遺伝性周期性四肢麻痺(指定難病115)

いでんせいしゅうきせいししまひ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
発作性の骨格筋の脱力・麻痺を来す遺伝性疾患で、血清カリウム値の異常を伴うことが多い。発作時の血清カリウム値により低カリウム性周期性四肢麻痺と高カリウム性周期性四肢麻痺に分類される。
 
2.原因
骨格筋型カルシウムチャネルαサブユニット(CACNA1S)や骨格筋型ナトリウムチャネルαサブユニット(SCN4A)の遺伝子異常が原因となる。周期性四肢麻痺に不整脈(QT(QU)延長)と骨格奇形を伴うAndersen-Tawil症候群では、カリウムチャネル(KCNJ2KCNJ5)の遺伝子異常が原因となる。変異が見出せない例もあることから他にも原因遺伝子が存在すると考えられる。
 
3.症状
脱力発作の持続は1時間から数日まで、程度も下肢のみといった限局性筋力低下から完全四肢麻痺まである。発作頻度も毎日から生涯に数回までとかなり幅がある。顔面・嚥下・呼吸筋の麻痺はあまり見られず、感覚や膀胱直腸障害はない。高カリウム性は低カリウム性より程度も軽く持続も短い。一方、初回発作は低カリウム性が思春期頃であるのに対し、高カリウム性は小児期と早い。発作の誘発因子として、低カリウム性では高炭水化物食、運動後の安静など、高カリウム性であれば寒冷、運動後の安静などがある。特殊なタイプとして周期性四肢麻痺に不整脈(QT(U)延長)と骨格奇形を合併するAndersen-Tawil症候群がある。
高カリウム性では筋強直現象を臨床的にあるいは電気生理学的にしばしば認める。発作間欠期には筋力低下を認めないことが多いが、特に低カリウム性において進行性・持続性の筋力低下を示す例が存在する。
 
4.治療法
根本治療は無く、麻痺発作急性期の対症療法、間欠期の麻痺予防治療に分けられるが、十分な効果が得られないこともしばしばである。
麻痺発作時の急性期治療としては、低カリウム性ではカリウムの経口あるいは経静脈投与が中心となる。重度の麻痺発作では投与にもかかわらず、カリウム値の上昇が投与開始直後はなかなか見られないことが多い。高カリウム性では麻痺は軽度で持続も短いことが多いが、高カリウムによる不整脈、心停止に注意する必要がある。
麻痺の予防として低カリウム性及び高カリウム性の両方にアセタゾラミドが有効な例があるが、逆に無効や増悪例もある。その他に、低カリウム性では徐放性のカリウム製剤、カリウム保持性利尿薬、高カリウム性ではカリウム喪失性利尿薬なども用いられる。
 
 
5.予後
小児期から中年期まで麻痺発作を繰り返すが、初老期以降回数が減ることが多い。進行性・持続性の筋力低下を示す症例が少なからずあり、低カリウム性の約1/4に認められるとされる。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約1,000人
2.  発病の機構
不明(骨格筋型カルシウムあるいはナトリウムチャネル遺伝子異常によることが多いが発病機構は不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(幼少期から長期にわたり発作を繰り返し、一部は進行性の筋力低下を示す。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
持続性筋力低下についてはBarthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。持続性筋力低下を示さない症例は研究班作成の麻痺発作重症度において中等症以上を満たす場合に対象とする。
 
○ 情報提供元
「希少難治性筋疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東北大学 教授 青木正志
 
 
<診断基準>
 
1)又は2)のDefinite、Probableを対象とする。
 
1)遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺
診断のカテゴリー
Definite
①②③に加え⑥あるいは⑦を認め、除外診断を除外できること(①の項目を一部しか満たさない場合、④⑤を認めること)
 Probable
①②③④を認め、除外診断を除外できること(①の項目を一部しか満たさない場合、⑤を認めること)
 
① 以下の全ての特徴を持つ麻痺(筋力低下)発作を呈する。
意識は清明。
発作時血清カリウム濃度が著明な低値を示す。
呼吸筋・嚥下筋は侵されない。
発作持続は数時間から1日程度。
発作は夜間から早朝に出現することが多い。
激しい運動後の休息、高炭水化物食あるいはストレスが誘因となった発作がある。
② 発症は5歳から20歳。
③ 発作間欠期には、筋力低下やCK上昇を認めない。
④ 針筋電図でミオトニー放電を認めない。
⑤ 発作間欠期にProlonged exercise test(運動試験)で振幅の漸減現象を認める注1
(麻痺発作時の臨床的観察ができていない場合には有用。)
⑥ 常染色体性優性遺伝の家族歴がある。
⑦ 骨格筋型カルシウムあるいはナトリウムチャネルαサブユニットの遺伝子に本疾患特異的な変異を認める注2
 
