その他分野|ウエルナー症候群(平成23年度)

うえるなーしょうこうぐん
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1. 概要

1904年にドイツの医師オットー・ウエルナーにより初めて報告された常染色体劣性の遺伝性疾患。思春期以降に、白髪、白内障などさまざまな老化兆候が出現することから、代表的な「早老症候群」の一つに数えられている。

2. 疫学

ウエルナー症候群は常染色体劣性の代表的遺伝的早老症である。1997年のMatsumotoらの報告では、これまで全世界で1,300名程度の患者が報告され、そのうち800名以上が日本人とわが国で特に頻度の高い疾患である。現在、日本の患者数は約2,000名と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。

3. 原因

第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRNヘリカーゼ)のホモ接合体変異が原因と考えられている。しかし、何故この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらすかは未解明である。

4. 症状

20歳台より、白髪・脱毛などの毛髪変化、白内障(両側性の場合が多い)、高調性の嗄声、腱など軟部組織の石灰化、皮膚の萎縮や角化・潰瘍、四肢の筋・軟部組織の萎縮、高インスリン血症を伴う耐糖能障害、性腺機能低下症などが見られるようになる。また低身長である場合が多い。死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、平均死亡年齢が40歳代半ばと言われてきた。しかし、最近の国内外の報告では寿命が5~10年延長し、60歳を超えて普通に生活する患者も少なくない。

5. 合併症

粥状動脈硬化を生じやすい背景として、インスリン抵抗性を伴う耐糖能障害や高トリグリセライド血症、内臓脂肪の蓄積など、メタボリックシンドロームに類似の病態がみられる。また、高LDLコレステロール(LDLC)血症も伴いやすい。悪性腫瘍には、悪性黒色腫や骨肉腫、造血系腫瘍など間葉系腫瘍が多い。上皮性腫瘍としては、甲状腺癌や近年では肺癌の合併が多い。腱の石灰化は、しばしば疼痛を伴なう。足部の皮膚潰瘍は難治性であり、患者のADLを低下させ、下肢の切断を必要とすることが少なくない。

6. 治療法

根本的治療法は未開発である。白内障は通常 手術を必要とする。糖尿病に対しては一般にチアゾリジン誘導体が著効を示す。高LDLC血症にはスタチンが有効である。四肢の難治性皮膚潰瘍に、保存的治療が無効な場合には、他部位からの皮膚移植を検討する。一方、体幹部の皮膚創傷治癒能は通常損なわれていないため、甲状腺癌、肺癌等に対する手術適応は、本疾患以外の患者と同等に考えてよい。

7. 研究班

ウエルナー症候群の病態把握、診療指針作成と新規治療法の開発を目的とした全国研究