HTLV-1関連脊髄症(HAM)(指定難病26)

えいちてぃーえるぶい-わんかんれんせきずいしょう(はむ)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
HTLV-1のキャリアにみられる慢性進行性の痙性脊髄麻痺を示す一群。
 
2.原因
HTLV-1感染が一義的に原因であるが、感染者のごく一部にのみ発症する機序は分かっていない。
 
3.症状
初診時の主訴は下肢のつっぱり感による歩行障害(両下肢痙性不全麻痺)が多い。頻尿、排尿困難、尿失禁あるいは慢性の便秘などの排尿排便障害を伴っていることが多い。感覚障害は運動障害に比して軽度にとどまる例が多く、しびれ感や痛みなど、自覚的なものが多い。その他、進行例では下半身の発汗障害や起立性低血圧によるめまい、インポテンツなど、自律神経症状もみられる。
通常、症状は緩徐進行性で慢性に経過するが、亜急性に進行し、数週間で歩行不能になる例もみられる。高齢での発症者で進行度が早い傾向があり、重症例では両下肢の完全麻痺と体幹部の筋力低下により座位が保てなくなり寝たきりとなる例もある。一方で、運動障害が軽度のまま長期にわたり症状の進行がみられない例も多い。上肢の完全麻痺や嚥下・発声障害などの球症状を来たす例はほとんどみられない。
 
4.治療
炎症の活動期と判断される例では、過剰な免疫応答を調整する免疫療法や抗ウイルス療法が必要である。一方、炎症の活動性がほとんどないと考えられる例では、痙性や排尿障害に対する対症療法や、継続的なリハビリテーションが推奨される。
 
5.予後
通常は緩徐進行性で慢性に経過するが、進行が早く数週間で歩行不能になる例もみられる。高齢での発症で進行度が早い傾向があり、重症例では両下肢の完全麻痺、体躯の筋力低下による座位障害で寝たきりとなる。一方で、運動障害が軽度のまま長期にわたり症状の進行がほとんどみられない患者も多い。上肢の完全麻痺や嚥下や発声障害などの球麻痺を来す例はほとんどなく、基本的に生命予後は良好である。
ただ、転倒による大腿骨頸部骨折、尿路感染の繰り返しや褥瘡は予後不良の因子として重要である。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
3,000人 (研究班による)
2.発病の機構
不明(HTLV-1感染が一義的に原因であるが、感染者の一部にのみ発症する機序は分かっていない。)
3.効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ)
4.長期の療養
必要(進行性である。)
5.診断基準
あり(研究班作成)
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて85点以下又はOsameの運動機能障害重症度でGrade5以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「免疫性神経疾患に関する調査研究班」
研究代表者 近畿大学医学部神経内科 教授 楠進
 
 
 
<診断基準>
<HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)の診断ガイドライン>
 
主要項目(診断のカテゴリー)
下記の1~3を全て満たすものをHAMと診断する。
1.両下肢の痙性麻痺
2.抗HTLV-1抗体が血清及び髄液で陽性
3.他の脊髄疾患を除外できる。
(遺伝性痙性脊髄麻痺、他の脊髄炎、圧迫性脊髄障害、脊髄腫瘍、多発性硬化症、視神経脊髄炎、亜急性連合性脊髄変性症、脊髄小脳変性症、スモンなど)
 
診断の参考となる事項
・通常、緩徐進行性の経過をとるが、数週間から数か月で急速に進行する例がある。
・感覚障害は軽度で、しびれ感や痛みなど自覚的な症状が主体となる。
・膀胱直腸障害をしばしば伴い、初発症状のこともある。
・下半身の発汗障害、インポテンツなどの自律神経障害をしばしば伴う。
・神経症状・徴候は対称性で、左右差はあっても軽度にとどまる。
・上肢の障害は通常見られないか軽微にとどまるが、しばしば深部腱反射は亢進し、病的反射が陽性である。
 
 
<重症度分類>
Osameの運動機能障害重症度でGrade5以上を対象とする。
 
 
機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年1月1日

情報提供者
研究班名 HAMならびに類縁疾患の患者レジストリによる診療連携体制および相談機能の強化と診療ガイドラインの改訂班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年11月(名簿更新:令和6年6月)