リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)

りんぱみゃくかんきんしゅしょう(LAM)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)は、平滑筋様の腫瘍細胞(LAM細胞)が増殖し、肺に多発性嚢胞を形成する、緩徐進行性かつ全身性の腫瘍性疾患である。結節性硬化症(TSC)に伴って発生するTSC-LAMと、単独で発生する孤発性LAMとに分類される。主として妊娠可能年齢の女性に発症し、進行に伴って労作時呼吸困難、咳嗽、血痰、乳び胸水などの症状や所見が出現し、自然気胸を反復することが多い。腎臓などに血管筋脂肪腫を合併することがある。肺病変が進行すると呼吸機能が低下し呼吸不全を呈するが、進行の速さは症例ごとに多様である。
 
2.原因
孤発性LAM、TSC-LAMともにTSCの原因遺伝子として同定されたTSC遺伝子の異常が発症に関与している。TSCは全身の臓器に種々の過誤腫を形成する遺伝性疾患であり、原因遺伝子としてTSC1TSC2が同定されている。TSC遺伝子異常により形質転換したLAM細胞は、病理形態学的には癌と言える程の悪性度は示さないがリンパ節や肺に転移し、肺にはびまん性、不連続性の病変を形成する。また、LAM細胞はリンパ管内皮細胞増殖因子であるVEGF-CおよびVEGF-Dを強く発現し、LAM病変内には、豊富なリンパ管新生を伴っており、LAM病変の進展や転移にリンパ管新生が中心的役割を担っている可能性が考えられている。
 
3.症状
主に妊娠可能年齢の女性に発症し、平均発症年齢は30歳台中頃であるが、閉経後に診断されることもある。男性では、孤発性LAMは極めてまれである。肺病変の進行に伴い労作時呼吸困難が出現することにより、又は自然気胸を契機として、診断される場合が多いほか、無症状のまま胸部検診での異常影として発見される場合がある。その他の症状として咳嗽、血痰、喘鳴などの呼吸器症状や、乳び胸水又は腹水、下肢のリンパ浮腫、腹部腫瘤(リンパ脈管筋腫)、腎血管筋脂肪腫に伴う症状(腹痛、血尿、貧血など)を認める場合がある。
 
4.治療法
閉塞性換気障害を認める症例では気管支拡張薬が症状改善に有用であり、作用機序の異なる薬剤を単独あるいは併用して投与する。本症の発症と進行には女性ホルモンの関与が推測されるため、ホルモン療法が考慮されてきたが、効果に関して一定の見解は得られていない。近年、分子標的治療薬の一種でありmTOR阻害薬であるシロリムスの有効性が報告され、本邦において2014年7月に薬事承認された。シロリムスは、肺機能の低下を防止する、乳び胸水や腹水を減少させる、腎血管筋脂肪腫を縮小する、等の効果が報告されている。
LAMでは気胸の再発が多くみられるため、早期に胸膜癒着術や外科的治療を行い、再発防止策を講じる必要がある。
肺病変の進行により呼吸不全に至った症例では呼吸リハビリテーションと酸素療法がCOPDなどの他疾患と同様に検討される。末期呼吸不全に対して肺移植が適応となるが、移植肺にLAMが再発し得ることが知られている。
尚、妊娠、出産は患者にとって重要な課題であるが、病状が悪化する可能性がある。必ずしも禁忌とは言えないが、妊娠、出産がLAMの病勢へ及ぼす影響を考慮し慎重に考える必要がある。
 
5.予後
臨床経過は多様であり、慢性に進行し呼吸不全に至る予後不良な症例もあれば、無治療でも進行が緩徐で長期間にわたり呼吸機能が良好に保たれる症例もある。しかし、LAMのうちどのくらいの割合が安定した経過を示すのかは明らかにはなっていない。
平成15・18年度に本邦で行われた全国調査の結果、10年予測生存率は85%であったが、横断的調査であり参考値である。米国LAM Foundationによる登録患者410症例からの解析の結果、10年生存率(移植なし)は86%と報告されている。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(平成26年度医療受給者証保持者数)
689人
2.発病の機構
不明(有力な原因遺伝子が特定されているが、発病までの機序は明らかではない。)
3.効果的な治療方法
シロリムスが有効とされている。
4.長期の療養
必要
5.診断基準
あり
6.重症度分類
研究班による重症度分類とし、重症度II以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科学 教授 巽浩一郎
 
