プラダー・ウィリ症候群(指定難病193)

ぷらだーうぃりしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
1956年内分泌科医のプラダーと神経科医のウィリが合同で発表した先天異常症候群である。15番染色体長腕の異常による視床下部の機能障害のため、満腹中枢をはじめ体温、呼吸中枢などの異常が惹起される。頻度は、1万人から1万5千人に1人とされ、人種差はないとされている。
 
2.原因
15番染色体長腕上の刷り込み遺伝子の障害で、欠失型、片親性ダイソミー型、刷り込みセンターの異常など3つの病因が考えられている。現在では、メチレーション試験により、99%以上の確定診断が可能である。遺伝子異常は、15番染色体15q11-q13領域の欠失(70%)、同領域の母性ダイソミーUPD(25~28%)、同領域のメチル化異常(2~5%)とされる。病因の違いで多少の臨床症状に差は出るが、原則同様と考えてよい。父性発現遺伝子SNORD116の発現消失がプラダーウイリ症候群を招く最も重要な原因とされている。
 
3.症状
内分泌・神経の症状を有する先天異常症候群であり、内分泌学的異常(肥満、低身長、性腺機能障害、糖尿病など)、神経学的異常(筋緊張低下、特徴的な性格障害、異常行動)がみられる。他に、小さな手足、アーモンド様の目、色素低下など身体的な特徴を示す。臨床症状の特徴は、年齢毎に症状が異なることである。乳児期は、筋緊張低下による哺乳障害、体重増加不良、幼児期から学童期には、過食に伴う肥満、思春期には二次性徴発来不全、性格障害、異常行動、成人期には、肥満、糖尿病などが問題となる。
 
4.治療法
現在まで治療の根幹は、①食事療法、②運動療法、③成長ホルモン補充療法、④性ホルモン補充療法、⑤精神障害への対応の5つである、①から④までの治療は、ほぼ世界的に認容されている。⑤に関しては、今後の課題である。
 
5.予後
主に肥満に関連した心血管障害・睡眠時無呼吸・糖尿病が生命予後に影響を与える。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
150人
2.  発病の機構
不明(原因不明又は病態が未解明)
3.  効果的な治療方法
未確立(本質的な治療法はない。種々の合併症に対する対症療法)
4.  長期の療養
必要(発症後生涯継続又は潜在する。)
5.  診断基準
あり(学会承認の診断基準あり)
6.  重症度分類
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
成人例は、以下の1)~2)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)コントロール不能な糖尿病もしくは高血圧。
2)睡眠時無呼吸症候群の重症度分類において中等症以上の場合
 
○ 情報提供元
「Prader-Willi症候群の診断・治療指針の作成研究班」
研究代表者 獨協医科大学越谷病院 教授 永井敏郎 
「ゲノムインプリンティング異常症5疾患の実態把握に関する全国多施設共同研究」研究班 
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科 教授 有馬隆博
「先天異常症候群の登録システムと治療法開発をめざした検体共有のフレームワークの確立」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
「小児慢性特定疾患の登録・管理・解析・情報提供に関する研究」
研究代表者 国立成育医療研究センター 病院長 松井陽
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
主要所見
ゲノム刷り込み現象プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群
プラダー・ウィリ症候群に対するDNA診断の適応基準

診断時年齢DNA診断の適応基準

出生~2歳 1.哺乳障害を伴う筋緊張低下
2~6歳

1.哺乳障害の既往と筋緊張低下

2.全般的な発達遅延

6~12歳

1.筋緊張低下と哺乳障害の既往(筋緊張低下はしばしば持続)

2.全般的な発達遅延

3.過食(食欲亢進、食べ物への異常なこだわり)と中心性肥満(適切な管理がなされない場合)

13歳~成人

1.知的障害、通常は軽度精神遅滞

2.過食(食欲亢進、食べ物への異常なこだわり)と中心性肥満(適切な管理がなされない場合)

3.視床下部性性腺機能低下、そして/もしくは、典型的な行動の問題(易怒性や強迫症状など)


<診断のカテゴリー>
【Definite】:下記の①又は②に該当する場合
①プラダー・ウィリ症候群責任領域を含むプローブを用いたFISH法で欠失を認める。
②第15染色体近位部のインプリンティング領域(PWS-IC)のメチレーション試験で異常(過剰メチル化)が同定されること。
 
 
<重症度分類>
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
 
2.成人例
1)~2)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)コントロール不能な糖尿病もしくは高血圧
2)睡眠時無呼吸症候群の重症度分類において中等症以上の場合
 
・コントロール不能な糖尿病とは、適切な治療を行っていてもHbA1c(NGSP値)>8.0、
コントロール不能な高血圧は、適切な治療を行っていても血圧>140/90mmHg
が3か月以上継続する状態を指す。
 
・睡眠時無呼吸症候群の定義:
一晩(7時間)の睡眠中に30回以上の無呼吸(10秒以上の呼吸気流の停止)があり、そのいくつかはnon-REM期にも出現するものを睡眠時無呼吸症候群と定義する。1時間あたりでは、無呼吸回数が5回以上(AI≧5)で睡眠時無呼吸症候群とみなされる。
 
・睡眠時無呼吸症候群の重症度分類:
睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数をAHI(Apnea Hypopnea Index)=無呼吸低呼吸指数と呼び、この指数によって重症度を分類する。なお、低呼吸(Hypopnea)とは、換気の明らかな低下に加え、動脈血酸素飽和度(SpO2)が3~4%以上低下した状態又は覚醒を伴う状態を指す。
 

 

軽症

5 ≦ AHI < 15

中等症

15 ≦ AHI < 30

重症

30 ≦ AHI

 
(成人の睡眠時無呼吸症候群 診断と治療のためのガイドライン 2005)
 
 
 
 
 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 成長障害・性分化疾患を伴う内分泌症候群(プラダーウイリ症候群・ヌーナン症候群を含む)の診療水準向上を目指す調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)