神経系疾患分野|乳幼児破局てんかん(平成23年度)
| |
1. 概要 | |
乳幼児破局てんかん(catastrophic epilepsy)は、乳幼児期に頻発するてんかん発作により重篤なてんかん性脳機能障害が生じ、その結果、発達の停止・退行など破局的な発達予後を呈する乳幼児難治てんかんをさす。臨床的には、大田原症候群、West症候群、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群、Doose症候群など、年令依存性てんかん性脳症を呈するてんかん症候群が含まれるが、その原因と病態機序は不明な点が多い。多くの症例が重度の発達障害に至ると推測されるが、長期予後と有効な治療法は未だ明らかではない。一方、早期のてんかん外科治療等で発作の消失が得られ、良好な発達予後を示す症例もあることから、治療可能な症例の早期診断と早期治療の達成が求められている。 | |
2. 疫学 | |
本邦の疫学調査(岡山県1999年)をもとにした推計では、5歳以下の乳幼児の活動性てんかんの有病率は1000人あたり7.2人で、その10.2%が乳幼児破局てんかんに該当する。従って、わが国の5歳以下人口652万人(平成20年)のうち乳幼児破局てんかんに該当する患者数は約5000人と推定される | |
3. 原因 | |
乳幼児破局てんかんは、頻発するてんかん発作と発作間欠期の年令依存性の持続性全般性脳波異常及び重篤かつ進行する脳機能障害を特徴とする乳幼児期のてんかん性脳症をさすが、その病態機序は明らかではない。病因として、皮質異形成、瘢痕脳、腫瘍性病変、結節性硬化症などの病理学的異常、あるいは遺伝子異常が確認される場合があるが不明なことも多く、免疫や炎症機序の関与も指摘される。病態の解明には、臨床的には神経画像(MRI、PET、SPECTなど)や頭蓋内脳波記録などによるてんかん原性病変の同定及び原因遺伝子の探索が重要で、一方外科摘出標本を用いた神経生理学的・病理学的研究や動物モデルによる基礎研究も、原因の解明と有効な治療法を開発するために必要とされる。 | |
4. 症状 | |
臨床症状としては、日に数回から数百回に及ぶ乳幼児期特有のてんかん発作、すなわちスパスム、強直発作、無動発作、脱力発作などが頻発し、抗てんかん薬やビタミンB6及びACTH治療などの既存の内科的治療では発作消失が得られない事を特徴とする。多くの症例は発症とともに発達が停止し、長期的には発達の退行及び重度の発達障害に至る。脳波上、様々な形態の年令依存性全般性脳波異常、すなわち、新生児期にはsupprsssion-burst(大田原症候群)、乳児期にはhypsarrythmia(West症候群)、幼児期にはslow spike-and-wave complex(Lennox-Gastaut症候群)などを呈することも特徴である。 | |
5. 合併症 | |
発作の改善が得られない症例では、重度の発達障害が最も重大な合併症となる。一方、発作の改善が得られ発達障害が軽度の症例であっても、様々な行動障害や学習障害及び精神障害を伴う場合が多い。また頻発する発作による誤嚥性肺炎や低栄養などの身体合併症及び突然死(Sudden Unexpected Death in Epilepsy: SUDEP)が問題となる。 | |
6. 治療法 | |
初期治療として抗てんかん薬、ビタミンB6投与、次いでACTH治療、ケトン食治療を行う。局在性病変を伴ない難治化が予想される症例では、発症早期の切除手術(病変切除、脳葉切除、多葉切除、半球離断)の適応がある。病変を認めない場合や両側性広汎性病変など切除外科の適応がない場合、多剤併用の抗てんかん薬投与にて発作の緩和を期待する。切除手術の適応外の場合でも、難治例に対して脳梁離断術などの緩和的外科治療が選択される場合もある。 | |
7. 研究班 | |
乳幼児破局てんかんの実態と診療指針に関する研究 研究班 | |