好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(指定難病45)
1.「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」とはどのような病気ですか
気管支喘息などの閉塞性気道障害や、鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎のある患者さんで、白血球の一種である好酸球が異常に増加して、様々な臓器の中にある小さい血管に 炎症 ( 血管炎 )を起こし、血液の流れが悪くなって臓器の障害を生じる病気です。早期に血管に起こった炎症を抑えることで多くの症状は改善しますが、 末梢神経 の障害によるしびれは長く残ることがあります。また、治療を減らしていったり治療を中止したりした時に再発することもありますので、定期的に通院しながら適切な治療を行うことが必要です。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
平成28年の衛生行政報告例(指定難病受給者証保持者)数は2,047例でしたが、令和元年には4,207例、令和4年度には6,723例と増加傾向です。
3. この病気はどのような人に多いのですか?
40~70歳に好発し、実際の患者さんの平均発症年齢は50~60歳くらいです。男女比は1:1.7でやや女性に多い病気です。アレルギー疾患(ほとんどが気管支喘息、鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎)を持っていて、その治療に難渋して 再燃 や再発を繰り返している患者さんで、この病気が多く発症する傾向があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか?
原因は不明です。一部の遺伝子変異が発症に関係する可能性は指摘されていますが、それだけではなく環境要因や薬剤の影響など様々な要因が関係していると考えられています。白血球の一種である好中球に対する抗体(抗好中球細胞質抗体:MPO-ANCA)が約50%の患者にみられ、病因の1つと考えられていますが、その抗体が作られる原因も未だ不明です。
5. この病気は遺伝するのですか?
遺伝性の病気ではありませんが、病気の発症に影響する遺伝子の変異(遺伝子多型)が複数見つかっています。ANCAが陽性と陰性のEGPAでは遺伝的背景が異なることも知られています。
6. この病気ではどのような症状がおきますか?
典型的な場合は、気管支喘息症状や好酸球性副鼻腔炎が悪化した後に、血液中の好酸球数が増え、その後に血管炎の症状が出現します。多くの患者さんで、血管炎による末梢神経障害によって、手足のしびれや麻痺(動きが悪くなる)がみられます。また、全身の血管に炎症が起こることで、発熱、筋肉痛、関節痛などが起こります。その他、皮膚の血管炎による出血斑(紫斑)、肺の病変による咳や血痰、心筋の障害による動悸や息苦しさ、などが見られることもあります。また、腸の血管炎による腹痛や消化管出血、脳や心臓の血管炎による脳出血・脳硬塞、心筋 梗塞 、などの 重篤 な合併症も起こることがあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか?
副腎皮質ステロイド薬を中心に用いた治療を行います。プレドニゾロン30-60mg/日で治療を開始し、症状が改善したらゆっくり減らしていきます。一年間以上の長期にわたり治療する必要があります。早期に治療を中止すると、再発をきたしますので注意が必要です。また、脳・心臓・腸などの重要な臓器に病変がある場合には、しばしば免疫抑制薬のシクロホスファミドを併用して治療します。6か月程度シクロホスファミドを併用した後は、メトトレキサートやアザチオプリンなどの免疫抑制薬に切り替えて併用します。2010年1月からは、残存する末梢神経障害に対して、免疫グロブリン大量静注療法が保険適用になっています。さらに、2018年5月に抗IL-5抗体のメポリズマブが 保険適用 になり、従来の一般的な治療で効果が不十分な患者さんに使用できるようになりました。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか?
ほとんど(90%以上)の症例は、適切な治療によって軽快(寛解:炎症が治まった状態)します。少数(10%未満)で、脳出血・脳硬塞や心筋梗塞、腸穿孔、重症腎炎を生じ、手足の麻痺や腎臓や心臓の機能低下を残すことがありますが、死亡に至るのは1%程度です。
一度軽快しても、治療を緩める途中で再発することがありますので、治療を緩める際には慎重な判断が必要です。治療は長期間続けることが必要ですが、一部の症例では最終的には治療を中止できることもあります。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?
副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬を使用中は、感染症に対する注意が最も重要です。帰宅時には、手洗い・うがいを欠かさずに実行してください。新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンなどの予防接種も可能な限り受けましょう。規則正しい生活と食事を維持してください。
ステロイドによる生活習慣病を防ぐためには、体重管理が重要です。ステロイド内服中は、高血圧症や糖尿病になったり、コレステロールが上昇したりすることがありますので、定期的に検査を受けて下さい。緑内障・白内障を含む目のチェックも定期的に受けましょう。ステロイド内服中は骨粗しょう症が進行しますので、ステロイドを内服している期間は、骨密度も年に1度は測定してもらいましょう。主治医の指示に従って処方された薬剤をきちんと服用し、定期的に必要な検査を受けてください。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
アレルギー性肉芽腫性血管炎
チャーグ・ストラウス症候群
11. この病気に関する資料・関連リンク
(資料)
抗リン脂質抗体症候群・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・結節性多発動脈炎・リウマトイド血管炎の治療の手引き2020
Minds ガイドラインライブラリHPのトップページで検索してください。
https://minds.jcqhc.or.jp/
ANCA関連血管炎の診療ガイドライン2023クイックリファレンス
https://www.vas-mhlw.org/pdf/results/quick-reference-anca-guideline.pdf
2015-2016年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン (日本循環器学会が公開しているガイドライン。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症については65-71ページを参照)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
市民公開講座「血管炎についてもっと知ろう:それぞれの病気の特徴と療養に役立つ知識」7)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 https://www.vas-mhlw.org/html/shiminkoukaikouza.html
(関連リンク)
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