環状20番染色体症候群(指定難病150)
○ 概要
1.概要
主症状は、難治な非痙攣性てんかん重積状態(意識が曇り、適切な行動ができない。)であり、ミオクローヌス、小型又は大型の運動発作、意識減損発作、非対称性の強直発作、過運動発作を伴うこともある。てんかんの平均発症年齢は6歳(0~24歳)。特徴的な脳波異常を伴う。さまざまな程度の知的障害や行動障害を伴うことがある。
2.原因
20番染色体が0.5~100%の率で環状になっている。原因は不明であり、遺伝子異常も明らかでない。
3.症状
数十分間意識が曇る非痙攣性てんかん重積状態が日単位あるいは週単位で頻発する。ミオクローヌスを伴うこともある。小型又は大型の運動発作、意識減損発作、非対称性の強直発作、過運動発作がみられることが、特に小児では多い。脳波では、高振幅徐波や鋭波が単発あるいは短い連続で頻回に出現し、容易に両側化する。発作時には、長時間持続する両側性の高振幅徐波がみられ、周波数が変動し、小棘波や棘徐波が混在する。
外表奇形はまれである。さまざまな程度の知的障害や行動障害を伴うことがある。全ての細胞で環状染色体がみられる例はまれであるが、その場合、奇形や重症の精神発達遅滞がみられる。
4.治療法
抗てんかん薬(バルプロ酸、ラモトリギンなど)をはじめ種々の薬物が用いられるが、極めて薬剤抵抗性であり、発作寛解は得がたい。外科治療は無効である。
5.予後
10~15歳頃には脳波および発作症状はほぼ固定し、その後進行性に増悪することは少ないが、年齢とともに発作が軽減することもなく、てんかんは難治なままである。頻発する非痙攣性てんかん重積状態では、動作緩慢、発語減少、保続、注意散漫、反応の遅延、あるいは不機嫌を示したり、不適切な応答や行動をすることが少なくないため、社会的な支障が極めて大きい。痙攣重積状態になり重篤な後遺症を残したり、死に至る転帰をとることもある。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(20番染色体の環状構造による。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法として抗てんかん薬治療が行われるが、奏功しない。)
4. 長期の療養
必要(生涯持続する。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究協力者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 外部研究員 池田 仁
<診断基準>
Definiteを対象とする。
環状20番染色体症候群の診断基準
A.症状
1. 非痙攣性てんかん重積状態:動揺性の意識障害や認知障害を示し、口周囲などのミオクローヌスを伴うことがある。1回の持続は数分から数十分で、1時間以上続くことは少ない。発作は頻回でしばしば日に何回もみられる。
2. 小型又は大型の運動発作:小児期には自動症や運動現象を伴う短い意識減損発作や幻視や恐怖感などがみられることがある。夜間睡眠時に多い。全身痙攣発作が見られることもある。
3. 精神遅滞や衝動性・攻撃性などの行動障害を呈することもある。特徴的な奇形はなく、あっても軽微である。
B.検査所見
1. 血液・生化学的検査所見:特異的所見なし。
2. 画像検査所見:特異的所見なし。
3. 生理学的所見:脳波では高振幅徐波や鋭波が単発あるいは短い連続で頻回に出現し、前頭・側頭部に優位性を示したり、側方性を示すこともあるが、容易に両側化する。小児では比較的脳波異常が乏しいこともあるが、長じるにつれ顕著となる。発作時の脳波は長時間持続する両側性の高振幅徐波であり、その周波数はしばしば変動し、小棘波や棘徐波複合が混在する。
4. 病理所見:外科的切除標本で異常が指摘されたことはない。
C.鑑別診断
レノックス・ガストー症候群、前頭葉てんかん、非痙攣性てんかん重積状態を示す他のてんかん、非てんかん性心因性発作などを鑑別する。
D.染色体検査
20番染色体の精査を行う。環状染色体は0.5~100%のモザイクのため、多くの細胞を調べないとわからないことがある。
<診断のカテゴリー>
Definite: A-1、2及びB3から本症候群を疑い、染色体検査で確定する。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 池田 仁.環状20番染色体症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き.日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;256-260.
- Inoue Y, Fujiwara T et al.: Ring chromosome 20 and nonconvulsive status epilepticus. A new epileptic syndrome. Brain 120: 939-53, 1997
- Conlin LK, Kramer W et al.: Molecular analysis of ring chromosome 20 syndrome reveals two distinct groups of patients. J Med Genet 48: 1-9, 2010
- 井上有史:環状20番染色体。専門医のための精神科臨床リュミエール14: 89-92, 2009
- 池田 仁:環状20番染色体てんかん症候群。Epilepsy 6(2); 107-114, 2012