ウィリアムズ症候群(指定難病179)

うぃりあむずしょうこうぐん
 

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○ 概要
 
1.概要
ウィリアムズ(Williams)症候群は、特徴的な妖精様顔貌、精神発達の遅れ、大動脈弁上狭窄及び末梢性肺動脈狭窄を主徴とする心血管病変、乳児期の高カルシウム血症などを有する隣接遺伝子症候群。症状の進行を認める疾患であり、加齢によりとくに精神神経面の問題、高血圧が顕著になる。これらの症状に対し、生涯的に医療的、社会的介入が必要である。
 
2.原因
染色体7q11.23微細欠失が病因である。エラスチン(ELN)など以下に挙げる遺伝子を含めて、7q11.23領域(20余の遺伝子が座位する)の複数の遺伝子の欠失(ヘテロ接合)により発症する隣接遺伝子症候群と考えられる。微細欠失は、FISH法によりELN遺伝子を含むプローブで検出できる。
 
3.症状
子宮内発育遅延を伴う成長障害、精神発達の遅れ(表出能より認知能の問題が目立つ、特に視覚性認知障害あり、多動・行動異常あり。)、妖精様顔貌:elfin face(太い内側眉毛、眼間狭小、内眼角贅皮、腫れぼったい眼瞼、星状虹彩(stellate iris)、鞍鼻、上向き鼻孔、長い人中、下口唇が垂れ下がった厚い口唇、開いた口など)、社交的で、多弁な性格、外反母趾、爪低形成、歯牙低形成・欠損、低い声を認める。先天性心疾患(大動脈弁上狭窄、末梢性肺動脈狭窄など)、高カルシウム血症、腎動脈狭窄、冠動脈狭窄、泌尿器疾患(石灰化腎、尿路結石、低形成腎、膀胱憩室、膀胱尿管逆流など)を合併する。成人期は、高血圧、関節可動制限、尿路感染症、消化器疾患(肥満、便秘、憩室症、胆石など)が問題となる。突然死や麻酔関連死が報告されている。
 
4.治療法
乳児期には、嘔吐、便秘、哺乳不良、コリックによる体重増加不良を認め、筋緊張低下、雷などの音に過敏な場合(聴覚過敏)が多い。中耳炎を繰り返す。約50%に鼠径ヘルニアを認め、手術を必要とする。
独歩は平均で21か月、発語が21.6か月と遅れを認める。SVAS:大動脈弁上部狭窄症(64 %)、PPS:末梢性肺動脈狭窄(24%)、VSD:心室中隔欠損(12%)などの心疾患を認め、18%で手術が必要である。SVASは進行性であるが、PPSは改善することが多い。
IQは平均56である。視空間認知障害、特異的認識パターンを認める。注意欠陥障害を84%で認める。微細運動を必要とする活動が苦手。共動性斜視や遠視等視覚障害及び音への過敏性なども目立つ。不正咬合、エナメル形成不全等がみられる。夜尿、便秘が多い。頻尿も全ての年齢層で認められる。関節可動制限が進行し、つま先歩行、脊椎前弯がみられる。   
成人期には、先天性心疾患に加え高血圧(22 歳以上の60%)が認められる。脳血管障害発作にも注意が必要である。慢性便秘、胆石、結腸憩室などの消化器症状や肥満がみられ、尿路感染症を繰り返す。進行性関節可動制限(90%)、脊椎前弯、側弯が認められる。
全年齢を通じてビタミンDを含む総合ビタミン剤の投与には注意が必要である。また、麻酔中の突然死の報告があり、心臓カテーテル検査や外科手術に際しては、注意を要する。乳児期から聴覚、視覚の試験を随時行い、言語療法等のサポートを行う。不明熱の際には尿路感染症の可能性が常にある。
 
5.予後
大動脈弁上狭窄・末梢性肺動脈狭窄など、さまざまな部位の血管狭窄を呈するため、心血管と高血圧に対する定期的なフォローアップが必要である。重症の大動脈弁上狭窄には手術が考慮される。心筋梗塞による突然死のリスクがあるため、特に流出路の狭窄と心筋肥大がある症例には注意する。麻酔時に起きることもある。また、大動脈弁閉鎖不全が20%程度に、僧帽弁逸脱が15%程度の患者に起きる。
50%程度の患者に高血圧が発症するが、そのリスクは加齢とともに上昇する。腎血管性高血圧により発症しているときには、腎動脈形成術を行う。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(本質的な治療法はない。種々の合併症に対する対症療法。)
4.  長期の療養
必要(発症後生涯継続又は潜在する。)
5.  診断基準
あり(学会承認の診断基準あり。)
6.  重症度分類
1.小児例(18才未満)
小児慢性疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
 
○ 情報提供元
「染色体微細構造異常による発達障害の実態把握と疾患特異的iPS細胞による病態解析・治療法開発」
研究代表者 東京女子医科大学統合医科学研究所 准教授 山本俊至 
「小児慢性特定疾患の登録・管理・解析・情報提供に関する研究」
研究代表者 国立成育医療研究センター 病院長 松井陽  
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎 
 
 
<診断基準>
A.症状
乳幼児期からの成長障害・低身長、精神発達遅滞、妖精様顔貌:elfin face(太い内側眉毛、眼間狭小、内眼角贅皮、腫れぼったい眼瞼、星状虹彩(stellate iris)、鞍鼻、上向き鼻孔、長い人中、下口唇が垂れ下がった厚い口唇、開いた口など)特徴的な心疾患(大動脈弁上部狭窄、末梢性肺動脈狭窄など)、成人期知的障害・社会適応困難、高血圧、耐糖能異常など。

B.遺伝学的検査
染色体検査でELN遺伝子を含むプローブで、FISH法により7q11.23微細欠失を認める。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの症状を複数認めて当該疾患を疑い、Bを満たすもの。
 
 
 
<重症度分類>
1.成人例
下記に該当する者を対象とする。
・先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。

NYHA分類

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association

 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

 

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9METs

基準値の60~80%

III

2~3.4METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

 
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
 
2.小児例(18歳未満)
小児慢性疾病の状態の程度に準ずる。
・治療中である場合又は第2基準を満たす場合。
 
第2基準

第2基準

次の①から⑨までのいずれかが認められていること。①肺高血圧症(収縮期血圧40mmHg以上)、②肺動脈狭さく窄症(右室―肺動脈圧較差20mmHg以上)、③2度以上の房室弁逆流、④2度以上の半月弁逆流、⑤圧較差20mmHg以上の大動脈狭さく窄、⑥心室性期外収縮、上室性頻拍、心室性頻拍、心房粗細動又は高度房室ブロック、⑦左室駆出率0.6以下、⑧心胸郭比60%以上、⑨圧較差20mmHg以上の大動脈再狭さく窄

(引用:厚生労働省告示第四百七十五号)


※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年7月)