クローン病(指定難病96)
1.クローン病(Crohn病)の理解に必要な情報
【消化管とは】
私たちは食物を消化し栄養を吸収することで生命を維持するために必要なエネルギーを得ています。食物を体内に取り込み、消化、吸収し、最終的には不要物を排泄するまでの役割をになう器官が消化器です。消化器は、胃や腸はもちろん、食物を取り込む口(口腔)や栄養素を貯蔵・加工する肝臓なども消化器に含まれます。消化器のうち、食物や水分の通り道となる部分が消化管です。
消化管は口腔にはじまり、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)大腸、肛門までを指し、全長は約6mです。食物はこの消化管を通り消化・吸収されますが、消化吸収されなかった残りかす(不要物)が糞便となり排泄されます。
【消化管の働き】
1)口:食物が口内で咀嚼される間に、唾液と混ざり、唾液中のアミラーゼによりデンプンの消化が始まります。
2)食道、胃、十二指腸:食物は食道を通過し胃に到達すると、一旦胃内に貯留し撹拌され、胃液中の 酵素 や酸によってタンパク質の消化が始まります。
3)小腸:胃で撹拌された食物は十二指腸に流れ込み、そこで膵液や胆汁と混ざり、さらに各種酵素の消化作用を受けつつ、小腸内を移動していきます。この移動の間に各種栄養素が吸収されます。
4)大腸:大腸では水と電解質が吸収され、消化吸収されなかったものや老廃物を肛門まで運搬します。
2. クローン病(Crohn’s Disease)とは
大腸及び小腸の粘膜に慢性の 炎症 または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を 炎症性 腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といい、狭義にはクローン病と潰瘍性大腸炎に分類されます。
クローン病も、この炎症性腸疾患のひとつで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン先生らによって限局性回腸炎としてはじめて報告されました。
クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とします。それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
3. この病気の原因はわかっているのですか
クローン病の原因として、遺伝的な要因が関与するという説、結核菌類似の細菌や麻疹ウイルスによる感染症説、食事の中の何らかの成分が腸管粘膜に異常な反応をひきおこしているという説、腸管の微小な血管の血流障害説などが報告されてきましたが、いずれもはっきりと証明されたものはありません。最近の研究では、なんらかの遺伝的な素因を背景として、食事や腸内細菌に対して腸に潜んでいるリンパ球などの免疫を担当する細胞が過剰に反応して病気の発症、増悪にいたると考えられています。
4. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
わが国のクローン病の患者数は特定疾患医療受給者証交付件数でみると1976年には128人でしたが、平成25年度には39,799人となり増加がみられています。それでも、人口10万人あたり27人程度、米国が200人程度ですので、欧米の約10分の1でしたが、現在も増加傾向は続いており、令和元年度医療受給者証保持者数は44,245人に達しています。
医療受給者証交付件数の推移(合計)(ただし現在の交付条件と異なる)
5. この病気はどのような人に多いのですか
10歳代~20歳代の若年者に好発します。発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多くみられます。男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。
世界的にみると、先進国に多く北米やヨーロッパで高い発症率を示します。衛生環境や食生活が大きく影響し、動物性脂肪、タンパク質を多く摂取し、生活水準が高いほどクローン病にかかりやすいと考えられています。喫煙をする人は喫煙をしない人より発病しやすいと言われています。
6. この病気は遺伝するのですか
クローン病は遺伝病ではありません。しかし、人種や地域によって発症する頻度が異なり、また家系内発症もみとめられることから、遺伝的な因子の関与が考えられています。クローン病を引き起こす可能性の高い遺伝子多型(遺伝子のタイプ)がいくつか報告されていますが、現在のところ、単一の遺伝子と関連して発症するのではなく、遺伝的素因と環境因子などが複雑に絡み合って発症していると考えられています。
7. この病気ではどのような症状がおきますか
