神経系疾患分野|Charcot-Marie-Tooth病(シャルコー・マリー・トゥース病)(平成22年度)
| |
1. 概要 | |
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、臨床症状、電気生理学的 検査所見、神経病理所見に基づいて,脱髄型と軸索型に大別され、さらにいくつかのサブタイプに分けられる。脱髄型CMTでは、一般的に神経伝導速度は 38 m/s 以下、活動電位はほぼ正常または軽度低下を示し、腓腹神経所見では節性脱髄、onion bulb の形成を認める。軸索型CMTでは、神経伝導速度は正常または軽度低下を示すが活動電位は明らかに低下し、腓腹神経所見では有髄線維の著明な減少を示す。 しかし、いずれとも分けられないintermediate CMTも存在する。原因遺伝子が次々と明らかになり、その病態の解明が進んでいる。 | |
2. 疫学 | |
患者数は、人口10万人当たり5~40人と言われている。わが国の CMT患者数は少なくとも2000名以上と推定される。平成21年度の研究班の調査では、540人のCMT患者が244施設で診療されて、患者数は年齢と ともに増加する傾向にあった。CMT全体として男女差はない。 | |
3. 原因 | |
これまでに40種類以上のCMT原因遺伝子が特定されている (http://www.molgen.ua.ac.be/CMTMutations)。CMTの約半数はPMP22重複によるCMT1Aと考えられてい る。脱髄型CMTの原因遺伝子として、PMP22、GJB1、MPZなど、軸索型CMTの原因遺伝子として、MFN2、GAN1、TDP1、APTX、 SETXなどが報告されている。同一の遺伝子であっても、異なる臨床型を示す場合がある。わが国ではCMTの遺伝子診断に関し、DNA chipを用いたハイスループットな診断法が確立され、大きな進展が見られている。遺伝子異常をしめすCMTの割合はそれほど高くなく、今後、わが国に多 い遺伝子異常の検討が必要である。 | |
4. 症状 | |
CMTは、一般的に四肢、特に下肢遠位部の筋力低下と感覚障害を示す疾 患であるが、近年の原因遺伝子の解明にともない中枢神経系の障害も含む多様な臨床症状が明らかとなってきている。まれに、四肢近位部優位の筋力低下・筋萎 縮を示す例もある。自律神経障害が前面に出るタイプもある。 | |
5. 合併症 | |
CMT全体に共通する一般的な合併症としては、腰痛、便秘、足関節拘縮 などが多く見られる。遺伝子異常のタイプによって、声帯麻痺、自律神経障害(排尿障害、空咳、瞳孔異常)、視力障害、錐体路障害、糖尿病、脂質代謝異常症 などの合併が見られる。重症例では、呼吸不全を来たし、人工呼吸器を必要とする場合もある。 | |
6. 治療法 | |
CMTの治療には、理学療法、手術療法、薬物治療がある。治療薬の開発 に関しては、(1)神経栄養因子、(2)プロゲステロン阻害薬および刺激薬、(3)クルクミンなどの研究が進められている。今後、遺伝子治療の開発、ロ ボット工学の応用も期待されている。平成22年3月に研究班より「シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル」が発刊されている。 | |
7. 研究班 | |
シャルコー・マリー・トゥース病の診断・治療・ケアに関する研究班 |