チロシン水酸化酵素欠損症(平成21年度)
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1. 概要 | |
ドパミン生成に補酵素として働くチロシン水酸化酵素の欠損に起因する。4p15.31に存在するキノイド・デヒドロプテリン還元酵 素の遺伝子異常により劣性遺伝の形態をとる。ドパミン生成障害を主体とし、ドパ反応性ジストニアの病像を呈する症例もあるが、ノルアドレナリン生成障害を 併発、進行性の脳症を呈する例が主体を占める。 | |
2. 疫学 | |
不明 | |
3. 原因 | |
原因遺伝子は明らかにされているが、変異部位により、ドパ反応性ジストニアの病型をとるものと、進行性脳症の病型をとるものとに分 かれる原因の解明はできていない。前者は精神、知能に異常がなく、l-Dopaにより症状の寛解が得られるが、後者に治療法はない。この病態の相違、発現 の病因の解明は病態解明の中核と言える。 | |
4. 症状 | |
発症は進行性脳症の症例で早く、3~6カ月に運動寡少、躯幹筋緊張低下、仮面様顔貌で発現、これに腱反射亢進、錐体路徴候、注視発 症、眼瞼下垂(交感神経作動点眼薬で改善)、縮瞳を伴う。また、間歇的に嗜眠を伴う全身倦怠、被刺激性、発汗、流涎が発現、致命的となることもある。しか し、症例によってはこれらの症状を示さず、進行性の運動障害が前景となる。ドパ反応性ジストニアを主症状とする症例は、初発症状はジストニアと筋強剛で、 乳児期から幼児期に発現、ジストニアは下肢から全身にひろがる。また、乳児期早期に振戦が下肢に始まり、頭部、舌、上肢とひろがる。症例により、これらの 運動症状は睡眠により改善を示す。筋強剛、ジストニアを主体とする症例は、知的発達は正常である。 | |
5. 合併症 | |
症状は多彩であり、症例によりその強度が異なり、多様性を示すが、特定の合併症はみられない。診断は髄液のホモバニリン酸、3メト キン-4ヒドロキシフェニルグリコールの減少、プテリン、チロシンおよび5ハイドロキシトリプトファンが正常なことで可能である。確定診断は遺伝子検索に よる。 | |
6. 治療法 | |
ジストニアを主体とする症例では、l-Dopaが著効を示し、その効果は永続する。ジスキネジアを併発することもあるが、用量を減 じることで改善する。しかし、症例により多動、また、バリスムスの発現のため、l-Dopaを中止せざるを得ないことがあるが、再度、少量で開始、漸増す ることで効果が得られる。著明な躯幹筋筋緊張低下とバリスムスを伴った症例には少量l-Dopaとセレギリン・ヒドロクロライドの併用が有効であったこと が報告されている。進行性脳症の症例には現時点では有効な治療法はない。 | |
7. 研究班 | |
小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班 |