ドラベ症候群(指定難病140)
○ 概要
1.概要
1歳未満に発症し、全身強直間代発作や半身性間代発作を繰り返し、発熱誘発けいれん、けいれん重積を伴いやすい、薬物治療に抵抗性、という特徴をもつ。1歳を過ぎると発達遅滞や運動失調が出現する。ミオクロニー発作や欠神発作を伴うこともある。原因としてSCN1A遺伝子の異常を高率に認める。
てんかん性脳症の1つ。
2.原因
SCN1A遺伝子のヘテロ変異を75%に、微小欠失を数%に認める。SCN1B、SCN2A、GABRG2遺伝子変異の報告も希にある。
3.症状
全身又は半身けいれん発作、焦点性発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作などがみられ、発熱や入浴による誘発、光や図形に対する過敏性がみられる。けいれん重積ないしは群発を起こしやすい。脳波では背景活動の徐波化、広汎性多棘徐波、多焦点性棘波が年齢に伴って消長する。
4.治療法
バルプロ酸、クロバザム、スチリペントール、臭化剤、トピラマートなどが用いられる。薬剤によっては悪化することがある。けいれん重積にはベンゾジアゼピン系薬剤などを使用する。ケトン食治療も行われる。
5.予後
上記治療により、けいれん重積の減少、各種てんかん発作の減少を期待できるが、完全に治癒することはない。極めて高率に知的障がい、運動失調、発達障がいを伴い、成人期に自立した生活を送ることは稀である。思春期までの死亡率が約10%との報告があり、突然死や急性脳症による死亡率が高いとされる。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(75%にSCN1A遺伝子異常を認めるが、難治性てんかんや各種神経合併症を生じるメカニズムは十分には解明されていない。)
3. 効果的な治療方法
未確立(てんかん発作を軽減させることはできるが、消失には至らない。)
4. 長期の療養
必要(成人に至ってもてんかん発作を繰り返すことが多く、自立した生活を送ることはまれである。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究分担者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 副院長 今井克美
<診断基準>
Definite(確定診断例)を対象とする。
ドラベ症候群の診断基準
A.症状
1. 全身又は半身けいれん発作。
2. 焦点性発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作、意識混濁発作。
3. 発熱や入浴による誘発。
4. 光や図形に対する過敏性の存在。
5. けいれん重積ないしはけいれん発作の群発を起こしやすい。
B.検査所見
1. 血液・生化学的検査:特異的所見なし。
2. 病理検査:特異的な所見なし。
3. 画像検査:乳児期は正常だが、幼児期以後は非特異的大脳萎縮がみられる。海馬萎縮を伴うこともある。
4. 生理学的検査:脳波では背景活動の徐波化、広汎性多棘徐波、多焦点性棘波が年齢に伴って消長する。
5. 運動・高次脳機能検査:幼児期以後に中等度以上の知的障害を伴うことが多く、神経学的にも失調や下肢の痙性を伴う。広汎性発達障害がみられることもある。
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
複雑型熱性けいれん、全般てんかん熱性発作プラス、焦点性てんかん、乳児良性ミオクロニーてんかん、レノックス・ガストー症候群、ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん、PCDH19関連症候群。
D.遺伝学的検査
SCN1A遺伝子の検索をすすめる(ヘテロ変異を75%に、微小欠失を数%に認める。)。陰性の場合は、さらにSCN1B、SCN2A、GABRG2遺伝子も検索する。
<診断のカテゴリー>
1歳未満でA1を発症し、A2~5の特徴を1つ以上有する場合は本症候群を疑い、遺伝子検査をもってDefinite(確定診断)とする。ただし、1歳未満でA1を発症し、A2~5の特徴を2つ以上有し、かつ B3~5のうち1つ以上を有する場合は、遺伝子検査が陰性でもDefinite(確定診断)とする。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 今井克美.ドラベ症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き。日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;31-36.
- ドラベ症候群の会
http://dravetsyndromejp.org/group - ケトン食普及会
http://plaza.umin.ac.jp/~ketodiet/