代謝疾患分野|シトリン欠損症(平成22年度)

しとりんけっそんしょう
研究班名簿 一覧へ戻る

1. 概要

シトリンはミトコンドリア内膜に局在する肝型アスパラギン酸・グルタミ ン酸膜輸送体で、その欠損は細胞質へのアスパラギン酸供給障害やミトコンドリアへのNADHの供給障害、糖新生障害を引き起こす。その欠損症は新生児・乳 児期では肝内胆汁うつ滞症、高シトルリン血症、幼児・青年期では無症状ながら食癖異常など、成人期では高アンモニア高シトルリン血症、精神症状、肝不全な どの成人発症Ⅱ型シトルリン血症(CTLN2)を発症する。年齢依存性に、また、各個人で多彩多様な症状を呈することを特徴としている。治療は確定したも のはないが、各症状に対して対処療法を行い、最終的には肝移植を必要とする場合もある。最近、CTLN2発症予防、治療としてピルビン酸ナトリウム投与、 食事療法が考えられている。

2. 疫学

シトリン欠損症は日本で1/17,000、中国南部で1/6,400と東アジアを中心に高い頻度を示す。欧米白人種の頻度は明確ではないが、東アジアにと比較してかなり低いと考えられている。日本では6000人前後の患者数が推定されている。

3. 原因

高アンモニア血症、高シトルリン血症、肝不全、精神症状を呈し、予後不 良な疾患である成人発症Ⅱ型シトルリン血症(CTLN2)の原因遺伝子としてSLC25A13が同定された。その遺伝子産物であるシトリンはミトコンドリ ア内膜に局在する肝型アスパラギン酸・グルタミン酸膜輸送体であり、その欠損により細胞質へのアスパラギン酸供給障害やミトコンドリアへのNADHの供給 障害、糖新生障害を生じる。新生児・乳児期では胆汁うつ滞症、高シトルリン血症、幼児・青年期では原則無症状ながら食癖異常などを示し、成人期にはその代 償機構の破綻により、約20%の患者でCTLN2を発症する。このCTLN2を顕在化せしめる原因についてはいまだ明確ではなく、遺伝的要因とともに環境 的要因の関与が推定されている。

4. 症状

シトリン欠損症は新生児から老年までの幅広い年齢にわたり、また、それぞれの患者で異なる症状を呈する。
1)新生児・乳児期:子宮内発育不全、高シトルリン血症、ガラクトース血症、肝内胆汁うつ滞症、黄疸、発育不全、低血糖症、ビタミンK欠乏性凝固異常を呈するが生後6~12ヶ月で自然軽快する。
2)幼児から青年期:食癖異常(高脂肪高蛋白低糖質、頻回摂取)、成長障害(体重増加不良)、易疲労感、低血糖症、肝機能異常。
3)成人期:成人発症Ⅱ型シトルリン血症―高アンモニア血症、高シトルリン血症、高アルギニン血症、肝不全、けいれん、精神症状(見当識障害、異常行動など)。

5. 合併症


1)新生児・乳児期:凝固障害による脳内出血、ガラクトース血症による白内障。
2)学童から成人期:胃腸の不快感、高脂血症、脂肪肝、肝癌、膵炎。

6. 治療法

現在確立したものはない。
1)新生児・乳児期:胆汁うつ滞に対する治療(利胆剤、脂溶性ビタミン剤、MCTミルク)、ガラクトース除去ミルク。肝不全をきたし、肝移植を必要とする症例もある。
2)食事療法(高脂肪・高蛋白・低炭水化物食)。
3)成人期(成人発症Ⅱ型シトリン欠損症):高アンモニア血症に対する対処療法(血液透析血漿交換療法、フェニル酪酸、安息香酸ナトリウム、アルギニンの投与)、食事療法、ピルビン酸ナトリウムの投与、肝移植。

7. 研究班

シトリン欠損症の実態調査と診断方法および治療法の開発研究班