神経変性疾患に関する調査研究

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1. 神経変性疾患に関する調査研究班(一般には変性班と呼ばれています)の紹介

この研究班が研究の対象とする病気は、1. 運動ニューロンが侵される病気(筋萎縮性側索硬化症ALS、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症、原発性側索硬化症)、2. パーキンソン病PDとその類似の病気(パーキンソン病、進行性核上性麻痺PSP、大脳皮質基底核変性症CBD)、3. 舞踏運動を示す病気(ハンチントン病、有棘赤血球舞踏病)、4. 脊髄空洞症の十の病気です。研究班は神経疾患の専門医35名のチームであり、病気の原因や発病のメカニズムの解明を目指した基礎的研究から、実際の診療に役立つ臨床研究までそれぞれの専門家が研究を行っています。

2. 変性班が行ってきた主な研究成果

1) ALS
(1)孤発性ALS(SALS):SALSではユビキチン抗体で陽性に染まる封入体が運動ニューロンに溜まることが知られていましたが、その本体は不明でした。それが、核酸に結合してその働きを修飾するTDP-43というタンパクであることが2006年に初めて解明されたことから変性班でもこの研究が精力的に行われました。その結果、(i)SALSではTDP-43の蓄積が運動ニューロン以外のニューロンとグリアにも出現することが示され、SALSは運動ニューロンを超えて脳と脊髄が広く侵される病気であることがわかりました。(ii)TDP-43の遺伝子の変異を持つ症例では、SALSと同じ症状と神経病理像を示すことが分かり、このタンパクの異常がSALSの運動ニューロン死に深く関わることが示されました。一方、SALSではグルタミン酸受容体の一つであるAMPA受容体のアミノ酸置換が運動ニューロンで起こらず、そのためにカルシウムイオンが多く入りすぎて運動ニューロンが死ぬ可能性が示されました。この置換に関わる酵素の働きが低下しているのがその理由であることが分かり、それを元に戻すことで細胞死を防げる可能性が示されました。

(2)家族性ALS(FALS):FALSではSOD1、Angiogenin、TDP-43などの遺伝子異常が海外から報告されてきましたが、2010年4月に新しい遺伝子optineurin(OPTN)の異常が原因として変性班班員を主たる研究者として報告され、大きな注目を集めています。


2) パーキンソン病(PD): ゲノムワイド関連解析の結果、PDの感受性遺伝子(それの異常があるとその病気にかかる割合が高くなる遺伝子)として、アルファ・シヌクレインおよびゴウシェ病の原因遺伝子であるグルコセレブロシダーゼ遺伝子の変異はPDの危険因子であることが日本人では初めて変性班で見つけられました。さらに2つの新しい感受性遺伝子の座PARK16とBST1が、変性班の研究により世界で初めて見つかりました。PD研究で変性班が果たしたもう一つの成果は遺伝子治療です。PDは線条体でドパミンが不足することから発病します。我々はドパミンを合成するときに必要な酵素の一つである芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素を6例の進行したPD患者の線条体に注入し、安全で、効果も期待できる治療法であることを示しました。今後多数例で実施し、実用化に結びつける予定です。

3. PSPマニュアルとCBDマニュアルを作成しました

PSPとCBDは希な病気で確立した治療法もまだ見つからない病気ですが、病気の性質を知ることはケアしていく上で大切です。変性班ではそのための「診断とケアマニュアル」を作りました.以下のURLで見ることができます。

PSPマニュアル: http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/psp.pdf
CBDマニュアル: http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/cbd.pdf
ハンチントン病と生きる: /upload_files/huntington.pdf
神経変性班ホームページ: http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/