代謝疾患分野|遺伝性高チロシン血症Ⅰ型(平成23年度)

いでんせいこうちろしんけっしょうⅠがた
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1. 概要

遺伝性高チロシン血症I型 [MIM276700 HEREDITARY TYROSINEMIA TYPE I]はフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH: EC 3.7.1.2 )が欠損することで発症する。低血糖、アミノ酸やその他の代謝障害、凝固因子の低下、若年性肝臓癌、肝不全が進行する。近位尿細管においても細胞障害が出現し、アミノ酸尿、糖尿、代謝性アシドーシスなどのFanconi症候群が発症する。

2. 疫学

高チロシン血症はMedesによって1932年に初めて報告されている。この患者の病型は明らかにされていない。高チロシン血症I型がフマリルアセと酢酸分解酵素の異常であることが判明したのは1980年代の初めのことである。わが国では数例の報告があるが、新生児期に原因不明の肝障害として死亡している例が少なくないと考えられる。

3. 原因

フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH: EC 3.7.1.2 )が欠損することによって細胞内に蓄積するフマリルアセト酢酸の毒性のために種々の病態が生じる。肝細胞では遺伝子発現の異常、酵素活性の阻害、アポトーシス、染色体の不安定および癌化が生じている。

4. 症状

肝実質細胞と近位尿細管細胞の障害を認める。臨床的には、進行する肝障害と腎尿細管障害が特徴である。急性型、亜急性型、慢性型の3つの病型があり、急性型では生後数週から始まる肝腫大、発育不良、下痢、嘔吐、黄疸などが見られる。重症例では肝不全へ進行し、無治療であれば生後2ー3ヶ月で死亡する。亜急性型では、生後数ヶ月から1年程度で肝障害を発症する。

5. 合併症

肝硬変、肝不全に至る。肝臓癌を発生する症例も多く、多発性腫瘍も報告されている。腎臓では尿細管機能障害が出現し、低リン血性くる病、ビタミンD抵抗性くる病などが認められる。また、腹痛発作、ポリニューロパチーなどの急性間欠性ポルフィリン症に類似した症状が出現する。

6. 治療法

国内未承認薬であるニシチノンを使用し、食事療法(低フェニルアラニン・低チロシン食)を併用する。早期に治療を開始すると約90%がNTBCに反応するといわれている。治療の効果判定には肝機能検査と血清αフェトタンパク値の測定が有用である。血清αフェトタンパクを正常範囲に保つことができれば予後が期待できる。NTBCを使用しない例では肝不全に至ることが多く、肝移植が行われる。

7. 研究班

高チロシン血症を示す新生児における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究