腸管神経節細胞僅少症(指定難病101)

ちょうかんしんけいせつさいぼうきんしょうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
本症は、新生児期から消化管壁内神経節細胞の減少に起因する重篤な機能的腸閉塞症状を来す疾患であり、予後不良の先天性消化管疾患として知られている。多くは、生命維持のために、中心静脈栄養が長期にわたり必要であり、小腸移植の適応にもなり得る。
 
2.原因
消化管壁内神経節細胞の減少に起因する消化管蠕動不全がその病因であり、病変部位は小腸から肛門までの広範囲にわたって認められる症例が多い。合併奇形はほとんど認めず、家族歴にも特筆すべきものはなく、現時点では遺伝的背景も乏しいと考えられる。
 
3.症状
新生児期から発症し、腹部膨満、嘔吐、胎便排泄遅延が主な症状である。腸管神経節細胞の減少は広範囲に及び、また、減少の程度も症例ごとに異なることから、適切な腸瘻造設部位の推定が困難である。したがって、造設部位を誤ると、腸瘻造設後にうっ滞性腸炎が改善しないことになる。さらに、中心静脈栄養も長期になるため、カテーテル感染症や静脈栄養関連肝障害などの合併症も起こしやすい。主に新生児期に急性の腸閉塞として発症する。腸管神経の低形成が高度なものが多く、全消化管の蠕動不全を伴い、消化管の通過障害のために長期の食事摂取制限、静脈栄養管理を必要とする。これらは急性腸炎による敗血症のため突然死のリスクがある。
 
4.治療法
診療方針については、中心静脈栄養、経腸栄養による栄養管理を行いながら、うっ滞性腸炎に対する減圧手術を付加することが必要となる。減圧のためには腸瘻の造設が必須となる。この際に造設部位が問題となり、初期のストーマ造設部位が本症の治療成績を決定する鍵となっている。2001~2010年の全国調査では、初回に空腸瘻造設例が、回腸瘻造設例に比較して、良好な予後を認める結果となっていた。一方で、腸瘻肛門側の機能障害腸管切除の是非については、その効果は不明であり、現在のところ一定の見解を得ていない。したがって、機能障害腸管の大量切除または温存を判断する必要があるが、現時点での方向性は決まっていない。さらに、重症例は、臓器移植により救命できる可能性があり、小腸移植や多臓器移植の対象疾患としての検討が今後の課題となる。
 
5.予後
この疾患の多くが、重症の経過をたどり、死亡率も高い。2001~2010年の全国調査では死亡率は22.22%となっており、前回の全国調査の岡本らの集計した神経細胞減少例44例中の死亡例10例の死亡率22.73%と比較して、改善を認めていない。主な死亡原因は、静脈栄養とうっ滞性腸炎に起因する重症肝障害と敗血症であり、静脈栄養への依存度の低下と、普通食への移行の成否、有効な消化管減圧によるうっ滞性腸炎回避の成否が、予後を左右すると考えられる。腸管の蠕動不全や異常拡張のため腸管内で細菌が異常増殖をきたしバクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation)による敗血症によるショックで突然死亡する症例や、長期間にわたり腸瘻の管理を必要とし、さらに長期にわたる静脈栄養の合併症としての敗血症や肝不全により死に至る症例が多い。また長期間にわたり、常時静脈路を必要とするために、静脈栄養路としての静脈が枯渇するという問題点もある。長期的な栄養障害のため身体発育障害や経口摂取不能のため精神障害をきたす場合もある。最近では適切な部位(高位空腸)に腸瘻を造設し下部腸管を含めて腸内容のうっ滞を予防する治療により生命予後の改善がみられるが、本症に対する根治的な治療法の開発には至っておらず、長期にわたる治療が必要であることに変わりはない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数 (令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(小腸移植など)
4.長期の療養
必要(経腸栄養管理や、静脈栄養管理や肝庇護療法が必要。)
5.診断基準
日本小児外科学会関与の診断基準等あり
6.重症度分類
研究班の重症度分類を用いて、重症例を対象とする。
 
○ 情報提供元
「小児期からの消化器系希少難治性疾患の包括的調査研究とシームレスなガイドライン作成研究班」
研究代表者 九州大学医学研究院小児外科 教授 田口智章
 
 
 
<診断基準>
1かつ2を満たす。

1.新生児早期から腸閉塞症状を発症する。
2.病理組織採取からの診断基準に従う。
「神経節細胞の数が著しく減少し、壁内神経叢が低形成である。」
病変採取部位:少なくとも空腸又は回腸(できれば両方)と結腸の十分量な全層生検標本で診断する。
なお、新生児・乳児期の神経節細胞の病理診断には、高い専門性が求められる。また、最近ではHuC/D染色が神経節細胞のマーカーとしての有用性が認識されている。

<重症度分類>
重症例を対象とする。
 
腹痛、腹部膨満、嘔気・嘔吐などの腸閉塞症状により、日常生活が著しく障害されており、かつ以下の3項目のうち、少なくとも1項目以上を満たすものを、重症例とする。
1.経静脈栄養を必要とする。
2.経管栄養管理を必要とする。
3.継続的な消化管減圧を必要とする。
 
注)消化管減圧とは、腸瘻、胃瘻、経鼻胃管、イレウス管、経肛門管などによる腸内容のドレナージをさす。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

    1. 岡本英三、豊坂昭弘Hirschsprung病類縁疾患-定義・名称・分類および診断・治療. 豊坂昭弘(編)Hirschsprung病類縁疾患 病態解明と診断・治療の研究:永井書店、大阪、pp17-25, 1996
    2. Sarna KS: Cyclic motor activity; migrating motor complex:  Gastroenterology, 89:894-913,1985.
    3. Bisset WM, Watt J, Rivers R, et al: Ontogeny of fasting small intestinal motor activity in the human infant. Gut, 29:483-488,1988.
    4. Watanabe Y, Ito T, Ando H, et al: Manometric Evaluation of Gastrointestinal Motility in Children with Chronic Intestinal Pseudo-obstruction Syndrome. J Pediatr Surg  31:233-238, 1996.
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    12. ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン作成グループ編.ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン.メジカルビュー社,2018.
    13. Muto M, Matsufuji H, Taguchi T, Tomomasa T, Nio M, Tamai H, Tamura M, Sago H, Toki A, Nosaka S, Kuroda T, Yoshida M, Nakajima A, Kobayashi H, Sou H, Masumoto K, Watanabe Y, Kanamori Y, Hamada Y, Yamataka A, Shimojima N, Kubota A, Ushijima K, Haruma K, Fukudo S, Araki Y , Kudo T, Obata S, Sumita W, Watanabe T, Fukahori S, Fujii Y, Yamada Y, Jimbo K, Kawai F, Fukuoka T, Onuma S, Morizane T, Ieiri S, Esumi G, Jimbo T, Yamasaki T. Japanese clinical practice guidelines for allied disorders of Hirschsprung’s disease, 2017.< https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29878629/ >Pediatr Int.2018;60:400-410. DOI:10.1111/ped.13559.
情報提供者
研究班名 希少難治性消化器疾患の長期的QOL向上と小児期からのシームレスな医療体制構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)