単純性潰瘍/非特異性多発性小腸潰瘍症(平成21年度)
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1. 概要 | |
単純性潰瘍症(SU)は回盲部近傍に難治性の深い下掘れ状の潰瘍を形成し、時に回腸から結腸に浅い潰瘍性病変が多発する。回盲部に 好発する深い潰瘍を認め、腸病変の肉眼形態のみからベーチェット病で時に合併する回盲部潰瘍に類似する。すなわち、単純性潰瘍からみてベーチェット病症状 を合併するものは少ない。非特異性多発性小腸潰瘍症(NMUSI)は回腸中-下部に浅い多発性の潰瘍と潰瘍瘢痕の混在した病変を認め、潜在性あるいは顕性 出血による高度な貧血を特徴とする小腸潰瘍症で原因は不明である。その他に、カプセルやバルーン内視鏡の発達により、原因不明の小腸潰瘍病変が多数経験さ れるようになった。 | |
2. 疫学 | |
単純性潰瘍は推定約4,000名、非特異性多発性小腸潰瘍症は推定約400名 | |
3. 原因 | |
SUの病因は全く不明であるが、ベーチェット病の副症状である回盲部潰瘍に類似することから、血管性因子の関与が示唆されている。 | |
4. 症状 | |
SUは慢性に経過する腹痛、下血、下痢、腹部腫瘤などが主な症状である。病変の好発部位は回盲部末端から盲腸にかけてであり、打ち 抜き型の潰瘍性病変を特徴とし、多発することが多い。腸管穿孔、腸管出血など緊急の外科的対応を要することもある。NMUSIは高度な貧血を主症状とし、 腹痛、タール便、浮腫などを随伴する。両疾患とも鑑別診断としてクローン病などの炎症性腸疾患が特に問題となる。 | |
5. 合併症 | |
SUでは口腔内アフタを除いてベーチェット病にみられる腸管外病変を認めない。腸管病変では消化管穿孔、続発する腹膜炎、腹部腫 瘤、大量下血を合併することがある。NMUSIでは長年月にわたる腸管病変からの出血に伴う高度な貧血、タンパク漏出に伴う成長障害、低タンパク血症を認 め、治療抵抗性となることが多い。 | |
6. 治療法 | |
SU、NMUSIいずれも標準的治療は未確定である。対処療法が主体で、クローン病や潰瘍性大腸炎に準じた治療法(サリチル酸製 剤、ステロイド剤、免疫調整剤、栄養療法)が試みられているが、無効のことが多い。最近TNF‐α抗体の有効性が注目されている。また、消化管穿孔や大量 出血の合併には外科的手術が行なわれることがあるが、しばしば再発を認めることが問題となる。 | |
7. 研究班 | |
原因不明小腸潰瘍症の実態把握、疾患概念、疫学、治療体系の確立に関する研究 |