 
<診断基準>
Definite(診断確実例)、Probable(診断ほぼ確実例)、臨床診断例いずれも対象とする。
 
リンパ脈管筋腫症(Lymphangioleiomyomatosis:LAM)は、平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺、体軸リンパ節(肺門・縦隔、後腹膜腔、骨盤腔など)で増殖して病変を形成し、病変内にリンパ管新生を伴う疾患である。通常、生殖可能年齢の女性に発症し、労作時息切れ、気胸、血痰などを契機に診断される。本症の診断には、LAMに一致する胸部CT所見があり、かつ他の嚢胞性肺疾患を除外することが必須であり、可能であれば病理学的診断を行うことが推奨される。
 
1.主要項目
(1)必須項目
LAMに一致する胸部CT所見(注2)があり、かつ他の嚢胞性肺疾患を除外できる。
(2)診断のカテゴリー:診断根拠により以下に分類する。
①Definite:必須項目+病理診断確実例(注3)
②Probable
②-1.組織診断例:必須項目+病理診断ほぼ確実例(注3)
②-2.細胞診断例:必須項目+乳糜胸腹水中にLAM細胞クラスター(注4)を認めるもの
③臨床診断例
③-1.必須項目+LAMを示唆する他の臨床所見(注5)
③-2.必須項目のみ
 
2.鑑別診断
以下のような肺に囊胞を形成する疾患を除外する。
・ブラ、ブレブ
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)
・シェーグレン症候群に伴う肺病変
・アミロイドーシス(囊胞性肺病変を呈する場合)
・空洞形成性転移性肺腫瘍
・バート・ホッグ・デューベ(Birt-Hogg-Dubé)症候群
・リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)
・Light-chain deposition disease
 
3.指定難病の対象範囲
上記①②③いずれも対象とする。
但し、③臨床診断例の申請にあたっては臨床調査個人票の主治医意見欄に病理診断できない理由、結節性硬化症の診断根拠、穿刺検査で確認した乳糜胸水や乳糜腹水の合併などの必要と思われる意見を記載すること。胸部CT画像(高分解能CT)も提出すること。さらに、(注5)の(2)または(4)にあたる場合には、腎血管筋脂肪腫の病理診断書のコピー、あるいは根拠となる適切な画像(腹部や骨盤部のCTあるいはMRI)を胸部CT画像に加えて提出すること。
 
