耳鼻科疾患|Pendred症候群(ペンドレッド症候群)(平成22年度)

ぺんどれっどしょうこうぐん
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1. 概要

先天性難聴と10才以後に発症する甲状腺腫を合併する常染色体劣性遺伝の疾 患である。約80%の症例で内耳に前庭水管拡大という奇形を認め、蝸牛にMondini(モンディーニ)型という奇形を認める場合も多い。一部の症例で は、難聴は先天性ではなく小児期に発症する。甲状腺腫はヨード有機化の不全型障害により約1/3の症例で発症する。甲状腺機能正常の症例が多いが、一部の 症例では甲状腺機能低下が認められる。

2. 疫学

約4000人。

3. 原因

Pendred症候群患者のおよそ半数にSLC26A4遺伝子変異が認められ、主要な原因である。残りの半数の患者の原因は現在まだ不明である。日本人では変異の頻度がより高いという報告が近年されているが確定していない。

4. 症状

先天性あるいは小児期からの両側性高度感音難聴。進行性あるいは変動性の経過を呈する症例も多い。
両耳の前庭機能低下による反復性めまい発作、平衡障害。
10才以後に発症する甲状腺腫。一部の症例では甲状腺機能低下症を伴う。

5. 合併症

小児難聴の結果としての言語発達の遅れ。
甲状腺腫は、少数ではあるが極めて巨大化して外見上の問題となり、さらに呼吸障害を生じる場合がある。

6. 治療法


1)難聴に対する治療
A. 慢性、進行性の難聴の場合
i. 補聴器 
Pendred症候群は内耳性難聴であるため、難聴が早期診断された場合には、高度難聴例でもある程度補聴器の効果が期待できる。難聴診断が遅れると、 補聴器を装用しても言語発達は困難となる。両耳の平均純音聴力域値が90dB以上の場合には補聴器の効果が乏しい場合も多く、その際には人工内耳の適応と なる。
本症候群では難聴が変動する例が多く、補聴器は常に聴力レベルに合わせて調整されていないと難聴を悪化させるため、聴力の状態に注意が必要である。ま た、本症候群では出生時は軽度難聴と診断され、その後に進行する場合もあり、この場合は難聴の進行に気づくのが遅れる可能性があるため、注意が必要であ る。

ii. 人工内耳
補聴器装用しても言語聴取が著しく困難な高度の難聴の場合には人工内耳の適応となる。Pendred症候群に対する人工内耳の効果は、難聴が早期診断され た場合には良好であることが知られている。難聴診断が遅れた例では、人工内耳を装用しても言語発達は困難となる。

iii. 言語訓練
先天性難聴の患者が言語獲得するためには、補聴器あるいは人工内耳を装用しての言語訓練が必須である。生後6か月以内に難聴診断された場合に最も効果が高 く、発見が遅れると効果が低下し、最終的な言語獲得レベルに差を生じる。4才以後に難聴診断された例での言語獲得は極めて困難である。

B. 難聴の急性増悪時の場合
Pendred症候群では、時に聴覚の急性増悪を呈する場合がある。誘因として頭部への衝撃などがある場合と、誘因がなくて急性増悪する場合がある。この ような場合には、突発性難聴に準じた治療を行う。具体的には、(入院)安静、点滴あるいは経口のステロイド投与、高気圧酸素療法、内耳循環促進薬投与など がある。治療により回復する例が多いが、回復しない場合もある。


2)めまいに対する治療
A. 慢性的めまいの場合
通常は、生活上支障となる慢性的めまいは伴わない。しかし、次の項目で記す急性めまいを頻回に繰りかえす例があり、これは生活上大きな支障となり、治療が必要である。

B. 急性めまいの場合
難聴の急性増悪時に同時に発症する場合が多い。難聴の治療と並行して、抗めまい薬の投与を行う。頻回にめまいを繰り返す場合には、内リンパ管閉塞術を行うと有効という報告がある。


3)甲状腺腫および甲状腺機能低下症に対する治療
A. 甲状腺腫の場合
一般に10才以後に徐々に発症する。およそ1/3で発症するが、残りの2/3は発症しない。ヨード摂取が不足すると発症率が高まるので、食事を注意する。 触診で甲状腺腫が判明しなくても、甲状腺エコーで判明する場合も多い。顕著に腫大すると美容上の問題、あるいは気道を圧迫するといった問題から甲状腺を全 摘出し、その後、甲状腺ホルモン剤を服用継続となる例が稀にある。部分切除では再発率が高い。我々の症例で、甲状腺機能低下が小児期に発見されて甲状腺ホ ルモン投与が継続されていた症例では、甲状腺腫を発症しておらず、一部の症例では甲状腺ホルモン投与に甲状腺腫を抑制する効果がある可能性がある。

B. 甲状腺機能低下症の場合
甲状腺機能低下症の発症頻度は、半数の症例で発症という報告からほとんど発症しないという報告まで、文献により様々である。我々の症例での検討では、甲状 腺機能低下症の発症頻度は低く、甲状腺腫を発症後も甲状腺機能は大部分の症例で正常に維持されていた。甲状腺機能低下症を認めた患者に対する治療として は、甲状腺ホルモンの経口投与を持続する。

7. 研究班

Pendred症候群の発症頻度調査と現状に即した診断基準の確立研究班