ヤング・シンプソン症候群(指定難病196)
○ 概要
1.概要
ヤング・シンプソン(Young-Simpson)症候群は、1)特徴的な顔貌、2)精神発達の遅れ:中等度から重度、3)眼症状:眼瞼裂狭小を必須として付随する弱視・鼻涙管閉塞など、4)骨格異常:内反足など、5)内分泌学的異常:甲状腺機能低下症、6)外性器異常、などを特徴とする先天異常症候群でヒストンアセチル化酵素KAT6Bの異常を原因とするとされている。外性器・膝蓋骨(genitopatellar)症候群もKAT6Bの異常を原因とし、関連疾患としてまとめられる。現在まで100例近くの報告が確認されている。羊水過多、新生児期の哺乳不良など、早期から生涯にわたっての医療管理を必要とする。国内でも、遺伝学的検査が可能となり、変異陽性例が報告されている。
2.原因
2011年にヒストンアセチル化酵素KAT6Bの異常が原因であることが判明した(Clayton-Smith, 2011; Simpson, 2012; Campeau, 2012)。現在まで30例近くの報告が確認されている。しかし、多臓器にわたる病態のメカニズムは、ほとんど解明されておらず、今後の課題でもある。
3.症状
診断基準は、以下の主要6症状からなる。1)特徴的な顔貌、2)精神発達の遅れ:中等度から重度、3)眼症状:眼瞼裂狭小を必須として付随する弱視・鼻涙管閉塞など、4)骨格異常:内反足、膝蓋骨低形成など、5)内分泌学的異常:甲状腺機能低下症、6)外性器異常:主に男性で停留精巣および矮小陰茎。補助項目として、 羊水過多、新生児期の哺乳不良、難聴、行動特性、泌尿器系異常、遺伝子診断によりKAT6B遺伝子に疾患特異的変異を検出することがあげられる。
主な合併症として、約7割で羊水過多を認める。新生児期の特徴は、出生後の軽度呼吸障害があり、哺乳障害はほぼ必発である。哺乳力が弱く、鼻からよくミルクが出てくるなどといった症状に加えて、体幹の反り返りが強くて直接授乳(母乳)が困難なことが多い。筋緊張の低下や後弓反張も認める。眼瞼裂は狭小でほとんど目は開けない。哺乳不良を多く認めるが、経管栄養が行われた場合には体重増加不良は目立たなくなる。身長は正常かやや低い傾向にある。
感覚器としては、強度の弱視、難聴は多く、医療管理が必要な程度のものが多く、成人期のQOLに影響しうる合併症である。機能的な問題点としててんかんの合併がある。精神発達の遅れは中等度から重度で、表出言語は極めて乏しく、理解言語と表出言語の差が大きい。
4.治療法
対症療法が中心となっている。内反足では固定の他に手術治療を選択することも少なくない。先天性心疾患についても同様である。眼科的評価は不可欠で、鼻涙管閉塞に対した処置や屈折異常に対しての眼鏡処方なども必要である。早期の療育参加やリハビリテーションは重要である。甲状腺機能低下症に対しては甲状腺ホルモン投与などが必要。聴覚評価に基づき、補聴器も検討する。生涯にわたる医療管理はよりよい生活のために必要とされている。
5.予後
先天性心疾患やてんかん、新生児・乳児期の気道感染などの合併症管理による。また、感覚器合併症(眼科的合併症・難聴)も根治は不可能である。精神発達の遅れについては、療育・リハビリテーション等の早期からの介入が予後に影響を与える。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(KAT6B遺伝子の関連が示唆されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4. 長期の療養
必要(多くの症状が継続する。)
5. 診断基準
あり(学会承認の診断基準あり。)
6. 重症度分類
以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合。
2)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でⅡ度以上に該当する場合。
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
○ 情報提供元
「ヤング・シンプソン症候群の診断基準作成と実態把握に関する研究」
研究代表者 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター遺伝科 部長 黒澤健司
「先天異常症候群の登録システムと治療法開発をめざした検体共有のフレームワークの確立」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
<診断基準>
確定診断例及び臨床診断例を対象とする。
原因遺伝子(KAT6B等)に変異を認めればヤング・シンプソン症候群(外性器・膝蓋骨症候群も含む)と診断が確定する。変異を認めない場合もあり、下記の症状の組み合わせがあれば臨床診断される。
A.主要臨床症状
1. 眼瞼裂狭小と膨らんだ頬からなる特徴的な顔貌
2. 精神遅滞:中等度から重度
3. 眼症状:眼瞼裂狭小を必須として付随する弱視・鼻涙管閉塞など
4. 骨格異常:内反足、膝蓋骨低形成など
5. 内分泌学的異常:甲状腺機能低下症
6. 外性器異常:主に男性で停留精巣及び矮小陰茎
<診断のカテゴリー>
主要臨床症状のうち1~3を必須とし、4項目以上を満たす場合にヤング・シンプソン症候群と臨床診断。
<重症度分類>
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
2)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類
I度 |
心疾患はあるが身体活動に制限はない。 |
II度 |
軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。 |
III度 |
高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。 |
IV度 |
心疾患のためいかなる身体活動も制限される。 |
NYHA: New York Heart Association
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。
NYHA分類 |
身体活動能力 |
最大酸素摂取量 |
I |
6METs以上 |
基準値の80%以上 |
II |
3.5~5.9 METs |
基準値の60~80% |
III |
2~3.4 METs |
基準値の40~60% |
IV |
1~1.9 METs以下 |
施行不能あるいは |
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 平成23-24年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「ヤング・シンプソン症候群の病態解明と医療管理指針作成に関する研究」報告書(研究代表者 黒澤健司)
- 平成25年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「ヤング・シンプソン症候群の病因・病態解明と治療法開発のための基盤整備に関する研究」報告書(研究代表者 黒澤健司)
ホームページ: http://kcmc.jp/yss/index.html
研究班名 | 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月) |