グルコーストランスポーター1欠損症(指定難病248)
1. 「グルコーストランスポーター1欠損症」とはどのような病気ですか
グルコーストランスポーター1欠損症は、脳のエネルギー源であるグルコースが脳内に取り込まれないことにより生じる病気です。乳児期早期に、眼球の異常な動き、けいれん発作で発症し、経過とともに発達の遅れ、手や足を動かす時に力が入ってしまう痙性麻痺、ふらつき・ことばのもつれ・不器用がみられる運動失調、何かをしょうとして、からだを動かすと筋肉に力が入ってしまい、思う通りに動かせなくなるジストニアなどのさまざまな症状が現れます。背中に針を刺して採取した髄液中のグルコースの値が低いこと(髄液糖低値)がグルコーストランスポーター1欠損症の診断の手がかりとなります。最終的には遺伝子検査で診断は確定されます。グルコーストランスポーター1欠損症はケトン食による食事治療が有効な疾患で、患者さんの生活の質が改善することが期待されます。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
日本小児神経学会が支援する共同研究における全国実態調査では80人以上が確認されていますが、まだ全国に未診断の小児、成人例が多く存在すると考えられています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
人種差や性別に差はないようです。空腹(特に早朝)、運動、疲労・睡眠不足、体温上昇時に悪化し、食事、安静、休息・睡眠によって改善する神経症状をもつ患者さんがこの病気である可能性があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
患者さんの多くで、両親から受け継いだSLC2A1遺伝子のどちらかに新しく生じた遺伝子の 変異 がみつかります。脳が通常エネルギー源として使用できるのはグルコースのみです。SLC2A1遺伝子の変異によって、血中から脳内にグルコースを運ぶ働きをするグルコーストランスポーター1が欠損します。小児における脳のグルコース需要は成人の3〜4倍とされています。発達期の脳へのグルコースの供給が十分でないと脳の機能や発達に大きな影響を及ぼすことになります。グルコーストランスポーター1蛋白の機能が50%しか保てない変異をもつ患者さんがグルコーストランスポーター1欠損症の典型例(より重症なタイプ)となります。50〜75%ほど保てている変異では症状は軽症化し、75%以上ある場合には軽微な症状のみを示す軽症例もあります。
5. この病気は遺伝するのですか
大規模な調査では孤発例が多いとされていますが、家族例の報告も少なからずあります。 常染色体顕性遺伝(優性遺伝) 形式が多数ですが、 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) 形式も報告されています。同一の遺伝子変異を持つ患者さんでも、重症度が異なることはあり、家族例では、同じ変異を持っていても、病気の重さや症状に差があります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
最初の症状として、乳児期に異常眼球運動、けいれん、息を止める様子(無呼吸)などの症状が現れたり、消えたりします。経過とともに、発達の遅れ、痙性麻痺、運動失調、ジストニアなどのさまざまな症状が出現します。患者さんの80〜90%にてんかん発作があり、多くは乳児期に発症しています。運動失調、眠気や意識レベルの変化、運動麻痺、ジスキネジア、頭痛、嘔吐などの症状が突然現れることもあります。こうした症状が、空腹(特に早朝空腹時)、運動、疲労・睡眠不足、体温上昇などで引き起こされ、食事、安静、休息・睡眠によって改善することが特徴です。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
てんかん発作に対しては、発作型を考慮した抗てんかん薬による内服治療が行われます。病気により低下した知的・身体的能力を高め、基本的動作能力や社会的適応能力を得るために、リハビリや療育が行われます。表面的な症状の緩和を主な目的とする対症療法だけでなく、この病気の原因治療に近い食事療法があります。グルコースに代わりケトン体をエネルギー源として脳に供給できるケトン食療法は、てんかん発作やその他の発作症状を抑えることにはっきりと効果があり、知的能力、運動能力、脳の目覚め度(覚醒度)、意欲も向上させるので、早期診断のもとに開始されるべき治療です。平成24年度より、グルコーストランスポーター1欠損症がケトンフォーミュラ(明治817-B)の適応疾患( 先天性 代謝異常症治療用ミルク関係事業)となりました。調製粉ミルクなので、乳児早期からの治療も可能です。ケトン食療法にはいくつかの種類があり、古典的ケトン食療法や修正アトキンズ食療法などがありますが、効果には大きな違いはありません。どちらを選ぶかは、主治医や栄養士と相談してください。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
てんかんは、思春期を経て軽減し、さらには消失することもあります。一方、発作性ジスキネジア、痙性麻痺や運動失調などの運動障害や他の発作性症状が、思春期以降に新たに出現したり、小児期から現れていれば悪化したりすることもあります。 生命予後 には別状はありませんが、早期にケトン食で治療が開始されることにより脳機能の改善が期待されます。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
理論的には、グルコーストランスポーター1の機能を抑制する飲食物(カフェイン、アルコール)は避けておいた方がよいでしょう。ケトン食療法導入後は、糖質をとることで悪化することがありますので、用意したもの以外は食べないように注意してください。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
グルコーストランスポーター1欠損症症候群、グルコーストランスポーター1異常症
11. この病気に関する資料・関連リンク
・glut1異常症患者会(連絡先: glut1glut@yahoo.co.jp)
以下の資料を請求できます。
グルコーストランスポーター1欠損症ハンドブック
グルコーストランスポーター1欠損症サポートファイル
用語解説
グルコーストランスポーター1:脳の毛細血管内皮に存在し、血中のグルコースを脳内に輸送する蛋白質(輸送体タンパク質)です。英語ではGlut1あるいはGLUT1と略し、グルットワンと読みます。
ケトン食療法:厳格に設定された高脂肪、低炭水化物の組成の食事によって体内にケトン体を産生させ、てんかん発作を抑制する特殊な食事療法です。
孤発例:家族の中にはまったく発病者がみられないのに、突然発病者があらわれる場合のことです。本人の遺伝子の変異が、両親のどちらかに由来するのではなく、本人で初めて発生したと考えられます。
てんかん:大脳の神経細胞の過剰な興奮で、てんかん発作を繰り返し起こす病気です。てんかん発作には、突然意識を失ったり、呼びかけへの反応がにぶったり、上肢や下肢に勝手に力が入るなどのさまざまなタイプがあります。
運動麻痺:手足を動かそうとしても、力が入ってしまったり(痙性麻痺)、抜けてしまったりして(弛緩性麻痺)、十分に力が発揮できない状態です。
ジスキネジア:自分の意志に関係なく、からだが勝手に動いてしまうさまざまな運動の異常のことです。
研究班名 | 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班 研究班名簿 研究班ホームページ |
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情報更新日 | 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月) |