ミトコンドリア病(指定難病21)

みとこんどりあびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

ヘテロプラスミーって何ですか?

一つの細胞の中には、数百の ミトコンドリア があり、そのひとつひとつのミトコンドリアの中に5〜10個のミトコンドリアDNAが存在しています。実際に患者さんに存在する 変異 (変化した)ミトコンドリアDNAを調べてみると、一つの細胞のなかで、正常なミトコンドリアDNAと一緒に存在しています。このような状態を、ヘテロプラスミーと呼んでいます。一方、細胞の中のミトコンドリアDNAが一種類である時(正常の場合も変異の場合もある)は、ホモプラスミーと呼んでいます。
ヘテロプラスミーは、ミトコンドリア病がどうして起こるのかを考える上で、大切な性質です。ヘテロプラスミーの度合い(変異と正常の比率)は、個々の細胞ごと異なっていることが、患者さんの骨格筋や血管、髪の毛の研究から明らかにされています。つまり、ミトコンドリア異常がみられる細胞では変異ミトコンドリアDNAの比率が高く、それ以外の細胞(正常に働いているようにみえる細胞)ではその比率が低いのです。
さらにいうと、低い比率の変異ミトコンドリアDNAをもっていても細胞はまったく正常に働くことが、培養細胞の実験で確かめられています。変異ミトコンドリアDNAをもっていることは、必ずしも病気であることとは同義ではありません。診療で用いられるミトコンドリアDNA検査は、上に述べたような個々の細胞のヘテロプラスミーを調べているわけではなく、検査に用いた組織全体の平均値をみているだけです。

ミトコンドリア病の診断には、必ず筋生検が必要ですか?

ミトコンドリア病の診断において、筋生検は重要な検査の一つです。ミトコンドリア病であるかどうかの判断の情報が得られることに加えて、どの代謝経路の 酵素 活性が低下しているのか、脂肪代謝への影響はあるのかなど、治療薬選択の情報にもなりうることがあるからです。
しかし、現在は遺伝子の検査が非常に進歩しており、ミトコンドリア病の診断においても、病気の原因となる遺伝子の変化を検出することが重視されています。筋生検をしなくても、血液検査による遺伝子検査で診断が可能な場合が多くなっています。また、酵素活性測定などの生化学的検査も、筋生検より侵襲の少ない皮膚生検によって得られた細胞で可能なこともあります。
一方、筋肉の病気が疑われ、筋生検をして初めてミトコンドリア病と診断される場合もあります。特に筋肉の症状がある場合には、負担の少ない検査で診断がつかない際には、筋生検を検討すると良いと思います。また、検出された遺伝子の変化が本当に病気の原因かどうかを確認するために、筋生検が必要になる場合もあります。
今後、技術の進歩によって、より臨床的に有用性の高い診断方法が開発されるものと予想されます。また同時に、より適切な治療法の開発と合わせ、早期診断・早期治療の医療が実現できることが期待されます。

1歳のこどもがリー脳症と診断されました。これからどうなるでしょうか?

リー脳症は、臨床症状に加えて、特徴的な脳画像所見、血液や髄液中の乳酸値が高いことから病名が付けられます。しかし、その原因は多種多様であって、核DNA上のいろいろな遺伝子の変異でも、ミトコンドリアDNAの変異でもおきます。現在できるさまざまな検査を行っても約半数の方々が、遺伝子レベルの原因が突き止められていないというのが現状です。そこで、核DNA上の遺伝子すべてを調べるという検査が行われています。近い将来には多くの患者さんの原因がわかる時代が来ると思います。一方、原因と同様に臨床経過も一定でなく、急激に悪化する場合、ゆっくり進む場合、中には症状が軽減する場合もあります。したがって、リー脳症と診断されても、その後の状況を予測することはなかなか困難です。栄養や睡眠、感染などに注意しながら、症状に対する治療を行い、慎重に経過を診てゆくことが大事です。

ミトコンドリアに効果があるという市販のタンパク製剤などを飲ませていいでしょうか?

現在のところ、タウリンとL-アルギニン塩酸塩以外に、ミトコンドリア病に対して日本の保険診療で使用が認められている薬剤はありません。いろいろなものを試したいというお気持ちはわかります。しかし、市販の栄養補助剤などにはどのような成分が入っているか不明の場合がありお勧めできません。どうしても使用したい場合は担当医に相談していただければと思いますが、劇的に効果があるものはなく、日常の栄養バランスや生活リズムを整えることがもっとも重要です。

出生前診断は可能でしょうか?

遺伝子検査で原因が確定した患者さんが家系内にいらっしゃる時に、可能な場合があります。いろいろな原因があるために遺伝様式もさまざまですし、技術的な限界や注意することを理解したうえで、倫理的な配慮も必要になります。したがって、担当医に「 遺伝カウンセリング 」ができる施設を紹介していただくのがよいと思います。もし、お近くに相談できる施設がなければ、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院遺伝カウンセリング室(代表:042-341-2711、内線5824)までご相談ください。

 

情報提供者
研究班名 ミトコンドリア病の診療水準やQOL向上を目指した調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)