(8)消化器系疾患分野|消化管を主座とする好酸球性炎症症候群(平成24年度)

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1. 概要

消化管を主座とする好酸球性炎症症候群(以下Eosinophilic Gastro-intestinal Disorder: EGIDとする)は、新生児-乳児における食物蛋白誘発胃腸炎 (ここでは日本におけるFood-Protein Induced Enterocolitis Syndromeという意味でN-FPIESと呼ぶ)、幼児-成人における好酸球性食道炎 (EoE)、好酸球性胃腸炎 (AEG) の総称である。EGIDは、各年齢で1990年台末から急激に増加していると考えられている。診断法、治療法が確立していないことから、多くの患者が苦しんでいる。
新生児-乳児における食物蛋白誘発胃腸炎 (N-FPIES) では10%の患者は、生命にかかわる重大な合併症を引き起こすため、緊急の治療が必要となる。治療困難症例の場合、症状は一生続く。
幼児-成人における好酸球性食道炎 (EoE) では嚥下障害のために日常生活が障害されるとともに長期経過例では食道狭窄を起こし観血的な治療が必要となる。
幼児-成人における好酸球性胃腸炎 (AEG) は胃-大腸にいたる重要な臓器が障害されるが、欧米では症例数が少ないこともあり、診断治療研究が進んでいない。多くの患者を抱える我が国で研究を進歩させる必要がある。60%程度の例で再発を繰り返し、慢性化してステロイド依存性となるなどして薬剤治療にともなうさまざまな副作用が問題となる。

2. 疫学

N-FPIESは2000年以前には少数の報告があるのみであったが、以後急速に増加してきた。現在は東京都の全数調査により、発症率0.21%と判明し、年間2000名程度が新たに発症していると考えられる。
成人のEGIDは木下らが、2004-2009年に全国の基幹病院から報告を受けた患者数を明らかにしている。EoE26名、AEG144名であった。この種類の研究で報告される数は実際の症例数の10~20分の1前後であることを考えると、そして幼児-思春期の患者が含まれていないことを考えると、全国で5000名程度の患者が存在するのではないかと推定される。

3. 原因

免疫反応の異常により、消化管で炎症が起きることが原因である。この免疫学的異常についての詳細は明らかになっていないが、消化管において好酸球の著明な浸潤が見られることが特徴である。

4. 症状

新生児-乳児における食物蛋白誘発胃腸炎 (N-FPIES) は、主に反復する嘔吐、下痢、血便、体重増加不良が見られ、10%の重症者は腸閉塞、腸破裂、低蛋白血症、発達遅滞、ショック(循環不全)などを合併する。
幼児-成人における好酸球性食道炎 (EoE) は、食道のみに炎症が見られ、食物が飲み込みにくい、つかえ感などを生じる。
好酸球性胃腸炎 (AEG) は、全消化管に炎症が及ぶ可能性があるが、食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢、血便、体重減少、腹水などが見られる。また、重症者では、消化管閉塞、腸破裂、腹膜炎を起こすことがある。

5. 合併症

腸閉塞、腸破裂、腹膜炎、低蛋白血症、発達遅滞、ショック(循環不全)などがある。

6. 治療法

新生児-乳児における食物蛋白誘発胃腸炎 (N-FPIES) は、炎症の引き金となっている食物を同定できた場合は、これを除去することで改善することが多い。しかし、この同定は困難を極めることも多く、これが不可能な場合、炎症は持続する。
好酸球性食道炎 (EoE) については、食道のみに効果を与える局所ステロイド薬が効果を示すが、中止すると再発することが多い。
好酸球性胃腸炎 (AEG) は、全身性のステロイド薬が使用されることが多い。しかし、根本的に炎症を寛解させることが難しいため、長期にわたって使用せざるを得ないステロイド薬の副作用、つまり糖尿病、骨粗鬆症、うつ状態などに苦しむことが多い。

7. 研究班

消化管を主座とする好酸球性炎症症候群の診断治療法開発、疫学、病態解明に関する研究(H24-難治等(難)-一般-044)