Rubinstein-Taybi症候群(平成21年度)

Rubinstein-Taybiしょうこうぐん
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1. 概要

RubinsteinとTaybi(1963年)が“Broad thumbs and toes and facial abnormalities”と題して、精神運動発達遅滞,特異顔貌、幅広い拇指趾をもつ7症例を報告したのが最初で、以後、同様の症例が報告され、 Rubinstein-Taybi症候群と呼称される。

2. 疫学

発生頻度は、オランダでは12万5千人に1人(日本では、不明。100-200名前後か)

3. 原因の解明

ほとんどが散発例であるが、親子例の報告が数家系あり、常染色体優性遺伝である。染色体均衡型相互転座を伴った2例に共通する転座 切断点から16p13.3に遺伝子座が推定され、ポジショナルクローニングにより責任遺伝子がCREB-binding protein遺伝子(CREBBP or CBP)と判明した。遺伝子変異(ナンセンス変異、フレ-ムシフト変異、スプライシング部位)は、異常蛋白を合成する。発症機序は不明。
診断基準はなく、臨床症状から診断する。本症候群における、CREBBPの異常検出率は約20-50%であり、遺伝的異質性の存在を示唆されている。
CREBBPは、転写活性化因子CREB(C-AMP response element binding protein)と基本転写因子TFIIBとの両方に結合し、CREBによる転写活性化を促進する核蛋白である。すなわち、多くの転写活性化因子の共通の コアクティベーターとして機能することが判明している。
HAT(Histone acetyltransferase)活性を有し、ヒストンアセチル化を介し、様々な遺伝子発現を制御すると考えられている。CREBBPはCREBや他 の転写活性化因子の標的遺伝子の発現に関与していることから、本症候群にみられる多方面発現の分子生物学的解明が期待されている。
一方、体細胞変異による染色体転座のため、CREBBPが他の遺伝子と融合し生じた蛋白が,白血病の発症に関与していることが知られ、悪性腫瘍の発生機序の研究が進んでいる。

4. 主な症状

精神運動発達遅滞,特異顔貌、幅広い拇指趾

5. 主な合併症

a. 周産期

ときに羊水過多を認める。ほとんどが満期産で、出生時体格も標準のことが多い。

b. 成長・発達

低身長を示す、平均最終身長は男性で約152cm、女性で約143cm。思春期の明らかな成長のス パートは認めない。大半は二次性徴も正常で、初潮は平均13歳でみられる。精神遅滞は必発である。通常IQは40-50台。言語理解に比べて表出言語が遅 れ、低音で一音ずつ区切るように発音するという言語特性をもつ。

c. 頭部・顔面(2)

特異顔貌: 小頭、大泉門開大、前頭部突出、太い眉毛、長い睫毛、眼険裂斜下、内眼角贅皮、両眼開離、上顎低形成、高・狭口蓋、幅広い鼻稜、鼻翼より下方に伸びた鼻中隔、小さい口、小顎、耳介変形、後頭部毛髪線低位

d. 眼科

斜視、屈折異常、鼻涙管閉塞、白内障、緑内障

e. 四肢・体幹

幅広い母指・母趾(ときに横側に偏位)、幅広い末節骨、第5指内彎、指尖の皮膚隆起、手掌単一屈曲線、扁平足、関節過伸展、頚椎後弯、脊椎側弯、停留睾丸、小陰茎、尿道下裂、膀胱尿管逆流症

f. 皮膚

多毛、前頭部の火焔状母斑、ケロイド形成、ときに石灰化上皮腫

g. 神経学的所見

筋緊張低下、てんかん、脳波異常

h. ときにみられる症状

5-10%に良性・悪性腫瘍(特に脳、神経堤由来組織)、思春期早発、内頚動脈走行異常、血管輪、脳梁欠損、先天性心奇形、膝蓋骨(亜)脱臼

i.自然歴と予後

新生児・乳児期には反復性呼吸器感染、哺乳障害、嘔吐、誤嚥、便秘が問題となる。学童期になると精神 運動発達遅滞や肥満傾向がみられ、特に思春期以降の女児の肥満には注意を要する。悪性腫瘍の合併以外は、一般に、生命予後は良好である。先天性であり、多 臓器の障害は慢性かつ持続的であり、生活面での長期にわたる支障を来す。合併症の治療を積極的に行い、QOLの向上に努める。てんかんのコントロールも重 要である。

6. 主な治療法

現在のところ根本的治療法はない。早期の合併症に対応することで長期的予後の改善をはかる。

7. 研究班

Rubinstein-Taybi症候群の臨床診断基準の策定と新基準にもとづく有病率の調査研究班