TNF受容体関連周期性症候群(指定難病108)
○ 概要
1.概要
近年、国内外で注目されている自己炎症性症候群の一つであり、発熱、皮疹、筋肉痛、関節痛、漿膜炎などを繰り返し、時にアミロイドーシスを合併する事もある疾患である。TNF受容体1型(TNFRSF1A)を責任遺伝子とするが、詳しい病態は解明されていない。全身型若年性特発性関節炎や成人スチル病と症状が類似しており、鑑別が重要となる。
2.原因
1999年に責任遺伝子としてTNF受容体1型が同定された。常染色体優性遺伝形式をとるものの、本疾患の浸透率は70~80%であり、家系内に同一変異を有しながらも無症状のものが存在し、重症度のばらつきも認められる。このため、家族歴が明らかでないということのみで本症を否定できないことを留意する必要がある。
3.症状
典型例は幼児期に発症し、3日間から数週間と比較的長い期間にわたる発熱発作を平均5~6週間の間隔で繰り返す。随伴症状として筋肉痛、結膜炎や眼周囲の浮腫などの眼症状、腹痛などの消化器症状、皮膚症状などがみられる。皮膚症状では、圧痛、熱感を伴う体幹部や四肢の紅斑が多く、筋肉痛の部位に一致して出現し、遠心性に移動するのが典型的とされる。
4.治療法
発作早期にプレドニゾロン(PSL)を開始し、症状をみながら減量して7~10日間で終了する方法が推奨されている。しかし、発作を繰り返すごとにPSLの効果が減弱し、増量が必要となったり、依存状態となる症例が報告されている。また、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)は発熱、疼痛の緩和に一定の効果が期待される。難治性症例に対し、抗TNF製剤(エタネルセプト)やAnakinra及びCanakinumabによる発作の消失例が報告されている。
5.予後
最も重要な合併症はアミロイドーシスであり、約15%に認められる。その他、筋膜炎、心外膜炎、血管炎、多発性硬化症などの合併が報告されている。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
100人未満(研究班による)
2.発病の機構
不明(TNFRSF1A遺伝子異常が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(数週間から数年の周期で症状を繰り返す。)
5.診断基準
あり(研究班が作成する診断基準)
6.重症度分類
研究班作成のものを用い、重症例を対象とする。
○ 情報提供元
「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」研究班
研究代表者 京都大学大学院医学研究科 発達小児科 教授 平家俊男
<診断基準>
TRAPSと「診断確定」、「診断」したものを対象とする。
○TRAPS(TNF受容体関連周期性症候群)診断基準
・必須条件
6か月以上反復する以下のいずれかの炎症症候の存在(いくつかの症状が同時に見られることが一般的)
(1)発熱
(2)腹痛
(3)筋痛(移動性)
(4)皮疹(筋痛に伴う紅斑様皮疹)
(5)結膜炎・眼窩周囲浮腫
(6)胸痛
(7)関節痛、あるいは単関節滑膜炎
・補助項目
1)家族歴あり
2)20歳未満の発症
3)症状が平均5日以上持続(症状は変化する。)
診断のカテゴリー
必須条件を満たし、補助項目の2つ以上を有する症例をTRAPS疑い例とする。なお、全身型若年性特発性関節炎、あるいは成人スチル病として治療されているが慢性の持続する関節炎がなく、かつ再燃を繰り返す例もTRAPS疑いに含める。
TRAPS疑いのものについて、TNFRSF1A遺伝子解析を行い、
・疾患関連変異*1がある場合は、「診断確定」
・疾患関連*1が不明な変異がある場合は、他疾患を十分に除外*2した上でTRAPSと「診断」する
・変異なし、又は疾患関連がない変異の場合はTRAPSとは診断できない
*1 疾患関連変異とは疾患関連性が確定された変異をさす。疾患関連性の判断に関しては専門家に相談する。
*2除外診断が必要な疾患のリスト
若年性特発性関節炎、成人型スチル病、クリオピリン関連周期熱症候群(Cryopyrin-associated periodic syndrome)、高IgD症候群(Hyper IgD syndrome:HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(Mevalonatekinase deficiency:MKD)、家族性地中海熱、PFAPA症候群(periodic fever, aphthousstomatitis, pharyngitis and cervical adenitis syndrome:周期性発熱、アフタ性口内炎、咽頭炎、リンパ節症候群)
<重症度分類>
重症例を対象とする。
重症例の定義:
・頻回の発熱発作のためステロイドの減量中止が困難で生物学的製剤の投与を要する症例を満たすものとする。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 専門医診療機関・コンサルト先の情報源として , 自己炎症疾患友の会 (http://autoinflammatory-family.org/)が存在する。稀少疾患であり診断・治療にあたっては専門医にコンサルトすることが望ましい。自己炎症性疾患関連遺伝子変異データベースとしてInfevers(https://infevers.umai-montpellier.fr/web)が有用である。
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- 文献
研究班名 | 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月) |