網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究

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1. 研究班の紹介

本研究班では、難治性・進行性で視力予後不良な疾患である加齢黄斑変性、網膜色素変性症などの網膜脈絡膜萎縮をきたす疾患群と緑内障など視神経萎縮をきたす疾患群を対象として、その実態調査、病態解明、治療法開発を目的としています。これらの疾患は我が国での主要な失明原因であり、研究成果は失明予防に直結し、国民医療・保健に与える影響が極めて大きいと考えられます。

2. これまでの主な研究成果の概要

加齢黄斑変性は高齢者の失明の主要原因で、有効な治療法の開発は高齢者の失明防止の観点から社会的意義も非常に大きいです。治療法として2004年に国内でも認可されました光線力学的療法(PDT)に加え、最近では抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射が新しい治療法として有効性が示されています。現在、どのような病態にどちらの治療または併用療法が有効かなど、病型別に検討中であり、今後、治療指針の確立を目指しています。具体的には、本研究により、正常脈絡膜循環への影響を抑えるために通常の半分の照射エネルギーで行うPDTの有用性や抗VEGF薬やステロイド局所投与併用の網膜保護効果が示されています。また、PDTと抗VEGF療法とステロイド投与の三者併用療法が、難治性の特殊型である網膜血管腫状増殖にも有効である可能性が確認されています。また遺伝子解析により、日本人における加齢黄斑変性に罹患しやすい遺伝子多型が徐々に解明されつつあります。今後、血液採取で行える簡便な遺伝子診断の結果が、患者様個々人に適した治療方針や予防治療の開始時期を検討する上で有益情報となる可能性があります。

網膜色素変性症は様々な遺伝的背景に起因する網膜変性疾患群であり、進行例では視野欠損や視力低下に至る場合がある難病で特定疾患に認定されています。近年、眼底自発蛍光の測定機器や光干渉断層計(OCT)など画像診断機器の目覚ましい進歩に伴い、診断や病態理解につながる新しい知見が得られてきています。遺伝子診断に関しては専門施設に検査解析を集約するシステム構築を検討中です。萎縮した視細胞やその直下に存在する網膜色素上皮などの再生医療として、胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)からの視細胞や網膜色素上皮への分化誘導には細胞実験レベルで成功しており、現在、網膜下への移植実験を進めています。遺伝子治療や神経保護治療の可能性についても検討中で、遺伝子導入に関しては長期発現型のサル由来レンチウイルスベクターによる遺伝子導入に関する研究が動物実験において長期安全性が示され臨床応用に向けて開発が進んでいます。

視神経萎縮は緑内障を始めいろいろな病態で発症し、不可逆性の障害を残します。本研究では神経保護治療による視神経萎縮の進行阻止、並びに幹細胞による網膜再生治療と人工視覚による失われた視機能の回復を目指した研究を進めています。人工視覚については、埋植電極の長期の耐久性、組織への安全性が示され臨床応用に向けて開発を進めています。

3. 研究班としてトピックス的な話題など

加齢黄斑変性に対しては国内でもようやく認可された抗VEGF療法が有効性を示していて、現在、臨床試験中のものなど新規薬剤も開発中で、今後、さらに有効な治療法が確立していくと予測されます。網膜色素変性症に関しては遺伝子診断や画像診断の進歩が個々人の病態理解や予後予測につながる有益情報をもたらすと考えられます。また、神経保護治療、再生医療、遺伝子治療などの実現に向けて研究が進んでいます。視神経萎縮により失明した眼の視機能回復に再生医療や人工視覚の開発も臨床応用に向け進行中です。