5p欠失症候群(指定難病199)
○ 概要
1.概要
5p欠失症候群は5番染色体短腕の部分欠失に基づく染色体異常症候群の1つである。本症候群の頻度は15,000~50,000出生に1人とされ、また精神発達の遅れを示す患者350人に1人の割合を占めるとされる。小頭症、小顎症、発達の遅れ、筋緊張低下を主徴とする。
2.原因
本症候群の原因となる染色体構造変化として、85%が5p欠失症候群責任領域を含む5番染色体短腕の欠失、12%が不均衡型相互転座、5%が二系統の構造異常による染色体モザイク、約1%が両親いずれかの持つ染色体逆位に由来した構造異常による発症とされる。
3.症状
低出生体重(2,500g未満)、成長障害、新生児期から乳児期に認める甲高い猫のなき声のような啼泣は高頻度に認められる特徴的所見である。この他に小頭、丸顔、眼間開離、小顎、内眼角贅皮、耳介低位などの顔貌所見や筋緊張低下、精神運動発達の遅れの所見を伴う。思春期から成人期以降では小頭が顕著になり、面長の顔や大きな口などが目立つようになり、筋緊張亢進へと変化するなど、年齢とともに臨床所見の変化を認める。
4.治療法
年代ごとに注意すべき合併症が異なるため、それに応じた治療、対応が必要となる。新生児期は主に呼吸症状や哺乳障害の治療、成長障害の管理が中心となる。てんかんに対しては必要に応じて薬物療法、心疾患に対しては必要に応じて手術や薬物療法を行う。
5.予後
主に難治性てんかんの併存及び合併する心疾患により予後が左右される。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数
約1,000人以下(5万出生に1人、おそらく1,000人以下と推定される。)
2. 発病の機構
不明
3. 効果的な治療方法
未確立(本質的な治療法はない。種々の合併症に対する対症療法。)
4. 長期の療養
必要(発症後生涯継続又は潜在する。)
5. 診断基準
あり(学会承認の診断基準有り。)
6. 重症度分類
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
成人例は、以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合。
2)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
○ 情報提供元
「染色体微細構造異常による発達障害の実態把握と疾患特異的iPS細胞による病態解析・治療法開発」
研究代表者 東京女子医科大学統合医科学研究所 准教授 山本俊至
「小児慢性特定疾患の登録・管理・解析・情報提供に関する研究」
研究代表者 国立成育医療研究センター 病院長 松井陽
<診断基準>
乳・幼児期から下記の主要臨床症状を全て認め、染色体検査により第5番染色体の5p15領域が欠失している場合、5p欠失症候群と診断する。
主要臨床症状
1.新生児期から乳児期に認める甲高い啼泣
2.小頭症
3.成長障害
染色体検査には、ギムザ染色(G-banding)法・5p欠失症候群責任領域を含むプローブを用いたFISH法もしくはマイクロアレイ染色体検査が用いられる。
<重症度分類>
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
2) 先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類
I度 |
心疾患はあるが身体活動に制限はない。 |
II度 |
軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。 |
III度 |
高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。 |
IV度 |
心疾患のためいかなる身体活動も制限される。 |
NYHA: New York Heart Association
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。
NYHA分類 |
身体活動能力 |
最大酸素摂取量 |
I |
6METs以上 |
基準値の80%以上 |
II |
3.5~5.9METs |
基準値の60~80% |
III |
2~3.4METs |
基準値の40~60% |
IV |
1~1.9METs以下 |
施行不能あるいは |
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- FIVE P MINUS SOCIETY:
http://www.fivepminus.org/
*本邦でも患者家族会がある。
研究班名 | 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和2年8月(名簿更新:令和6年6月) |