呼吸器系疾患分野|肺静脈閉塞症(平成24年度)
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1. 概要 | |
肺静脈閉塞症(pulmonary veno-occlusive disease, PVOD)は肺動脈性肺高血圧症を呈する疾患の中で10%以下といわれる極めて稀な疾患であるが、治療に抵抗性で非常に予後不良である。病理組織学的には肺内の静脈が病態の首座であり、肺静脈の内膜肥厚や線維化等による閉塞を認める。肺内の静脈の閉塞により、肺静脈の中枢側である肺動脈の血圧(肺動脈圧)の持続的な上昇を来たすことになる。したがって臨床的には他の肺動脈性肺高血圧症と類似の病態であり、一般内科診療において臨床所見からだけではPVODを疑うことは困難である。典型例では胸部CT像において、すりガラス状陰影、葉間隔壁の肥厚などが観察されるが、確定診断は現在でも肺生検などによる病理組織診断でのみ可能である。したがって、特発性肺動脈性肺高血圧症と診断されていることが多く、正確な発症数は把握されていないのが現状である。 | |
2. 疫学 | |
本症の年間発症数は100万人に0.1-0.3人といわれているが、背景には診断困難な患者が数倍は存在すると推定される。PVODはあらゆる年代に発症し、喫煙者が多いとされている。成人例では男性にやや多い傾向がある。15歳未満の症例では男女差は無いといわれている。 | |
3. 原因 | |
現時点では肺静脈閉塞症の原因は不明である。ほとんどの症例が孤立性であるが、家族内発症の報告例もある。また、ウイルス性呼吸器感染後や抗がん剤による化学療法後などに発症した報告もある。 | |
4. 症状 | |
肺高血圧に伴う進行性の非特異的症状である。症状は肺動脈性肺高血圧と同様で、労作時の息切れ、慢性の咳嗽、下肢の浮腫、胸痛、労作時の失神などである。低酸素血症に伴い、ばち状指なども時に認められる。 | |
5. 合併症 | |
低酸素血症、右心不全 | |
6. 治療法 | |
本症の原因が明らかではないため、疾患の進行を阻止できる治療はなく対症療法が主体である。安静、禁煙が必要であり、妊娠も症状を悪化させる。利尿剤、プロスタグランディン系血管拡張剤 (エポプロステノロールなど)、ホスホジエステラーゼ5阻害剤、カルシウムチャンネル拮抗薬、エンドセリン受容体拮抗薬などが投与されるが、一時的には有効でも長期的には有効でなく、現時点では肺移植のみが完治療法である。治験的に投与されたイマチニブの有効例も報告されているが、これについては今後の検討課題である。 | |
7. 研究班 | |
肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究班 | |