1p36欠失症候群(指定難病197)

いちぴー36けっしつしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
1番染色体短腕末端1p36領域の欠失によっておこる染色体異常症候群である。成長障害、重度精神発達遅滞、難治性てんかんなどの症状を来たす。
 
2.原因
先天的な要因による1番染色体短腕末端の欠失が原因である。1番染色体短腕末端の欠失が単独で突然起こる場合と、両親のうちの一方の均衡転座が原因となる不均衡転座による場合がある。
 
3.症状
成長障害、重度精神発達遅滞、難治性てんかんなどが主な症状である。落ちくぼんだ眼、尖った顎などの特徴的な顔貌もほぼ全例に認められる。乳児期には筋緊張低下、哺乳不良が認められることがある。合併症として先天性心疾患、難聴、斜視、白内障、肥満、稀に神経芽細胞腫を生じることがある。
 
4.治療法
根本的な治療法はない。ただし、発達の遅れや筋緊張低下に対して、乳幼児期早期からの療育訓練により症状の緩和が得られる可能性がある。けいれん発作に対しては、抗けいれん剤による加療によって寛解が得られる可能性があり、発達予後の改善にも有効である。また、患者家族にとっては、遺伝学的診断に基づく遺伝カウンセリングが欠かせない。
 
5.予後
精神発達遅滞は治癒することなく生涯にわたって持続する。てんかん発作の予後にはばらつきがあり、寛解が得られる場合もあれば、生涯にわたって持続する場合もある。先天性心疾患を合併している場合には、その治療の成否が生命予後に影響する。100人中2人程度で原因不明の突然死の報告があり、注意を要する。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約100人
2.  発病の機構
不明(1番染色体短腕末端から2Mb前後の領域を欠失すると主な症状を引き起こすと考えられているが、原因遺伝子は特定されていない。)
3.  効果的な治療方法
未確立(根本的な治療法はない。)
4.  長期の療養
必要(生涯にわたり症状が持続。)
5.  診断基準
あり(研究班が作成した診断基準あり)
6.  重症度分類
以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合。
2)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。
3)先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
 
○ 情報提供元
「1p36欠失症候群の実態調査と合併症診療ガイドライン作成」
研究代表者 東京女子医科大学 准教授 山本俊至
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
1p36欠失症候群の診断基準
 
A.症状
【大症状】
I.    精神発達遅滞(IQ70未満)
II.   特徴的顔貌(まっすぐな眉毛、落ち窪んだ眼、眼間狭小、尖った顎)
III.   てんかん発作(てんかん発作のタイプは様々であり、点頭てんかんを生じる場合もある。)
*I、IIは必須項目。IIIは必須ではない。
【小症状】(合併しうる症状)
I.    先天性心奇形や心筋症などの心疾患
II.   大脳皮質の形成障害
III.   口唇・口蓋裂、軟口蓋裂とそれによる鼻咽腔閉鎖不全
IV.  大泉門の閉鎖遅延
V.   指趾の変形
VI.  甲状腺機能低下
VII.視力調節障害
VIII.難聴
IX.  尿道下裂
X.   肥満
XI.  その他
 
B.検査所見
上記症状より1p36症候群と考えられた患者において、何らかの遺伝学的検査により1番染色体短腕サブテロメアの欠失を確認することにより確定される。ただし、テロメアから1.8~2.2Mbの領域の欠失を含んでいること。これよりテロメア側だけの欠失や、これよりセントロメア側の欠失は除外される。2.2Mbよりセントロメア側だけの欠失は、proximal 1p36欠失症候群に分類される。
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群
 
D.遺伝学的検査
1.染色体1p36領域の欠失
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち大症状のI、IIを認め、染色体1p36領域の欠失を認めたもの。
Possible:Aのうち大症状のI、IIを認めたもの。
<重症度分類>
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
 
1)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
 
2)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
3)先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9METs

基準値の60~80%

III

2~3.4METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

  • 1p36欠失症候群家族会ホームページ
    http://square.umin.ac.jp/ch1p36/ch1p36.html
  • 「1p36欠失症候群ハンドブック」診断と治療社, 東京、2012.
  • Shimada S, et al. Microarray analysis of 50 patients reveals the critical chromosomal regions responsible for 1p36 deletion syndrome-related complications. Brain Dev 37: 515-26, 2015.
情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和2年8月(名簿更新:令和6年6月)