神経系疾患分野、代謝疾患分野|チロシン水酸化酵素欠損症(平成22年度)
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1. 概要 | |
チロシン水酸化酵素(TH)はチロシンをド-パミンに水酸化する酵素で あり、神経伝達物質であるド-パミンなどのカテコールアミンの合成に必須の酵素である。TH欠損症はド-パミン生成障害を主体とし、ド-パ反応性ジストニ アの病像を呈する症例もあるが、ノルアドレナリン生成障害を併発、進行性の脳症を呈する例が主体を占める。 | |
2. 疫学 | |
過去に我が国にも症例報告が存在するが、2009年度に施行した本研究班による全国調査では患者は報告されなかった。 | |
3. 原因 | |
11p15.5に存在するチロシン水酸化酵素の遺伝子異常に起因する疾 患で常染色体劣性の遺伝形式を取る。変異部位により、ド-パ反応性ジストニアの病型をとるものと、進行性脳症の病型をとるものとに分かれる原因の解明はで きていない。前者は精神、知能に異常がなく、L-dopaにより症状の寛解が得られるが、後者に治療法はない。この病態の相違、発現の病因の解明は病態解 明の中核と言える。 | |
4. 症状 | |
発症は進行性脳症の症例で早く、生後3~6カ月に運動寡少、躯幹筋緊張 低下、仮面様顔貌で発症し、これに腱反射亢進、錐体路徴候、注視発症、眼瞼下垂(交感神経作動点眼薬で改善)、縮瞳を伴う。また、間歇的に嗜眠を伴う全身 倦怠、被刺激性、発汗、流涎が発現、致命的となることもある。しかし、症例によってはこれらの症状を示さず、進行性の運動障害が前景となる。ド-パ反応性 ジストニアを主症状とする症例は、初発症状はジストニアと筋強剛で、乳児期から幼児期に発現、ジストニアは下肢から全身にひろがる。また、乳児期早期に振 戦が下肢に始まり、頭部、舌、上肢とひろがる。症例により、これらの運動症状は睡眠により改善を示す。筋強剛、ジストニアを主体とする症例は、知的発達は 正常である。 | |
5. 合併症 | |
症状は多彩であり、症例によりその強度が異なり多様性を示すが、特定の 合併症はみられない。診断は髄液のホモバニリン酸、3メトキン-4ヒドロキシフェニルグリコールの減少、プテリン、チロシンおよび5ヒドロキシトリプト ファンが正常なことで可能である。確定診断は遺伝子検索による。 | |
6. 治療法 | |
ジストニアを主体とする症例では、L-dopaが著効を示しその効果は 永続する。ジスキネジアを併発することもあるが、用量を減じることで改善する。症例により多動、また、バリスムスの発現のため、L-dopaを中止せざる を得ないことがある。しかし、再度、少量で開始、漸増することで効果が得られる。著明な躯幹筋筋緊張低下とバリスムスを伴った症例には少量L-dopaと セレギリン・ヒドロクロライドの併用が有効であったことが報告されている。進行性脳症の症例には現時点では有効な治療法はない。 | |
7. 研究班 | |
小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班 |