除外診断  二次性低カリウム性周期性四肢麻痺の原因となる下記疾患の鑑別が必須。
甲状腺機能亢進症
アルコール多飲
カリウム排泄性の利尿剤 カンゾウ(甘草)の服用
原発性アルドステロン症、バーター(Bartter)症候群、腎細尿管性アシドーシス
慢性下痢・嘔吐
 
参考事項

  •   女性は男性に比べ症状が軽いことが多く、遺伝歴が見逃されることがある。
  •   発作からの回復期にはむしろ血清カリウム値が一時的に高値を示すことがある。
  •   高カリウム性周期性四肢麻痺に比べ麻痺発作の程度は重く、持続も長い。
  •   発作間欠期には筋力低下を認めないが一部に進行性に軽度の筋力低下を示すことがある。
  •   筋生検は診断のために必要ではないが、空胞、tubular aggregateを認めることがある。
  •   特殊なタイプとして低カリウム性周期性四肢麻痺に不整脈、骨格変形を合併するAndersen-Tawil症候群がある。(原因遺伝子は、内向き整流カリウムチャンネル)

 
注1 Prolonged exercise testについて
典型的な麻痺発作が確認出来ない症例では、Prolonged exercise testによる麻痺の再現が有用である。長時間運動負荷(15~45秒ごとに3~4秒の短い休息を入れながら、2~5分間の負荷)後に最初は1~2分毎、その後は5分毎に、30~45分にわたってCMAPを記録する。一般に40%以上のCMAP振幅・面積の低下がある場合異常と判定されるが、人種差が指摘されており注意を要する、(臨床神経生理学 2001; 29: 221-7、Ann Neurol 2004; 56: 650-661など参照)
 
注2 本疾患特異的な変異
骨格筋型ナトリウムチャネルαサブユニットの遺伝子(SCN4A)の変異によっては、低カリウム性周期性四肢麻痺のみならず高カリウム性周期性四肢麻痺、先天性筋無力症候群などの原因ともなる。低カリウム性周期性四肢麻痺を呈するSCN4A遺伝子の代表的変異として、p.Arg669Hisやp.Arg672Cys/Gly/His/Serなどがある。
 
2)遺伝性高カリウム(正カリウム)性周期性四肢麻痺
診断のカテゴリー
Definite
①②③に加え⑥あるいは⑦を認め、除外診断を除外できること(①の項目を一部しか満たさない場合、⑤を認めること。)。
Probable
①②③④を認め、除外診断を除外できる(①の項目を一部しか満たさない場合、⑤を認めること。)。
 
① 以下のすべての特徴を持つ麻痺(筋力低下)発作を呈する。
意識は清明
発作時血清カリウム濃度が高値あるいは正常を示す。
呼吸筋・嚥下筋は侵されない。
発作持続は数10分から数時間程度
寒冷、果物など高カリウム食の摂取、空腹あるいは安静(不動)が誘因となった発作がある。
② 発症は15歳まで。
③ 発作間欠期には通常筋力低下を認めない。 
④ ミオトニーを認める 1)あるいは2) 
1)臨床的にミオトニー現象(筋強直現象)を認める。
(具体例)
眼瞼の強収縮後に弛緩遅延がみられる(lid lag)。
手指を強く握った後に弛緩遅延が認められる(把握ミオトニー)。
診察用ハンマーで母指球や舌などを叩くと筋収縮が見られる(叩打ミオトニー)。  
なお、ミオトニーの程度は、軽い筋のこわばり程度で気づきにくいものもある。
繰り返しでの増悪(パラミオトニー)、寒冷での悪化を認めることがある。
2)針筋電図でミオトニー放電を認める
⑤ 発作間欠期にProlonged exercise test(運動試験)で振幅の漸減現象を認める注1
(麻痺発作時の臨床的観察ができていない場合には有用。)
⑥ 常染色体性優性遺伝の家族歴がある。
⑦ 骨格筋型ナトリウムチャネルのαサブユニットの遺伝子に本疾患特異的な変異を認める注2
 
