潰瘍性大腸炎(指定難病97)
○ 概要
1.概要
潰瘍性大腸炎は、主として粘膜を侵し、びらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症である。医科学国際組織委員(CIOMS)では「主として粘膜と粘膜下層を侵す、大腸特に直腸の特発性、非特異炎症性疾患。30歳以下の成人に多いが、小児や50歳以上の年齢層にもみられる。原因は不明で、免疫病理学的機序や心理学的要因の関与が考えられている。通常血性下痢と種々の程度の全身症状を示す。長期にわたり、かつ大腸全体を侵す場合には悪性化の傾向がある。」と定義している。多くの患者は再燃と寛解を繰り返すことから長期間の医学管理が必要となる。
2.原因
いまだ病因は不明であるが、現在では遺伝的因子と環境因子が複雑に絡み合って、なんらかの抗原が消化管の免疫担当細胞を介して腸管局所での過剰な免疫応答を引き起こし、発症と炎症の持続に関与していると考えられている。
3.症状
主に、血便、粘血便、下痢あるいは血性下痢を呈するが、病変範囲と重症度によって左右される。軽症例では血便を伴わないが、重症化すれば、水様性下痢と出血が混じり、滲出液と粘液に血液が混じった状態となる。他の症状としては腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などが加わることも多い。さらに関節炎、虹彩炎、膵炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)などの腸管外合併症を伴うことも少なくない。
4.治療法
治療の原則として、重症例や、ある程度の全身障害を伴う中等症例に対しては、入院の上、脱水、電解質異常(特に低カリウム血症)、貧血、栄養障害などへの対策が必要である。劇症例は極めて予後不良であるので、内科と外科の協力のもとに強力な治療を行い、短期間の間に手術の要、不要を決定する。
軽症及び中等症例では5-ASA製剤(メサラジン)を、無効例や重症例で副腎皮質ステロイド薬にて寛解導入を行う。寛解維持には5-ASA製剤(メサラジン)、また、ステロイド薬を投与した場合には免疫調節薬(アザチオプリン)の使用も考慮する。免疫調節薬はステロイド依存例で使用され、ステロイド薬無効例ではシクロスポリン、タクロリムス、抗TNF抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)、抗接着分子抗体(ベドリズマブ)、抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)、経口ヤヌスキナーゼ阻害薬(トファシチニブ)あるいは血球成分除去療法が行われる。
内科的治療に反応せず改善がみられない、あるいは症状の増悪がみられる場合には手術適応(全大腸摘出術)を検討する。また大腸癌合併患者も手術適応である。近年、手術術式の進歩により肛門機能を温存できるようになり、術後のQOLも向上している。
5.予後
一般に発症時の重症度が重いほど、罹患範囲は広いほど手術率、死亡率が高くなるが、近年の報告では生存率は一般と比べて差がないとする報告もみられる。手術理由は発症5年以内では劇症例や重症例の内科治療無効例が多く、5年以降は慢性持続型などの難治例が対象となりやすい。
長期経過例では炎症を母地とした癌の発生を合併する例が存在する。全大腸炎型の長期経過例に対しては癌合併のサーベイランスが重要となる。近年、症例対照研究で5-ASA製剤(メサラジン)の継続投与が大腸癌のリスクを減少させるとともに、経過中の定期的な受診や下部内視鏡検査も大腸癌抑制の要因と報告されている。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
126,603人
2.発病の機構
不明(腸管局所での過剰な免疫応答が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
症状を改善する治療法は確立しつつあるが根治療法はなし。
4.長期の療養
必要(寛解や増悪を繰り返すため継続的な維持療法が必要)
5.診断基準
あり(現行の特定疾患治療研究事業の診断基準を研究班にて改訂)
6.重症度分類
潰瘍性大腸炎の臨床的重症度を用いて中等症以上を対象とする。
○ 情報提供元
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」
研究代表者 杏林大学医学部消化器内科学 教授 久松理一
<診断基準>
「Definite」を対象とする。
次のa)の他、b)のうちの1項目及びc)を満たし、下記の疾患が除外できれば、Definiteとなる。
a)臨床症状:持続性又は反復性の粘血・血便あるいはその既往がある。
