その他分野|難治性不育症(平成22年度)
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1. 概要 | |
不育症とは妊娠はするけれど流産・死産を繰り返し、児が得られない場合 と定義されている。流産は約15%の妊娠に起こり、妊娠最大の合併症と考えられているが、その80%が胎児の偶発的染色体異常であり、自然淘汰と考えられ ている。繰り返す場合に流産を起こしやすい原因があることがあり、不育症という不妊症と異なる病態として考えられている。 | |
2. 疫学 | |
妊娠したことのある女性の6.1%が不育症であり、3回以上連続する習 慣流産は1.5%、妊娠経験女性の41%が流産を経験している。流産は女性の加齢とともに増加する。30代前半では15%だが、40代の女性は 40-50%が流産する。したがって、本邦の不育症頻度も増加していることが推定される。 | |
3. 原因 | |
抗リン脂質抗体症候群5%、子宮奇形3.2%、夫婦染色体転座4.5% が原因である。約50%は胎児染色体異常の反復が原因であることが判ってきた。しかし臨床的には胎児染色体が検査されることは少なく、この原因が個々の患 者で特定されないため、原因不明として扱われている。胎児染色体異常症例では正常な卵が受精すれば出産可能であり、その後の生児獲得率が高いことも明らか になっている。糖尿病、甲状腺機能異常も原因である。 | |
4. 症状 | |
流死産を繰り返す以外は無症状のことが多い。抗リン脂質抗体症候群は3 回以上の妊娠10週未満の早期流産、妊娠10週以降の子宮内胎児死亡、34週未満の胎児機能不全による早産のうちのいずれかひとつの妊娠合併症もしくは血 栓症(脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞など)がその臨床症状である。 | |
5. 合併症 | |
不育症については合併症は特にないが、抗リン脂質抗体症候群は子宮内胎児発育遅延、子宮内胎児死亡、妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離、羊水過少、血小板減少症を合併することがある。また、早産になることが多く、児の未熟性が問題となる。 | |
6. 治療法 | |
抗リン脂質抗体症候群については妊娠中の抗凝固療法という薬物投与に よって約70%が出産可能である。子宮奇形に対しては手術が行われることが多いが、手術なしでも60%程度は出産可能であり、手術の有意性を検討中であ る。夫婦染色体均衡型転座というタイプの異常に対して受精卵の診断を行う体外受精が本邦でも行われている。しかし、この手技を用いなくても約50%の患者 が出産可能である。受精卵診断は流産を予防することはできるが、出産にいたるかどうかについての有意性は確認されていない。糖尿病、甲状腺機能異常がみつ かれば内科的治療が有効である。原因不明については確立された治療法は存在しないが、薬物投与なしでも既往流産が2回であれば76%、3回であれば 70%、4回であれば60%が出産可能である。精査後の患者の85%が生児獲得しており、一部が難治性である。 | |
7. 研究班 | |
難治性不育症に関連する遺伝子の網羅的探索研究班 |