除外診断  二次性高カリウム性周期性四肢麻痺の原因(カリウム保持性の利尿薬、アジソン病、腎不全など)及び他のミオトニーを呈する疾患(筋強直性ジストロフィーや先天性ミオトニーなど)。
 
参考事項

  •   先天性パラミオトニー、カリウム惹起性ミオトニー(ナトリウムチャネルミオトニー)と症状がオーバーラップする疾患である。それぞれの特徴・鑑別などについては非ジストロフィー性ミオトニー症候群の診断基準を参照。
  •   発作時に筋痛を伴うことがある。
  •   発作からの回復期にはむしろ血清カリウム値が一時的に低値を示すことがある。
  •   低カリウム性周期性四肢麻痺に比べ麻痺発作の程度は軽く、持続も短い。
  •   発作間欠期には筋力低下を認めないがCK上昇は認めることがある。一部に進行性に軽度の筋力低下を示すことがある。
  •   筋生検は診断のために必要ではないが、空胞、tubular aggregateを認めることがある。

 
注1 Prolonged exercise testについて
典型的な麻痺発作が確認出来ない症例では、Prolonged exercise testによる麻痺の再現が有用である。長時間運動負荷(15~45秒ごとに3~4秒の短い休息を入れながら、2~5分間の負荷)後に最初は1~2分毎、その後は5分毎に、30~45分にわたってCMAPを記録する。一般に40%以上のCMAP振幅・面積の低下がある場合異常と判定されるが、人種差が指摘されており注意を要する(臨床神経生理学 2001; 29: 221-7、Ann Neurol 2004; 56: 650-661など参照)。
 
注2 本疾患特異的な変異
骨格筋型ナトリウムチャネルαサブユニットの遺伝子(SCN4A)の変異によっては、高カリウム性周期性四肢麻痺のみならず低カリウム性周期性四肢麻痺、先天性筋無力症候群などの原因ともなる。高カリウム性周期性四肢麻痺を呈するSCN4A遺伝子の代表的変異として、p.Thr704Metやp.Met1592Valなどがある。
 
 
 
<重症度分類>
非発作時における持続性筋力低下についてはBarthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。持続性筋力低下を示さない症例やBarthel Indexで86点以上の症例は研究班作成の麻痺発作重症度において中等症以上を満たす場合に対象とする。

 
○麻痺発作重症度  (最低6か月の診療観察期間の後に判定する。)
軽症
歩行に介助を要する状態が1時間以上続く麻痺発作のあった日が、平均で月に1日未満
中等症
歩行に介助を要する状態が1時間以上続く麻痺発作のあった日が、平均で月に1日以上
重症
歩行に介助を要する状態が1時間以上続く麻痺発作のあった日が、平均して月に4日以上

 
○機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 
 

平成27年7月1日

    1. 筋チャネル病および関連疾患の診断・治療指針作成および新規治療法開発に向けた基盤整備のための研究班
      http://square.umin.ac.jp/channel/index.html
    2. 久保田 智哉、古田 充、高橋 正紀、家族性高カリウム性周期性四肢麻痺;新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;217-221.
    3. 久保田 智哉、古田 充、高橋 正紀、家族性低カリウム性周期性四肢麻痺;新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;222-228.
    4. 穀内 洋介、高橋 正紀、不整脈を伴う周期性四肢麻痺(Andersen症候群);新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;229-232.
    5. Gene Review Japan 低カリウム性周期性四肢麻痺(Hypokalemic Periodic Paralysis)
      http://grj.umin.jp/grj/hokpp.htm
    6. Gene Review Japan 高カリウム性周期性四肢麻痺1型(Hyper kalemic Periodic Paralysis Type 1)
      http://grj.umin.jp/grj/hyperpp1.htm
    7. Sasaki R, et.al. Mutation spectrum and health status in skeletal muscle channelopathy in Japan. Neuromuscul Disord. 2020 Jul:30(7):546-553. doi: 10.1016/j.nmd.2020.06.001.
    8. 厚⽣労働省 難治性疾患政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
      筋チャネル病・遺伝性周期性四肢麻痺・非ジストロフィー性ミオトニー症候群診療の手引き
      https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/syounin_03.pdf
情報提供者
研究班名 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和6年6月)