クローン病の症状は患者さんによってさまざまで、侵される病変部位(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なります。その中でも特徴的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者さんでみられます。さらに発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、 全身倦怠感 、貧血などの症状もしばしば現れます。またクローン病は 瘻孔 、 狭窄 、 膿瘍 などの腸管の合併症や関節炎、虹彩炎、 結節 性紅斑、肛門部病変などの腸管外の合併症も多く、これらの有無により様々な症状を呈します。
8. この病気の診断はどのようにおこなわれるのですか
まず、上記の症状や貧血などの血液検査異常からクローン病が疑われ、画像検査にて特徴的な所見が認められた場合に診断されます。画像検査としては主に大腸内視鏡検査や小腸造影、上部消化管内視鏡検査などが行われます。以前は難しかった小腸の観察も小腸内視鏡やカプセル内視鏡の開発により可能になっています。さらにMRI、CT、腹部超音波検査などの画像検査もクローン病の診断に用いられるようになってきています。内視鏡検査や手術の際に同時に採取される検体の病理検査の所見や、肛門病変の所見などが診断に有用な場合もあります。
9. この病気にはどのような治療法がありますか
クローン病の治療としては、内科治療(栄養療法や薬物療法など)と外科治療があります。内科治療が主体となることが多いのですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。
【栄養療法・食事療法】
栄養状態の改善だけでなく、腸管の安静と食事からの刺激を取り除くことで腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が認められます。
栄養療法には経腸栄養と完全中心静脈栄養があります。経腸栄養療法は、抗原性を示さないアミノ酸を主体として脂肪をほとんど含まない成分栄養剤と少量のタンパク質と脂肪含量がやや多い消化態栄養剤があります。完全中心静脈栄養は高度な狭窄がある場合、広範囲な小腸病変が存在する場合、経腸栄養療法を行えない場合などに用いられます。
病気の活動性や症状が落ち着いていれば、通常の食事が可能ですが、食事による病態の悪化を避けることが最も重要なことです。調子の悪いときには低脂肪・ 低残渣 の食事が奨められていますが、個々の患者さんで病変部位や消化吸収機能が異なっているため、主治医や栄養士と相談しながら自分にあった食品を見つけていくことが大事です。
【内科治療】
症状のある活動期には、主に5-アミノサリチル酸、副腎皮質ステロイドや免疫調節薬などの内服薬が用いられます。5-アミノサリチル酸と免疫調節薬は、症状が改善しても、 再燃 予防のために継続して投与が行われます。また、これらの治療が無効であった場合には、抗TNFα抗体、抗インターロイキン12/23p40抗体、抗インターロイキン23p19抗体、抗α4β7インテグリン抗体、ヤヌスキナーゼ阻害薬などが使用されます。薬物治療ではありませんが、血球成分除去療法が行われることもあります。
【外科治療】
高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対しては外科治療が行われます。その際には腸管をできるだけ温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。また難治性痔瘻などの肛門病変には切開排膿やドレナージ術が行われます。適用が限定されますが難治性痔瘻にはヒト体性幹細胞を用いた治療も試みられています。
【内視鏡的治療】
クローン病の合併症のうち、狭窄に対しては、内視鏡的に狭窄部を拡張する治療が行われることもあります。
10. この病気はどういう経過をたどるのですか
クローン病のほとんどの患者さんが、一生のうちに一度は、外科手術が必要になると言われてきました。近年の治療の進歩により、手術をする患者さんが減ってきていることが明らかになってきています。多くの患者さんで、 寛解 導入は可能となってきていますが、いっけん症状が落ち着いていても、ひそかに病気は進行すると言われています。治療を継続しつつ、定期的な画像検査などによって病気の状態を把握することはきわめて大切です。
11. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
おなかの調子がよい時期でも食事には注意が必要です。動物性脂肪の取りすぎはおなかの炎症を悪化させる可能性があることを忘れないことが大切です。また、おなかの調子が良くても病気が悪化していることもありますから、定期的に内視鏡などの検査を受けることが大切です。
12. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
13. この病気に関する資料・関連リンク