(注1)LAMは全身性疾患であるため、肺病変と肺外病変がある。肺外病変のみのLAM症例が診断される可能性は否定できないが、このLAM認定基準では予後を規定する肺病変の存在を必須項目とする。
(注2)LAMに一致する胸部CT所見
境界明瞭な薄壁を有する囊胞(数mm~1cm大が多い)が、両側性、上~下肺野に、びまん性あるいは散在性に、比較的均等に、正常肺野内に認められる。
高分解能CT撮影(スライス厚1~2mm)が推奨される。
(注3)病理学的診断基準
LAMの基本的病変は平滑筋様細胞(LAM細胞)の増生である。集簇して結節性に増殖する。病理組織学的にLAMと診断するには、このLAM細胞の存在を証明することが必要である。肺(囊胞壁、胸膜、細気管支・血管周囲など)、体軸リンパ節(肺門・縦隔、後腹膜腔、骨盤腔など)に主に病変を形成し、リンパ管新生を伴う。
(1)LAM細胞の所見
①HE染色
LAM細胞の特徴は、①細胞は紡錘形~類上皮様形態を呈し、②核は類円形~紡錘形で、核小体は0~1個、核クロマチンは微細、③細胞質は好酸性又は泡沫状の所見を示す。
②免疫組織化学的所見
LAM細胞は、抗α-平滑筋アクチン(α-smooth muscle actin:α-SMA)抗体、抗HMB45抗体(核周囲の細胞質に顆粒状に染色)に陽性を示し、核は抗エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)抗体、抗プロゲステロン受容体(progesterone receptor:PR)抗体に陽性を示す。LAM細胞はこれら全てに陽性となるわけではない。
(2)LAM細胞の病理学的診断のカテゴリー
病理診断確実:
(1)-①(HE染色所見)+1)-②のα-SMA(+)+HMB45(+)
病理診断ほぼ確実:
(1)-①(HE染色所見)+1)-②のα-SMA(+)+HMB45(−)かつ、ERかPRのいずれか1つでも陽性の場合。
(注4)LAM細胞クラスターは、表面を一層のリンパ管内皮細胞で覆われたLAM細胞集塊である。α-SMA、HMB45、ER、PR、D2-40(あるいはVEGFR-3)による免疫染色で確認する。
(注5)LAMを示唆する他の臨床所見とは、以下の項目をいう。
(1)結節性硬化症の合併
結節性硬化症の臨床診断は、日本皮膚科学会による結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン(日皮会誌:118 (9)、1667―1676,2008)に準じる。
但し、「臨床診断例」の場合ではLAMの病理診断や細胞診診断が得られていない状況であるため、LAMを除外した項目で結節性硬化症の臨床診断基準を満たすことが必要である。
なお、LAMが主となる診断の場合と、結節性硬化症が主となる診断の場合の腎血管筋脂肪腫に対する治療適用基準には一定の見解が得られていないので、注意が必要である。
(2)腎血管筋脂肪腫の合併(画像診断可)
(3)穿刺検査で確認した乳糜胸水や乳糜腹水の合併
(4)後腹膜リンパ節や骨盤腔リンパ節の腫大
<重症度分類>
重症度分類II以上を対象とする。

【重症度分類】 ★重症度I~IVとし、1つ以上の項目を満たす最も高い重症度を採用する。

 

呼吸機能障害

気胸

腎血管筋
脂肪腫

乳び胸水・
腹水・
リンパ浮腫

リンパ脈管
筋腫

I

80Torr≦PaO2

80%≦%FEV1

1年以内の気胸発症は左記の呼吸機能障害の段階を1つ上げる

4cm未満、かつ症状や動脈瘤(径5mm以上)を認めない

 

症状を有さないリンパ脈管筋腫

II

70Torr≦
PaO2
<80Torr

70%≦
%FEV1
<80%

4cm以上であるが、症状や動脈瘤(径5mm以上)を認めない

内科的管理*によりコントロールされている(*脂肪制限食、生活指導、利尿剤など)

症状を有するリンパ脈管筋腫

III

60Torr≦
PaO2
<70Torr

40%≦
%FEV1
<70%

大きさに関係なく症状*を認める(*背部痛、腹痛、血尿など)、あるいは径5mm以上の動脈瘤を認める

内科的管理*によりコントロールが困難
(*脂肪制限食、生活指導、利尿剤など)

 

IV

PaO2<60Torr

%FEV1<40%

 

動脈瘤破裂により腫瘍内外に出血を認める

 

 

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年1月1日

  • リンパ脈管筋腫症(LAM)診療の手引き2022
    https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/LAM_GL%202022.pdf
  • 林田美江 、他. リンパ脈管筋腫症lymphangioleiomyomatosis(LAM)診断基準. 日呼吸会誌 2008;46(6):425-427.
  • 林田美江 、他. リンパ脈管筋腫症lymphangioleiomyomatosis(LAM)治療と管理の手引き. 日呼吸会誌 2008;46(6):428-431.
  • 林田美江 、他. 特定疾患治療研究事業対象疾患 リンパ脈管筋腫症
    lymphangioleiomyomatosis(LAM)認定基準の解説.日呼吸会誌
    2011;49(2):67-73.
情報提供者
研究班名 難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年12月(名簿更新:令和6年6月)