b)①内視鏡検査:ⅰ)粘膜はびまん性に侵され、血管透見像は消失し、粗ぞうまたは細顆粒状を呈する。さらに、もろくて易出血性(接触出血)を伴い、粘血膿性の分泌物が付着しているか、ⅱ)多発性のびらん、潰瘍あるいは偽ポリポーシスを認める。
②注腸X線検査:ⅰ)粗ぞう又は細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化、ⅱ)多発性のびらん、潰瘍、ⅲ)偽ポリポーシスを認める。その他、ハウストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮が認められる。
c)生検組織学的検査:活動期では粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。いずれも非特異的所見であるので、総合的に判断する。寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側にみられる。
b)c)の検査が不十分あるいは施行できなくとも、切除手術により、肉眼的及び組織学的に本症に特徴的な所見を認める場合は、下記の疾患が除外できれば、Definiteとする。
除外すべき疾患は、細菌性赤痢、アメーバ性大腸炎、サルモネラ腸炎、カンピロバクタ腸炎、大腸結核、クラミジア腸炎などの感染性腸炎が主体で、その他にクローン病、放射線照射性大腸炎、薬剤性大腸炎、リンパ濾胞増殖症、虚血性大腸炎、腸型ベーチェットなどがある。
〈注1〉 まれに血便に気付いていない場合や、血便に気付いてすぐに来院する(病悩期間が短い)場合もあるので注意を要する。
〈注2〉 所見が軽度で診断が確実でないものは「Possible (疑診)」として取り扱い、後日再燃時などに明確な所見が得られた時に本症と「Definite」する。
〈注3〉 クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別困難例に対しては経過観察を行う。その際、内視鏡や生検所見 を含めた臨床像で確定診断がえられない症例は inflammatory bowel disease unclassified(IBDU) とする。また、切除術後標本の病理組織学的な 検索を行っても確定診断がえられない症例はindeterminate colitis(IC)とする。経過観察により、 いずれかの疾患のより特徴的な所見が出現する場合がある。
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。
潰瘍性大腸炎の臨床的重症度による分類
|
重 症 |
中等症 |
軽 症 |
①排便回数 |
6回/日以上 |
重症と |
4回/日以下 |
②顕血便 |
(+++) |
(+)~(-) |
|
③発熱 |
37.5℃以上 |
37.5℃以上の発熱がない |
|
④頻脈 |
90/分以上 |
90/分以上の頻脈なし |
|
⑤貧血 |
Hb10.0g/dL以下 |
Hb10.0g/dL以下の貧血なし |
|
⑥赤沈 |
30mm/h以上 |
正常 |
顕血便の判定
(-)血便なし
(+)排便の半数以下でわずかに血液が付着
(++)ほとんどの排便時に明らかな血液の混入
(+++)大部分が血液
重症度
軽 症: 上記の6項目を全て満たすもの
中等症: 上記の軽症、重症の中間にあたるもの(以下の①~⑥のいずれかを満たし、重症の基準を満たさないもの)
①排便回数5回/日以上、②顕血便(++)~(+++)、③発熱37.5℃以上、④頻脈90/分以上、⑤貧血Hb10.0g/dL以下、⑥赤沈30mm/h以上またはCRP3.0mg/dL以上
重 症: ①及び②の他に、全身症状である③又は④のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目を満たすもの
劇 症: 重症の中でも特に症状が激しく重篤なものをいう。発症の経過により急性電撃型と再燃劇症型に分けられる。
劇症の診断基準は以下の5項目すべてを満たすもの
(1)重症基準を満たしている。
(2)15回/日以上の血性下痢が続いている。
(3)38.5℃以上の持続する高熱である。
(4)10,000/mm3以上の白血球増多がある。
(5)強い腹痛がある。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 令和5年度改訂版 潰瘍性大腸炎・潰瘍性大腸炎診断基準・治療指針
http://www.ibdjapan.org/pdf/doc15.pdf - 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業)難治性腸管障害に関する調査研究 令和2-4年度 代表研究者 久松理一 分担研究報告書