ドラベ症候群(指定難病140)
1. 「ドラベ症候群」とはどのような病気ですか
それまで健康であった赤ちゃんが、多くの場合は1歳まで、遅くとも1歳8か月までに全身あるいは片側のけいれんで発症し、その後もけいれんを何度も繰り返す病気です。けいれんは発熱、入浴や予防接種で誘発されやすく、けいれんを止めるために病院で注射が必要になることも少なくありません。
1歳を過ぎるとその他のてんかん発作が現れることもあり、多くの場合抗てんかん発作薬の効果は十分ではなく、次第に発達の伸びが鈍ってきます。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
日本全国で3000人いると見積もられていますが、成人例などで十分に診断されていない人もいると考えられ、もう少し多いと考えられます。
3. この病気はどのような人に多いのですか
この病気になりやすい特別な要因は今のところ知られていません。
4. この病気の原因はわかっているのですか
ナトリウムチャネル遺伝子SCN1Aの遺伝子変異を約8割の患者さんが有していることがわかっています。この遺伝子の機能低下により神経細胞の過剰な電気発射が生じるために難治性てんかんを発症するとともに、発達の遅れや運動失調が出現すると考えられています。残りの約2割の患者さんの原因は今のところ不明です。
5. この病気は遺伝するのですか
ほとんどの場合はご両親の遺伝子には変異がなく、次のお子さんが発症するリスクは高くないと考えられています。しかし、血液細胞には認められない遺伝子変異がご両親の精子か卵子の一部にのみ見られる場合が稀にあり(性腺モザイクと言います)、一般の発症リスクよりは少し高くなる可能性が指摘されています。
ご家族に熱性けいれんの既往や何らかのてんかんがある場合には、ご両親のいずれかが同じ遺伝子変異を有している可能性が稀ながらあります。このような場合にも次のお子さんが発症するリスクが高まる可能性が考えられます。
遺伝子変異を有する患者さんに将来お子さんができた場合には、50%の確率で遺伝子変異が遺伝する可能性があり、ドラベ症候群を発症する可能性があると考えられますが、それ以外のてんかんを発症する可能性も少ないながらあります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
(1)てんかん発作:全身あるいは片側のけいれんを繰り返します。けいれんは発熱、入浴やワクチン接種などの体温上昇で引き起こされやすく、無熱性に誘因なしで起こることもあります。5分経ってもけいれんが止まらないてんかん重積状態に至ることも多く、救急病院で抗けいれん剤の注射を要することがしばしばあります。片側けいれんは発作によって左右が一定しないことがあります。1-3歳頃からは数秒間ぼんやりする欠神発作や、覚醒中に一瞬四肢がぴくつくミオクロニー発作が現れる場合があります。縞模様や点滅する光を見ることで欠神発作、ミオクロニー発作が誘発されたり、これらの発作から全身けいれんへ移行する場合があります。
(2)精神運動発達遅滞:1歳まではほぼ正常発達を示すことが多いですが、1歳以後に発達が伸び悩み、学童期には重度から境界域まで様々な知的障がいを有することが多いです。けいれん重積などをきっかけに急性脳症を起こしてしまう稀な場合を除くと、できたことができなくなってしまうこと(退行)は一般にありません。
(3)運動機能:歩行獲得が遅れることがあり、歩行可能になってもふらつきが持続することが多く、成人期以降に歩行障害が悪化することが知られています。手先はあまり器用ではないことが多いです。
(4)行動特性:多動、衝動性、集中力不足などの神経発達症の症状を伴うことが少なくありません。これらの症状の一部は抗てんかん発作薬の副作用として現れる場合もあり、薬によるものかこの病気によるものか区別の難しい場合もあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
抗てんかん発作薬を最初に使用します。バルプロ酸、臭化物、クロバザム、スチリペントール、トピラマートなどから2-3種類組み合せて使用することが多く、2022年11月に販売開始されたフェンフルラミンは保険適応が2歳以上ですが効果を期待できます。合併する発作型が多い場合には多剤併用になりがちですが、できるだけ少ない種類の薬に絞り込んで薬の副作用を最小限にすることが望ましいです。てんかん食(ケトン食や修正アトキンス食などの低糖質、高脂質食)が有効な場合があります。脳外科手術は一般に効果がないと考えられています。けいれんが5分以上続くてんかん重積状態には、ミダゾラム口腔用液の早期使用が有効な場合があり、自宅など病院外でも使用可能です。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
6歳を過ぎるとてんかん重積状態の減少、覚醒中のけいれんから睡眠中のけいれんへの変化など改善傾向を示すことがありますが、けいれん発作の頻度が増えることもあります。成人になっても、完全に発作がなくなることは稀で、発熱による発作誘発は成人後も見られることが多いとされます。程度の差はありますが合併する知的障がい、運動失調、行動特性などのために、成人期に自立した社会生活を送ることは困難で、何らかの援助を必要とすることが多いです。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
体温上昇によってけいれん発作が誘発されやすいので、入浴によるけいれん誘発のあったお子さんでは湯温を下げる、湯舟に浸かる時間を短くする、シャワー浴にするなどの工夫によりけいれんの回数を減らせる可能性があります。
感染症などに伴う発熱時にはジアゼパム坐剤使用によってけいれんを予防できる場合があります。
光の点滅や図形・模様の凝視で体のぴくつきやけいれんが誘発される場合には、視野を遮ったり顔を背けさせたりするとけいれんにならないで済む場合があります。片目を覆うだけでも有効な場合があります。
多動、衝動性に加えて運動失調もあるので発作以外にも転倒、受傷の可能性があり、普段から注意が必要です。覚醒中に突然のけいれんで倒れる可能性のある場合は、頭部保護帽の着用が安全ですが、熱がこもるというデメリットもあります。夏の暑さでけいれんが誘発される場合には保冷剤や小型換気扇を備えた衣服の着用が役に立つ場合があります。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
乳児重症ミオクロニーてんかん
11. この病気に関する資料・関連リンク
1) 今井克美:ドラベ症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き(日本てんかん学会編),31-36,メディカルレビュー社,2023.
2) ドラベ症候群の会
http://dravetsyndromejp.org/
3) ケトン食普及会
http://plaza.umin.ac.jp/~ketodiet/