免疫系疾患|IgG4関連疾患(平成23年度)
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1. 概要 | |
従来、シェーグレン症候群、キャッスルマン病、悪性リンパ腫、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、後腹膜線維症、炎症性偽腫瘍、キュツナー腫瘍、間質性腎炎、各臓器癌などと診断されてきた症例のなかに、血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の組織浸潤または腫瘤形成を特徴とする疾患群が存在し、これを我々は当初IgG4関連多臓器リンパ増殖症候群(IgG4+MOLPS)と命名した。その後、自己免疫性膵炎グループを中心に組織された厚労省IgG4研究岡崎班と協力し、オールジャパン体制として研究に取り組み、これまで種々の名称で呼ばれていた当疾患を「IgG4関連疾患」と病名統一を行った。 | |
2. 疫学 | |
倫理委員会承認施設から順次、症例登録を行い解析中である。IgG4+MOLPSは全診療科に関係する疾患であるにも関わらず、まだ広く周知されておらず、明確な診断基準も確立されておらず、通常の全国調査では正確な疾患の把握は困難である。そこで、人口流動の比較的少ない石川県を例にとり、定点観測法により患者発症数を推計した。その結果、発症患者の平均年齢は62歳であり、経過良好な疾患であることを考慮し、国内の患者数はおよそ26000人であると推計された。 | |
3. 原因 | |
IgG4関連多臓器リンパ増殖症候群(IgG4+MOLPS)は、血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の腫瘤形成あるいは組織浸潤を特徴とする、本邦から発信された新たな疾患概念である。自己免疫疾患的な側面を持つ一方、アレルギー性疾患の合併が高頻度に認められるという特徴を有する。慢性経過をとることより、持続的な抗原感作が起こっている可能性がある。しかし、通常のIgM, IgG1を介した免疫応答に対して、何故、IgG4へのクラススイッチが誘導されるのか未だ不明である。現在、DNAマイクロアレイやプロテインミクスの手法を用いて、IgG4関連疾患の原因関連遺伝子および蛋白質の解析中である。 | |
4. 症状 | |
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値と組織中へのIgG4陽性形質細胞の浸潤を特徴とする疾患である。全身のあらゆる臓器に出現する可能性がある。また、傷害臓器固有の症状により、臨床像は非常に多彩である。 | |
5. 合併症 | |
IgG4関連疾患は、全身諸臓器にIgG4陽性形質細胞の組織浸潤と腫瘤形成を呈する疾患である。従って、合併症というよりは、全身諸臓器に腫瘤による圧排症状や機能障害が出現する。本来、良好な疾患であるにも関わらず、疾患概念の未確立のために、臓器癌や血液悪性疾患と間違われ治療されてきた。また、ミクリッツ病、自己免疫性膵炎、間質性腎炎、後腹膜線維症、慢性甲状腺など、従来、独立の疾患と考えられていた疾患が重複するという特徴をもつ。各臓器特異的な臨床症状の把握とその対処法についての解析を続けている。 | |
6. 治療法 | |
IgG4関連疾患という新たな概念が生まれるまで、本疾患は様々な既知の疾患として誤った診断及び治療を受けていた可能性がある。例えば、膵臓病変は膵臓癌として拡大手術を受けたり、リンパ節病変は悪性リンパ腫として抗がん剤治療を受けていた可能性がある。また涙腺・唾液腺病変はシェーグレン症候群として無治療経過観察されていた可能性もある。本疾患はステロイド治療で劇的な改善が認められるため、適切な診断と治療指針の確立が重要である。今後、IgG4+MOLPSの診断基準制定を行うと同時に、治療プロトコール作成のための前向き研究を開始中である。 | |
7. 研究班 | |
新規疾患, IgG4関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のための研究班 | |