでに複数の種類の遺伝子変異が報告されている。
3.症状
主たる症状は、顔色不良、息切れ、動悸、めまい、易疲労感、頭痛などの貧血症状である。原因遺伝子が赤血球以外の細胞の機能障害をもたらす場合は、神経症状、筋症状、肝障害、膵臓機能障害などの全身症状を伴うことがある。鉄利用障害・輸血などにより鉄過剰症を合併しやすく、その場合、心臓・肝臓・内分泌器官の機能障害が認められる。
4.治療法
赤血球型アミノレブリン酸合成酵素の変異によるX連鎖性鉄芽球性貧血の場合は、本酵素の補酵素であるビタミンB6の投与により、半数以上の症例で貧血の改善が認められるが、それ以外の患者に対する治療法はない。世界的には数例で造血幹細胞移植が行われている。
5.予後
ビタミンB6が有効でない重症患者は、長期にわたり輸血が必要となるため、予後は不良である。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数
100人未満
2. 発病の機構
不明(原因遺伝子が同定されているものもある。)
3. 効果的な治療方法
未確立(長期にわたり輸血が必要となる。)
4. 長期の療養
必要
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
Stage3以上を対象とする。ただし、薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度10g/dL以上の者は対象外とする。
○ 情報提供元
「遺伝性貧血の病態解明と診断法の確立に関する研究班」
研究分担者 東北大学医学系研究科 教授 張替秀郎
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
遺伝性鉄芽球性貧血診断基準
A.症状
1.貧血(男性ヘモグロビン<13g/dL、女性ヘモグロビン<12g/dL)
2.神経・筋症状(一部の患者)
3.膵外分泌障害(一部の患者)
4.肝障害(一部の患者)
5.心機能障害(一部の患者)
B.検査所見
1.貧血(男性ヘモグロビンb<13g/dL、女性ヘモグロビン<12g/dL)
2.骨髄にて環状鉄芽球の出現(15%以上)
3.血清鉄の上昇、UIBCの低下、血清フェリチンの上昇
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
骨髄異形成症候群、二次性鉄芽球性貧血(薬剤性、アルコール性など)、他の先天性貧血(サラセミアなど)
D.遺伝学的検査
遺伝子の変異
ALAS2、SLC25A38、PUS1、ABCB7、GLRX5、SLC19A2、ミトコンドリアDNA
<診断のカテゴリー>
Definite:Bの3項目を全て満たし、Dのいずれかの異常を認める場合
Probable:小児期に発症し、Bの3項目を全て満たし、Cの鑑別する疾患を除外し、家族歴を有する場合
<重症度分類>
Stage3以上を対象とする。ただし、薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度10g/dL以上の者は対象外とする。
stage 1 |
軽 症 |
薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度10 g/dL 以上 |
stage 2 |
中等症 |
薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度7~10 g/dL |
stage 3 |
やや重症 |
薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度7g/dL 以上 |
stage 4 |
重 症 |
薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度7g/dL 未満 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
研究班名 | 遺伝性骨髄不全症の登録システムの構築と診断基準・重症度分類・診断ガイドラインの確立に関する研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月) |